ショルツ独政権の通信簿はどうか

2021年12月8日、ドイツでショルツ首相主導の初の3党連立政権が発足した。党のカラーから信号機政権と呼ばれた。社会民主党(SPD)、環境保護政党「緑の党」、そしてリベラル派政党「自由民主党」(FDP)の3党からなる政権だ。

首相宣誓式に臨むショルツ氏2021年12月8日、連邦議会公式サイトから

178頁から成る連立協定にはショルツ政権の意気込みが記述されていた。新型コロナウイルスの感染下にあった欧州でショルツ政権は国民に向かって、「私たちは時代の転換期に直面している」と宣言し、時代の要請を受けて誕生した新政権であると内外にアピールした。

それから3年余り経過し、FDPが昨年11月6日、政府内の意見の対立を理由に政権を離脱。少数政権となったショルツ政権は今年1月、議会の不信任案可決を受けて、今月23日に繰り上げ選挙が実施されることになった経緯がある。

複数の世論調査によると、野党第1党の「キリスト教民主・社会同盟」(CU/CSU)が支持率30%前後で第1党を独走、それを追って極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が20%、その後にショルツ首相の与党SPDが16%、そして「緑の党」14%、左翼党が6%だ。FDPは議席獲得に必要な5%の壁を越えることが出来ないで苦戦している。いずれにしても、「時代の転換期」を標榜してきたショルツ3党連立政権の3党合計の支持率は34%で、CDU/CSUの1党の支持率とほぼ同じといった低迷を余儀なくされている。

いずれにしても、「時代の転換期」を宣言してスタートしたショルツ政権は任期4年を全うできずに早期解散を余儀なくされた。23日に実施される連邦議会選挙の見通しを予測する前に、なぜショルツ政権は失墜してしまったのかを少し振り返ることも意味があるだろう。

ショルツ首相は信号機政権がうまく機能しなかった理由について自ら説明している。「わが国は過去3年余り、これまで経験したことが未曽有の試練に直面してきた」というのだ。具体的には、新型コロナ感染が峠を越えた頃、ロシアのプーチン大統領がウクライナに軍事侵攻し、陸続きのウクライナで戦争が勃発した。同時、エネルギー危機が発生し、ロシアからの天然ガスは止まり、エネルギーコストは急騰、それに伴い物価も高騰。ショルツ政権時代の過去3年間、ドイツの国民経済はリセッション(景気後退)に陥った。

ドイツは輸出大国だ。その原動力は自動車産業だが、ドイツ自動車を毎年、大量に購入してきた最大の顧客・中国で安価な電気自動車が市場に進出すると、ドイツ製自動車の中国市場での売り上げは激減。メイド・イン・ジャーマニーのブレンドは大きな試練を迎えている。例えば、ドイツの大手自動車メーカー、フォルクスバーゲン社は創立最大の試練に直面している。

ショルツ首相の説明を聞く限り、「時代が悪かった」ということになる。通常の時代だったら、ショルツ政権は上手くいっていた、といった無念の思いが見え隠れする。ただ、ショルツ首相自身は「時代の転換期」を感じ、それを宣言して政権を始めたはずだ。平和な時代に政権を継承したのではないことをショルツ首相自身が認識していたはずだ。

ショルツ首相のために言うならば、社民党、「緑の党」、FDPの3党は政治信条が元々異なっていた。だから、3党連立政権が発足した当初から、「寄せ集め所帯」といわれ、政権内で絶えず、意見、政策の相違から対立を繰り返してたきた経緯がある。最後は、財政問題でショルツ首相とFDPのリントナー財務相との間で対立し、その結果、政権は崩壊していったわけだ。

一つ指摘したい点がある、ウクライナ戦争が直接の契機となってエネルギー危機に直面したが、ショルツ政権は2023年4月、脱原発を完了したことだ。その結果、先述したように、エネルギーコストの急騰、それに伴うドイツ製品の競争力低下などをもたらした。産業界では当時、脱原発に強く反対する声があったのだ。しかし、ショルツ連立政権は政権発足以来、「再生可能なエネルギーからより多くのエネルギーを生成する国になる」と表明し、その課題を「巨大な使命」と呼んできた。すなわち、ウクライナ戦争で生じたエネルギー危機に直面しながら、先ず「脱原発あり」といったイデオロギー先行の政策を実行してしまったのだ。

ただ、問題点だけではない。社民党と「緑の党」は安全保障政策では従来の平和政党といった看板を下ろし、ウクライナ支援に積極的に乗り出した。ウクライナ戦争がなければ、両党の安保政策は依然、平和外交に終始していたかもしれない。その意味で、「時代の転換期」という看板からいえば、ショルツ政権はその使命を果たそうと努力したことは事実だ。

ドイツの選挙戦では、難民対策、それに関連したAfD問題がメディアで大きく報道された。選挙期間中にテロ事件が発生したこともあって不法難民の強制送還などが話題となった。同時に、極右AfDとの対応でファイアーウォール(防火壁)議論が飛び出した。トランプ米大統領の側近イーロン・マスク氏が選挙中にAfD支持を宣言し、ドイツの選挙戦に干渉し、話題をさらった。

第2次トランプ米政権がスタートした。トランプ政権と欧州の盟主ドイツとの関係はうまくいくだろうか。米国と世界第3位の経済国ドイツとの関係は欧州全土にも少なからずの影響を与えるだろう。明確な点は、欧米間の絆が決裂すれば、ロシアや中国が喜ぶことだ。23日の総選挙結果でどのような新政権がドイツで発足するか、注目される。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年2月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。