宗門改しゅうもんあらためをはじめた日テレの愚かさ
日本テレビのバラエティー番組「世界の果てまでイッテQ!」が2月2日、放送内容を突然変更した。当日は韓国で1960年代から活動しているリトルエンジェルス芸術団を取材した番組を放映するはずだったが、同団が旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と関係があるとわかったため内容を変更したのだ。
リトルエンジェルス芸術団が韓国において認知度だけでなく評価が高い民族芸術団であるのは自明であり、同時に韓国における世界平和統一家庭連合の位置付けも端的に表している。
そしてリトルエンジェルス芸術団について説明するウイキペディアの、「米国のニクソン大統領などの世界各国の国家元首、イギリスの王室・エリザベス2世、日本の皇族の前で公演している。」という記述は事実である。これら要人は騙されて舞台を鑑賞したのではなく、小中学生の少女たちによる韓国の民族芸術公演となれば、リトルエンジェルス芸術団が筆頭もしくは外せない存在だったというだけだ。
このように評価されている同団だけに、長じてから芸術や芸能分野へ進む出身者がいてもまったく不思議ではない。世界平和統一家庭連合はリトルエンジェルス芸術団以外にも団体や学校を運営しているので、さまざまな分野に出身者や卒業生がいる。日本でも、創価学会が運営する団体や学校と関係している人が無数にいるのを想像してもらいたい。
日本に限定する必要はないともいえ、世界平和統一家庭連合も創価学会も世界中で布教活動を行い、社会活動を展開しているので、日本人、韓国人に限らず信者や関係者が各国にいる。
リトルエンジェルス芸術団を取材した番組の放映を見合わせた日本テレビは、事実関係を同団に問い合わせるそうだが、問い合わせが踏み絵であるのを自覚していないところに彼らの人権感覚の欠如が端的に表れている。これから国籍を問わず、分野を問わず番組で扱う人々に、日本テレビは「宗門改」の踏み絵調査をするのだろう。そうでなければ、リトルエンジェルス芸術団への対応と矛盾する。
(以下、区別が必要な箇所以外は教団名を旧統一教会とする)
どの宗教の信者なら出演できるのか
日本テレビや反カルトを掲げる人々に、あいつは統一教会の信者だから論考を読む価値なんて無いと言われては発言の機会が奪われてしまうので、私の菩提寺は浄土宗であると表明しておかなければならないかもしれない。こうして人々は踏み絵を強要されるようになる。
これからテレビ局がK-POPタレントや韓国映画の俳優だけでなく、プロダクションや制作関係者に宗門改を始めるのだろうし、国籍を問わずどの宗教の信者ならテレビに出演してよいのか彼らなりに決まり事を定めるのだろう。
私の浄土宗は許されるのか、他の宗教の信者を拉致監禁して強制棄教させてきたことを問題視されているキリスト教プロテスタントの一派はよいのか、何かと取り沙汰されているエホバの証人は、幸福の科学は、手かざしをする崇教眞光は、政治と強い結びつきがある創価学会は、ときりがない。
旧統一教会追及が激しかったとき、自民党の議員は教団と関係が濃く、野党議員たちは淡いと紀藤正樹弁護士が独自の解釈を語っていたが、これから始まる宗門改でも彼が同じような理屈で宗教を分類するかもしれない。当時はテレビも新聞も紀藤氏の濃淡論をすんなり受け入れたのだ。
鈴木エイト氏が日本テレビの『24時間テレビ 「愛は地球を救う」』に出演予定だったタレントグループを信者とほのめかしていたため、この人たちが出演を辞退せざるをなくなった出来事もあった。なおタレントのマネジメント会社は信者ではないと否定したが、未だネット上にはグループ名と顔写真を添えて信者と断定する情報が放置されたままになっている。こうした暴露や人権侵害に、日本テレビは正当性を与えたのだ。
既存宗教と分類されるもの以外を信仰しているアーティストやタレントは多く、高い評価を得ている人も少なくない。
アパートのチャイムをしつこく鳴らされ、根負けしてドアを開けると一世を風靡していた“あの”女性アーティストが立っていて宗教を布教されたことがあったと経験を語る中央線沿線の人々がいる。後に、この著名人が棄教していたとしても、非信者証明書などというものはないので信者のレッテルを貼られテレビ放送からパージされるかもしれない。あの人が、すべてを失うのだ。
筋が悪いマスコミのやり方
