NHKで「坂の上の雲」の再放送をしている。
前回、前々回は日露戦争の分岐点となった「203高地」を放送していた。死屍累々の惨敗を繰り返していた日本陸軍の最前線に、高橋英樹さん演ずる児玉源太郎が乗り込んで、参謀たちに作戦変更を命じる場面があった。最も印象的だったのは、クダクダと反論する参謀たちに、「諸君は昨日の専門家であるかもしれん。しかし、明日の専門家ではない。」と一喝した場面だった。
この一言は、まさに、今の日本の抱えている問題だ。コロナ対策の時は、昨日の専門家どころが、一昨日、あるいは、1か月前の専門家が、明日の日本、将来の日本を議論していた。
ひとたび203高地を奪ったにもかかわらず、援軍も補給もなく、頂上にいた40人の兵士は命を奪われた。日本の継続性のない科学政策などは、この悲劇のくり返しだ。
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太平洋戦争時、南太平洋でも、東南アジアでも、そして、硫黄島でも長期的な作戦もなく、後方支援もなく、多くの兵士が命を落としてしまった。参謀という名の現場を知らない人たち、古びた専門家が政策を決めているのは、203高地の再現だった。国の将来に対するビジョンもなく、危機的な状況でその場しのぎの愚策を続ければ、国が衰退するのは当然の帰結だ。
203高地を奪い、上から旅順港に引き籠っているロシア艦隊を叩き、遥々とやって来るバルチック艦隊を迎え撃つ。さらに諜報活動でロシア内部の崩壊を誘導する。こんなことをやり遂げた日本人がいたのだ。永田町や霞が関にここまで腹の据わった作戦を立てることのできる人材がいるのかどうか?悲しいことに、軽い言葉を操り、責任を取らない人たちが、203高地の悲劇を繰り返す。
今の日本には後がない。「皇国の興廃この一戦にあり」と真剣に考え、そして責任を取る覚悟のある「明日の専門家」が必要だ。
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編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2025年2月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。