トランプ米大統領の息子、ドナルド・トランプ・ジュニア氏が昨年の大統領選で父親に副大統領候補に強く推薦しただけあってヴァンス氏はトランプ氏に負けないほどの辛辣な発言を躊躇なく語ることが出来る政治家だ。これは誉め言葉と受け取ってほしい。

米ウィスコンシン州ミルウォーキーで開かれた共和党大会に出席したトランプ氏とJ・D・ヴァンス氏、2024年7月15日、桑原孝仁撮影
ヴァンス氏は20日、ワシントンでドイツの「言論の自由」問題を再び想起し、「米軍が実施しているドイツの安全保障はドイツの言論の自由の行方にリンクする」と述べ、ドイツが「言論の自由」を保証しなければ、駐独米軍の撤退もあり得ることを示唆したのだ。
ドイツの国民は今月14日のミュンヘン安全保障会議(MSC)でのヴァンス氏の発言を直ぐに思い出すだろう。ヴァンス副大統領はMSCで20分余り演説したが、その焦点はトランプ政権の政策やウクライナ停戦問題ではなく、欧州の政治批判に注がれた。欧州は法治主義、民主主義、「言論の自由」を共通価値として掲げているが、ヴァンス副大統領はその欧州の価値観に鋭い批判を投げかけたのだ。曰く「欧州にとって脅威は、ロシアや中国ではない。(欧州の)内部だ」と指摘し、「米国が掲げている共通の価値観からかけ離れている」と主張。特に、「言論の自由」では、「移民問題で厳しい対応を求める右派政党を阻害し、その政治信条が拡散しないように防火壁を構築している」と糾弾したのだ。
ヴァンス副大統領の主張は的外れではない。例えば、欧州連合(EU)は27カ国から構成されているが、その政治信条はバラバラで、統合された価値観といえないことは周知の事実だ。また、ドイツでは厳しい移民・難民政策を標榜する極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)に対し、ドイツの既成政党は討論を拒み、「防火壁」(ファイアウォール)を構築していることも事実だ。ちなみに、ヴァンス氏はドイツ滞在中、AfDのヴァイデル共同党首と会見し、イーロン・マスク氏と同様、AfD支持を明らかにしている。
ヴァンス氏はワシントンでは自身のドイツ批判を更に一歩進め、米軍のドイツ駐留と関連して、「ドイツの防衛は、米国の納税者によって補助されている」と述べ、ドイツに駐留する米軍兵士の存在に言及している。そして「ドイツで誰かがたった一つ悪意あるツイートをしただけで投獄されるとしたら、米国の納税者がそれを容認するだろうか」と問いかけたのだ。
欧州には約78000人の米軍兵士が駐留している。そのうち、約37000人はドイツに駐留中だ。そして北大西洋条約(NATO)の軍事力、核の抑止力と通常兵器は米軍なくして考えられないことは言うまでもない。ヴァンス氏はその米軍をドイツの「言論の自由」が保証されないならば、撤退すると脅かしたのだ。ヴァンス氏のミュンヘンの発言内容より、ワシントンでの発言内容はもっと深刻だ(ただし、ヴァンス氏は「米国は欧州との重要な同盟関係を維持していく」と述べている)。
問題は欧州諸国、特にドイツだけではない。ドイツの不十分な「言論の自由」について苦情を呈し、ドイツの安全保障問題に関連づけたヴァンス氏が日本を訪問した場合を考えてほしい。これは時間の問題でヴァンス氏は日本を訪問するだろうから、以下指摘するテーマは今から想定し、対応を検討すべきテーマだと考えるのだ。
トランプ米大統領は6日、ワシントン市内で開かれた全米祈祷朝食会で演説し、米国は「神の下の一つの国」であり、宗教心を取り戻すことが重要だと強調。反キリスト教的な偏見を根絶するため、ホワイトハウスに「信仰オフィス」を設立し、その責任者に自身の宗教顧問であるポーラ・ホワイト牧師を充てると発表した。トランプ氏は「宗教の自由がないところに、自由な国はない」と述べている。
それに先立ち、ヴァンス米副大統領は5日、ワシントンで開催された国際会議「国際宗教自由(IRF)サミット」で演説し、トランプ政権が国際的な信教の自由擁護を外交政策の優先課題に位置付け、その取り組みを強化していく姿勢を明確にし、「米国の外交政策の中で、信教の自由を尊重する政権とそうでない政権との違いを認識し、区別しなければならない」と述べている。
ところで、日本では現在、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の解散請求問題がある。同問題は安倍晋三元首相の暗殺事件を契機に共産党系弁護士、左派メディアが実行犯の供述をもとに旧統一教会叩きを始め、メディアの圧力を受けた当時の岸田文雄首相が法の解釈を変えて旧統一教会の解散請求を持ち出した経緯がある。文部科学省は東京地方裁判所に提出した陳述書を捏造するなど、旧統一教会の解散に突進しているが、そのプロセスで信者たちの「信教の自由」を蹂躙している。まさに、文部科学省の対応は「反キリスト教的な偏見」といえるだろう。
ヴァンス氏が東京入りし、「日本で『信教の自由』が守られていない。そのような国の安全保障のために貴重な米軍兵士の命、国民の税金を投入することは得策だろうか」と問いかけた場合を考えてほしい。十分あり得るシナリオだ。その時になって慌てふためいても遅い。今からでも旧統一教会の解散請求が正しいか、「信教の自由」を蹂躙していないか、冷静に再検討すべきだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年2月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。