安倍晋三元首相暗殺事件から旧統一教会追及がはじまったとき以来、私は報道のおかしさを指摘してきた。『情報ライブ ミヤネ屋』で司会の宮根誠司氏は、番組制作スタッフの中に旧統一教会の信者がいないか調査する必要があるという趣旨の発言をしたが、扇情的なワイドショーだけでなく報道番組や新聞までが信者の人権や信教の自由をないがしろにした。これを問題視したのは教団関係者と、私と数人のもの言う部外者だけだった。
このとき私たちは、それぞれの立場からマスコミの筋が悪いやり方は対旧統一教会に限らぬ問題を生み出すと指摘してきた。なぜならマスコミが自らの甚だしい二枚舌と矛盾から目を逸らして、旧統一教会を利用した政権批判に酔いしれていたからだ。「何が悪いのか」「それでどうなったのか」を報道しないまま、人権や正義をまくしたてて教団だけでなく信者をも迫害していたので、後々整合性が取れなくなり、何をやっているか彼ら自身がわからなくなって当然だった。
「世界の果てまでイッテQ!」は複数の制作会社が持ち回りで番組をつくり、これを日本テレビが放送している。制作会社とテレビ局は何事においても場当たり的であるため、韓国の伝統芸能を伝承している少女たちがいると理解しただけで企画が通り、制作が進行したものと思われる。リトルエンジェルス芸術団と打ち合わせをしているときか、取材中に同団の背景を知ったのは間違いないと思われるが、制作が進行しているため制作会社は日本テレビ側へ事情を打診できなかったのだろう。
もし最初からリトルエンジェルス芸術団の背景を知っていても、旧統一教会との関係と直結する映像を流さなければ視聴者に勘付かれず、放送してしまえば番組は消えてなくなると考えたはずである。なぜなら、これがテレビ局と制作会社の番組作りへの昔から変わらぬ意識であり、彼らの体質だからだ。
旧統一教会についての自社の姿勢より、番組枠を埋めて滞りなく放送を終えることのほうが重要だった。だが世間にリトルエンジェルス芸術団と旧統一教会との関係を知られてしまい、なぜ放送したのかを説明できないため大慌てで番組を差し替えたといったところだろう。教団と政権を追及したとき「何が悪いのか」「それでどうなったのか」を説明できなかったテレビ局が、リトルエンジェルス芸術団を紹介する番組を制作して放送する理由を説明できるはずがないのである。
そして二枚舌と矛盾だらけの宗教弾圧が、今度は辻褄合わせのために宗門改へと踏み込んで行こうとしている。
彼らを不可触民扱いして何が起こったか
鈴木エイト氏が二世信者とほのめかしたため、アイドルグループは番組を降板せざるを得ず、マネジメント会社が否定したものの信者と断定する情報がネット上に残されたままになった。鈴木氏はボランティア活動をする男性信者の実名を講演会で暴露したこともあった。そして、これらを嗜めたり批判する人権団体はなかった。
旧統一教会を利用した政権追及キャンペーンは、信者を不可触民扱いするように同調圧力を高める政治的、社会的な運動だった。政治家の秘書に信者がいないか調査して追い出せ、公職から追放しろと叫ばれたのを多くの人が記憶しているはずだ。
私が取材した信仰を継承していない旧統一教会二世で地方公務員の男性は、彼が働く自治体で統一教会との関係調査が行われるのではないかと怯え精神を病んで、未だに治療中だ。さすがに自治体の行政組織で信仰調査が行われた例はない様子だが、複数の人が「統一教会との関係」について注意喚起するお知らせが職場で配られたと証言している。
取引先からズブズブをどう思う、壺をどう思うなどと信仰調査をされたと語る信者がいる。取引を断られたり、入札やコンペから排除された人がいる。幼稚園のバザーに参加するなと言われた人がいる。教団系の保険証を出したら医療機関から治療を断られた人がいる。自動車の購入を断られた人がいる。こうした弾圧を苦にして自殺した人がいる。
旧統一教会追及や政権追及と称して世界平和統一家庭連合を弾圧して信者の不可触民化に成功したのだから、他の宗教団体だけでなく特定の属性を持つ集団や団体を同じ手法で壊滅させるのは難しくないと知れ渡った。そして、この手法は斎藤元彦氏追及やフジテレビ問題にも、似た顔ぶれによって使用されている。
いったい誰が正義酔いの後始末をするのか。テレビ局は反省しないまま、さらなる差別、さらなる人権侵害へ踏み込んで行こうとしている。
編集部より:この記事は加藤文宏氏のnote 2025年2月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は加藤文宏氏のnoteをご覧ください。