このブログを始めたばかりの頃、日本のデパートは時代の流れに沿っていないので大転換を図るべきだと何度か書かせて頂いた際、当時の三越伊勢丹の社長がこのコメント欄に書き込みをしてくれたのは実に印象的でした。百貨店の経営者にとって危機感そのものだったのだろうと思います。
なぜ日本の百貨店がだめになったか、それはデパートを支えた年齢層の方々と共にデパート経営そのものが歳をとってしまったからでしょう。バブルの頃は50代でお金もよく使ったし、物欲も満載でした。あれから35年。既にお亡くなりになった方もいますが、既に亡くなった百貨店も数知れず、であります。
池袋に三越があったのを覚えている方は少なくなったかもしれません。正直言って冴えないデパートだったのは池袋西武やパルコが目の前にある立地の中「ヤングな街」にたたずむ「おばあちゃんのデパート」は滑稽とも言える存在だったからでしょう。2009年に閉店したそのデパートの箱にそっくり乗り移ったのがLAVIヤマダ電機で旗艦店となり、ヤマダ電機が昇り竜であった当時、池袋の若者の動線は西武百貨店からLAVIに移ったともされます。そのとばっちりは西武の経営を真綿で絞める状態となり、百貨店経営の終わりを衆人の目にさらすことになります。
山手線の西側、つまり池袋、新宿、渋谷という巨大ターミナル駅に君臨するデパートは今、ことごとくその存在が変わりつつあります。池袋西武はヨドバシカメラ進出に伴い、百貨店面積は今の半分になります。駅の反対側の東武百貨店は西口再開発に伴い27年から30年にかけて閉店、解体されます。
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西武池袋本店SNSより
新宿は既に西口の小田急、京王百貨店が閉店され、再開発の真っただ中にあります。両百貨店とも再開発後に新しい百貨店にする可能性は少なく、新たにつくったとしても違う形になりそうです。渋谷は東急東横店と本店が解体され、そこには百貨店は出来ません。ちなみに名古屋駅前の名鉄百貨店もなくなります。私も名古屋に行くと時折名鉄の食品売り場で土産物を買っていたのですが、高島屋との格差があまりにもあった気がします。財布のひもは固いのに派手好きの名古屋レディは高島屋がお好き、ということなのでしょう。
さて、ターミナル駅に次々と建築される近代的高層ビルは果たして街づくりとしてどうなのか、という課題は出てくると思います。なぜかといえば近代的建物ほど作りが複雑で初めての人には迷路のようになるからです。
例えば六本木ヒルズ。特定のフロアに行くには特定のエレベーター、エスカレーター、そして建物の中ではつながっているけれど別棟となれば連絡通路がわからず、なかなか到達できないのであります。道路のナビはあれど、近代的ビルの中にテナント位置のナビはなく、結局めちゃくちゃ迷うというのがオチ。余談ですが池袋の三省堂書店も書店としてのレイアウトのひどさは日本一かもしれません。まるで迷路。そして店舗売り場がバラバラに存在し、買いにくさにおいては新宿紀伊国屋を凌ぐのは間違いありません。
さて、ターミナルシティの近代化は正直、楽しくないのです。たとえば渋谷駅前のマークシティも商業街と駅とホテルとオフィスが複雑に絡み合い、わかりにくさではぴか一でしょう。無機質で統一感がないのが渋谷総合開発で感じることです。
私がこの傾向に警鐘を鳴らすのは理由があります。それはお年寄りに優しくないのであります。これらのターミナルシティには人流があり、そのスピードはかなり速いのです。過半の目的地直行組に立ち止まる人やさまよう外国人、そして途方に暮れる人がバラバラになり、カオスとも言えるわけです。
巣鴨。おじいちゃんおばあちゃんの原宿と言われる理由は街の作りが単純、また高層ビルものなく、飲食店もせいぜい一階か、二階。これは必ずしも商店街を懐かしむ人々の憩いの場というだけではなく、わかりやすい、買いやすい、入りやすいという三拍子が揃っている点にあります。
デパートが無くなると誰が困るのでしょうか?中高年層の女性が「どこで洋服を買うの?」という疑問であります。専門店の敷居は高い、というより価格が高そう。スーパーの服じゃちょっと。まさかこの歳でユニクロというわけにもいかない…つまり、本来お金をもって消費してくれる人たちの消費喚起に結び付かない可能性があります。
先日、アメ横あたりをブラついていたのですが、実に楽しいのです。街が平面の中で納まっているワクワク感とはこのことなのでしょう。頭の良いデベロッパーは近代的で芸術的で最新のデザインを目指しますが、すべての人が必ずしもそれを求めているわけではない、その中でデパートは何が何でもダメではなくて、違う形で再生すべき発想があってもおかしくはないと思います。高級車で乗り付けて買い物する余裕の年金暮らしのご夫婦をわくわくさせることも大事だと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年2月19日の記事より転載させていただきました。