レバノンでヒズボラ排除した新政府誕生

レバノンでナジブ・ミカティ暫定政権に代わってハーグの国際司法裁判所(ICJ)所長だったナワフ・サラ―ム氏を首班とした新政府が発足した。サラーム新首相は8日、新内閣を明らかにした。政府代表によると、イスラム教シーア派過激派民兵組織ヒズボラとその同盟者の代表はその中に入っていないという。

レバノンの国旗、レバノン大統領府公式サイトから

新首相に就任したサラーム氏はテレビ演説で「新政府は改革と救済を目標している。国民の信頼だけでなく、国際社会や近隣アラブ諸国の信頼も回復したい」と表明している。専門家とテクノクラート内閣と言われる新政府は、政治の安定と悪化する国内経済の回復に重点を置く。

レバノンでは、宗派比例システムだ。首相はスンニ派イスラム教徒、大統領はマロン派キリスト教徒、国会議長はシーア派イスラム教徒と3権が宗派によって分けられている。サラ―ム新首相はスンニ派だ。

レバノンはミカティ暫定政権下で過去2年間政治的麻痺状況にあった。今年に入り対立していた政党がジョセフ・アウン大統領とサラーム新首相の就任で合意できた経緯がある。関係者らによると、新体制はレバノンの政治の方向性を決めるもので、イスラム過激派ヒズボラにとって大きな後退を意味する。ちなみに、ヒズボラは民兵組織であるだけでなく、政党であり、イランから軍事支援を受けてきた。

米国の中東担当副特使モーガン・オルタガス氏は7日、レバノンでアウン大統領との会談後、「ヒズボラとその同盟国は新政権で役割を果たすべきではない」と強調。シーア派民兵組織の役割については、「米国はヒズボラに対して明確な一線を敷いた。それによって、ヒズボラがレバノン国民を圧制することができなくするためだ」と語った。

アウン大統領の事務所によると、大統領は24人の閣僚からなる政府の樹立を要請し、1月中旬の議会投票でサラーム氏に明らかに敗北した暫定政府指導者ミカティ氏の辞任を受け入れたという。

レバノンの親政府発足について、国連レバノン担当特使のジャニーン・ヘニス・プラスシャールト氏は「今日の政府樹立はレバノンにとって新たな明るい省の到来を告げるものだ」と歓迎している。

レバノンの国民経済と財政危機は深刻だ。国際通貨基金(IMF)によると、「レバノンでは4年近くにわたる経済破綻により、自国通貨の価値の約98%を失い、国内総生産(GDP)は40%縮小し、インフレ率は3桁に達し、中央銀行の外貨準備の3分の2が流出した」という(アラブニュース2023年6月30日)。

新型コロナウイルスの感染拡大、ベイルート湾大爆発事故(2020年8月4日)、金融危機と立て続きに試練に直面したレバノンでは、国民の生活状態は悪化し、政府の無能と腐敗に抗議する大規模デモが一時起きたが、ポスト・コロナに入り、国民の間では政府に抗議して立ち上がるといった動きはなかった。そのような中、パレスチナ自治区ガザを支配してきたイスラム過激派テロ組織「ハマス」が2023年10月7日、イスラエルを奇襲テロした後、レバノンのヒズボラがハマスに連携してイスラエルに攻撃を再開し、レバノンの政治・経済情勢は一層悪化してきた。

なお、イスラエル軍とヒズボラの間で11月27日以来、停戦が続いている。イスラエル軍は当初、60日以内に南レバノンから段階的に撤退することになっていたが、軍の撤退期日は2月18日まで延長された。一方、ヒズボラは、リタニ川を越えた国境地域から撤退し、軍事基地を撤去しなければならない。その後は、レバノン軍と国連レバノン平和維持ミッション(UNIFIL)が停戦を監視することになっている。

しかし、イスラエル軍はレバノン南部に依然留まり、ヒズボラを攻撃している。イスラエル軍によると、ヒズボラは停戦協定に違反して武器を保管していたという。イスラエルとヒズボラ間の停戦合意の完全履行にはまだ時間がかかりそうだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年2月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。