貨幣に対する信用の「裏切りの歴史」は繰り返されるのか?

日本橋本石町にある日本銀行本店の向かいに「貨幣博物館」があります。貨幣の専門家の方に解説をお願いして、私が主宰する投資家コミュニティのメンバーと一緒に見学に行ってきました。

過去から現在に至るまでの日本国内を中心とした貨幣の歴史が膨大なコレクションと共に展示されており、圧巻の内容でした。しかし、貨幣の歴史を振り返るとその価値の源泉が極めて脆弱なものであることを再認識します。

例えば、第2次世界後に1トロイオンス=35米ドルに固定されていたドルと金の交換レートは、アメリカのニクソン大統領が1971年8月15日に交換停止を発表し、その後為替市場は変動相場制に移行していきます。

金の価格は35ドルだったものが、現在では2,386.20ドル(2024年の平均価格)まで上昇しています。

つまり金の価格は米ドルで見ると68.2倍になっているのです。

円で見ても固定相場制の時が1万2600円だったのが2024年の平均値で計算すると36万4200円ですから、28.9倍です。

このように金の価格が大幅に上昇しているように見えますが、見方を変えるとドルや円といった法定通貨の価値が下落していると考えることもできるのです。

もし金もドルや円と同じように通貨の1つだと仮定すると、1,000ドル=28.5だった交換レートが1000ドル=0.419という極端な「金高ドル安」になったとみなすこともできます。

現在の各国の法定通貨は不換紙幣であり、金貨などの本位貨幣との兌換が保障されていない紙幣(fiat money)なので、仕組み上は制限なく発行することができます。発行量が増えれば需給の関係から法定通貨の価値は金や他の実物資産に対して下落します。

中央銀行が法定通貨の番人として価値の毀損を防止するための金融政策を講じる訳ですが、貨幣の歴史とはその信用が裏切られてきた繰り返しでもある。そのことが貨幣の歴史からよくわかります。

三菱UFJ銀行の貸金庫事件で信用というのが脆くはかないものであることが明らかになりました。貨幣博物館で信用について歴史から学ぶことができたのは大きな収穫でした。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年2月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。