医師会が「容認できない」と猛反発する「OTC類似薬」とは?

池田 信夫

日本維新の会が提案しているOTC類似薬の保険適用除外について、日本医師会が記者会見で「容認できない」と反論した。

OTC類似薬とは?

  • OTC類似薬は、市販薬(OTC医薬品)と効果やリスクがほとんど同じなのに処方箋が必要な医薬品。
  • 他国では医薬品のリスクレベルに応じて処方箋の要否を決定する仕組みが整備されているが、日本では基準が不明確。

OTC医薬品

維新の提案

  • 日本維新の会が新年度予算案に関する与党(自民・公明)との協議で、社会保険料の負担軽減策を提案。
  • 市販薬と同じ効能を持つ医薬品を公的医療保険の対象外とし、全額自己負担にする案。

日本医師会の反対意見

  • 経済的負担の増加:市販薬は価格が高く、特に経済的に困窮している人の負担が増す。
  • 適切な治療が受けられないリスク:軽微な症状でも医師の診断を受けることで重篤な病気の早期発見につながる。
  • 重症化の懸念:保険適用から外れることで、患者が自己判断で市販薬を使用し、適切な治療を受けずに病状が悪化する可能性がある。

処方してもらったほうが安いのか――具体例

風邪薬(総合感冒薬)
  • 市販薬:パブロンゴールドA(10日分)→ 約1300円
  • 処方薬:PL顆粒(10日分)→ 保険適用後(3割負担) 約800円
  • 診察代が500円以上なら、市販薬を買ったほうが安い。
胃薬(PPI系胃酸抑制薬)
  • 市販薬:ガスター10(12日分)→ 約1000円
  • 処方薬:ガスター(10日分)→ 3割負担 約500円
花粉症薬(抗ヒスタミン薬)
  • 市販薬:アレグラFX(14日分)→ 約1400円
  • 処方薬:アレグラ(14日分)→ 3割負担 約700円

市販薬は処方薬に比べて(3割負担の場合)2〜3倍程度の価格になることが多いので、医療機関を受診すれば処方薬の方が安くすむ。特に1割負担の後期高齢者は、確実に処方薬のほうが安い。

しかし3割負担だと診察代が高いため、病院まで行って処方薬を買うより、近所の薬局で市販薬を買うほうが安い場合も多い。

維新の提案内容

  • OTC類似薬を公的医療保険の適用外に:実施すれば医療費を年間3450億円削減可能と試算。
  • 社会保険料負担の軽減(年間1人あたり約6万円減少と試算)
  • 医療費負担の見直し(収入だけでなく金融資産も考慮)

医療用医薬品という区分を廃止——日本総研の提言

現行制度の問題

  • セルフメディケーションの阻害:患者はOTC類似薬を医療機関で処方してもらう方が、市販薬を薬局で購入するよりも自己負担が少なくなる。その結果、セルフメディケーション(自己治療)よりも医療機関受診が優先されてしまう。
  • 医療保険財政の圧迫:OTC類似薬の公的医療保険負担額は年間約1兆円(2021年度時点)に上る。
  • 医療保険制度の公正性の欠如:軽症の人が頻繁に医療機関を受診し、OTC類似薬の処方を受けることで、医療保険財政の不公平が生じる。
  • 医療用医薬品という区分の廃止:日本では処方箋医薬品とは別に医療用医薬品という根拠不明な区分がある。処方箋が必要かどうかはリスクの大きさで決まるが、医療用医薬品はメーカーの申請で決まる。この区分を廃止し、処方箋の必要ない薬はすべて市販薬に分類する。

懸念点

  • 患者の自己負担が増加する可能性:低所得者への負担軽減策が必要。
  • 薬の濫用や不適切な使用が増える懸念:薬剤師の指導強化が求められる。
  • 重篤な病気の見逃しリスク:例外的に公的医療保険の対象とするケースを設定。

医師会が反対する「本当の理由」

薬局で入手できる医薬品は処方の対象とせず、市販薬に再分類することで公的医療保険の負担が軽減できる。現在の制度では、患者が(診察代を含めると)安価な市販薬を選択しにくい状況が生まれており、これが医療費増加の一因となっている。

制度の見直しにより、セルフメディケーションの促進と保険財政の健全化が期待されるが、患者の自己負担増加や医療の質の低下を防ぐための対策も必要である。

医師会がOTC類似薬の保険除外に反対するのは、診察と処方を抱き合わせ販売してもうけるためだ。特に1割負担の後期高齢者の場合は確実に処方薬のほうが安いので、患者を囲い込んで診療報酬を長期にわたって受け取ることができる。これは湿布とも同じ構造である。