安倍の後継者のごとくトランプに偽装した石破首相

首相官邸HPより

石破首相の訪米は成功したのかと問われれば、危惧されていた事態を基準とするならば、満点なのだろう。

トランプが機嫌を損ねることもなく、無理難題を押しつけられることもなかった(のだろう)。特別な個人的関係を築けたようには見えないが、そこまで望む必要はない。ただし、あまりにもマナーが悪いと対トランプよりも世界に対して恥ずかしく、サミットが心配だが、それは別の問題である。

この成功の背景には、これ以上ないほどの大盤振る舞いとお世辞、外務省の入念な準備、そして長年にわたり安倍元首相に対して続けてきた批判的姿勢を封印し、むしろ長年の同志であるかのように位置づけて活用したことがある。

しかし、こうしたごまかしが続くかどうかは不透明だ。石破首相は昭恵夫人に対する長年の非礼を詫び、人事面でも融和を図るべきである。それをしない限り、今回の持ち上げ方の反動がいずれ訪れるだろう。

また、10兆円もの投資や天然ガスの購入が日本経済にのしかかる負担は大きい。日本の防衛についてトランプ氏から約束を取り付けたものの、その対価としての負担は免れない。

読売新聞は『「シンゾーは偉大な友人」と悼んだトランプ氏、会見中に5度言及…「安倍氏の『遺産』で成功」見方も』と報じたが、まるで安倍氏が第三の出席者としてそこにいたかのような印象を与える要素がいくつかあった。

「シンゾーは偉大な友人」と悼んだトランプ氏、会見中に5度言及…「安倍氏の『遺産』で成功」見方も
【読売新聞】 【ワシントン=太田晶久】米国のトランプ大統領は今回の日米首脳会談の日程を通じ、2017~21年の第1次政権時に蜜月関係を築いた安倍晋三・元首相に再三、言及した。政府内には「安倍氏の『遺産』が会談を成功に導いた」(高官)
  • トランプ氏は会談の冒頭で安倍氏の銃撃事件に触れ、「シンゾーは偉大な友人だった。あれほど悲しかったことはない」と悼んだ。
  • 共同記者会見でも、日本の防衛費増加について「私はシンゾーと一生懸命取り組んだ」と振り返るなど、約40分間で5度も安倍氏の名前を口にした。
  • トランプ氏は石破首相について「本当に尊敬しています。ずっと前からその評判は聞いていました」と述べた上で、「安倍晋三元首相は石破氏のことを高く評価していました。首相として素晴らしい仕事をなさるでしょう」と語った。しかし、安倍元首相が石破氏を高く評価していたとは考えにくく、「君のことをシンゾーからいろいろ聞いていたけれど、ここではシンゾーが褒めていたことにしておこう」という皮肉だった可能性がある。
  • トランプ氏は「(石破首相は)非常に強い方です。それほど強くない方が私はよかった。もう少し弱い総理の方が良かったが、日本の総理はいつも強い」と述べ、「偉大な総理大臣になるでしょう」とも語った。また、「私も石破首相ほどハンサムだったらよかった」と発言したが、お世辞にしては不自然で、皮肉とも取れる。
  • 会談では、安倍氏の英語通訳を務めた外務省の高尾直・日米地位協定室長が通訳を担当した。高尾氏はトランプ氏から「Little Prime Minister(小さな首相)」と呼ばれるなど親しまれており、石破首相の発言を安倍元首相風にアレンジして伝えた可能性がある。どうせ石破氏には分からない。
  • 石破首相は、トランプ氏が昨年12月、安倍氏の昭恵夫人をフロリダ州の邸宅「マール・ア・ラーゴ」に招待したことに触れた。昭恵夫人の希望で「PEACE(平和)」と直筆した写真集が贈呈され、石破首相は「非常に感銘を受けた」と語った。
  • 首相はまた、トランプ氏と「蜜月関係」を築いた安倍元首相に言及し、昭恵夫人を通じて受け取った書籍について「ピースと書かれてあり、非常に感銘を受けた」と語った。
  • 日本製鉄によるUSスティール買収の出資への切り替えは、巨額の賠償金を回避するための経営責任対策になるだろう。しかし、過半数の株式を取得できたとしても、完全子会社化と同じ条件で進めれば大きな損失を被る可能性がある。協力内容も見直すべきだ。
    そのうち、ルノーに対する日産のクーデターのようなことが起こるかもしれない。再建に成功したら外国資本を排除するのかと批判されるだろうが、日産もルノーを追い出した過去があるため、日本側に反論の余地は少ない。先日、ゴーン元会長の片腕だったケリー被告の控訴が棄却されたが、ケリー氏は米国では不当逮捕された英雄と見なされている。

いずれにせよ、石破首相はひたすらトランプの機嫌を取り、自らが安倍元首相の後継者であるかのように装うことで窮地を脱した。

石破首相は南米訪問後にトランプと会談を希望したが、最初は断られ、昭恵夫人の仲介で実現の可能性が出たものの、準備不足で実現しなかった。それにもかかわらず、昭恵夫人に礼を述べたという話は聞かれない。

それどころか、安倍元首相に近い人々を冷遇し続けている。森友事件の文書開示に関する上告をしないことを首相自身が決断したというが、これは昭恵夫人に対する嫌がらせと考えられる。

それにもかかわらず、トランプとの会談では安倍元首相をフルに活用しており、ちぐはぐな印象を与える。トランプを日本に招待したらしいが、もしトランプが安倍元首相の墓参を希望した場合、石破首相は同行するのか。それとも事前にお詫びに行くのだろうか。