フジサンケイグループ代表、フジテレビ取締役相談役である日枝久さんの自宅の塀に落書きなどの迷惑行為がニュースになった。ご近所さんで地元なのでどこにあるかは知っている場所。閑静な住宅街にメディアが押し寄せることもなくなぜか静かであったのだが、突然、騒然としている。
一連のフジテレビを巡る騒動で批判の焦点にある日枝さん。「天皇」としては機能したが、経営者としては残念ながら疑問がつく点を経営コンサルタントとして考えたい。
アメリカの投資ファンド「ダルトン・インベストメンツ」の書簡では、企業統治が機能していないこと、スポンサーをどう取り戻すのかなどの厳しい指摘、日枝久さんへの辞任要求まで受ける凄い事態になった。はっきりいって経営者として「落第」と言われたと言っても過言ではない。
今回のガバナンスの欠如、社会的責任をメディアなのに示せない記者会見やコンプライアンス対応・・・日枝久さんは「天皇」になってしまったため、カリスマ経営者になれなかったのだろう。
日枝さんとは?
1937年12月31日生まれ。都立杉並高卒業、早稲田大学に進学。卒業後、1961年にフジテレビに入社。日枝さんはフジテレビ入社後は労働組合活動に積極的に関わり、社員と会社の間で信頼関係を築いた。
42歳という若さで編成局長に抜擢され、フジテレビの黄金期を築き上げるのに貢献。彼の功績としては、フジテレビを日本のトップテレビ局に成長させたこと、数々のヒット番組を生み出したことが挙げられている。「楽しくなければテレビじゃない」を旗印に、斬新な番組やエンターテイメントを世に出し、フジテレビの視聴率向上に大きく貢献した。
1988年代表取締役になると、1992年にフジサンケイグループ内で社内クーデターを起こし、創業一族を追い出し、グループ内の実権を握った。堀江貴文さんによるニッポン放送買収攻勢に対しても、うまく対処して、権力の地歩を固めた。ついには「天皇」とまで言われる実権をほしいままにしました。
フジの経営状況
会長になった2001年以降、フジテレビは急速にそのプレゼンスを低下させる。
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出典:フジ・メディア・ホールディングス統合報告書
フジ・メディア・ホールディングは、様々な事業を展開しているが、「投資ファンドみたい」と言われるほど有望な会社の株式を持っている。そのため経営は盤石なことは確かだ。しかし、フジテレビは、売上高2374億円、営業利益76億円と全体の4割近くを占める中心的存在であるものの、テレビ視聴率も低く、CM収入も半減するなど成果が出ていない。
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出典:フジ・メディア・ホールディングス統合報告書
この11年の業績を見ても、売上・経常利益ともに年々減少しているのだ。テレビがオワコンと言わる声が大きくなるのにも関わらず、イノベーションはおこせず、製作費のコストカットでしか対応できていなかったということだろう。
こうした惨状を見ると、会長就任後は「カリスマ経営者」としての業績は見せてはいない。その理由を考えよう。
【理由1】物凄く恵まれた規制産業ゆえの安住
第一に、フジテレビ含め、規制産業だからだろう。政府によって極めて手厚く保護された免許事業を営む事業者である。(保護された)希少な電波を持っている点、安い電波利用料を使用できる点など「特権的な立場」を持つ。
テレビという影響力と「空間」を持つ圧倒的なビジネスモデル、新規参入はない、好条件すぎるほどのビジネス環境である。
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出典:フジ・メディア・ホールディングス有価証券報告書
子会社89社、関連企業50社もあるが、その内容を見ても、多角的にビジネスをしている。
【理由2】過去の成功が圧倒的すぎる
そして理由の第二が、過去の成功が強烈であったことだ。まさに1980年代以降、「時代を作った」といってもよい。
フジテレビの「カルチャー」路線、例えば、とんねるずの活躍、夕焼けにゃんにゃん、「月9」のトレンディ・ドラマなどの番組が与えた影響は数多い。若者の流行をフジテレビの番組が作った。皆が熱狂し、真似し、時代の「文化」を作ったといっても過言ではない。
しかし、その後のイノベーションは進まず、現在は、IT時代の波に乗れず、ネットフリックスなどに負け、若者は見向きもしなくなってしまった。
【理由3】公共放送ゆえの自律性欠如
理由の第三は、公共放送として、世の中の不祥事を批判する「第四の権力」にもかかわらず、自分たちへの厳しい姿勢を持ちえなかったということだ。
組織風土が「軽さ」「楽しさ」を重視するのはいいが、ベースに企業倫理や厳しい規範を位置づけていなければ、社会的責任を果たせたとは言えない。
日枝さんの権力者・政治家との仲の良い関係が話題になったが、本来ならメディア保有者としてよくないどころか、権力の監視機構としての社会的責任・役割としても問題があっただろう。
ビル経営、都市開発、お台場、イベントなどの事業を幅広く手掛けてはいる。「都市開発・観光事業」として、営業利益126億円のサンケイビルをはじめ、利益で言うと「都市開発・観光」が全体を占める割合は45%にも上っている。
メディアがこうした事業を行うことはいろいろな見方はあるだろう。しかし、筆者からみると「自社PRがはなはだしいなあ」と思うところがフジテレビの番組を見ていて多かった。具体的にいうと、お台場のイベントなどの自社関連事業をより優先的にPRしているように思えた。公益の視点からは、利益相反的な放送も多かったように思える。
堀江さんのいうことをきちんと理解できなかった限界
日枝さんはクーデターで鹿内家を乗っ取り、その後、支配を確立していき、堀江さんらの買収劇を撃退した。しかし、ここからは、権力を握ることが目的化し、権力闘争に明け暮れてしまったのだろう。
- 競争環境がない
- 成功体験が強烈
- 組織は享楽傾向、風土の風通しが悪くなる
こうなると、どの企業も衰退していく。最大の強みである企画力やコンテンツ制作力も健全な組織風土がないと発揮できなくなる。ネットフリックス、アマゾンプライムなどの外資プラットフォームに圧倒されているテレビ業界の今の現状を見ても、巻き返しは難しいだろう。
20年前にホリエモンが提示した戦略・ビジョンが的確過ぎたし、それを少しでも参考にする、踏襲はできなかったのは残念だった。堀江さんの言うことを聞いて理解し、経営改革を行う、そういった人間的な能力、経営者としての才能があれば・・・偉大な経営者になっただろう・・・。
レオスや株主から様々な要求が出てきている。少しでも経営者として会社を思う気持ちがあれば、どういった決断をするのかは自明だろう。あと3か月でやれることはある。日枝さんに期待したい。