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mapo/iStock
22年間、愛されて仕事が途切れない、人気ナレーター・声優の著者が編み出した、発達障害の特性の「得意」を生かし、「不得意」をカバーするコミュニケーション術。当事者だからこその「あるある!」エピソードと具体的ハックを紹介します。
『発達障害・グレーゾーンかもしれない人のための「コミュ力」』(中村郁 著)大和書房
[本書の評価]★★★★(80点)
【評価のレべリング】※ 標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★ 「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★ 「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★ 「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
発達障害と向き合うということ
中村さんは本書のことを「人間関係の攻略本」だと言います。
「わたしですが、7年前に発達障害の診断を受けました。一緒にお仕事をしている番組のスタッフさんが『発達障害の検査をしてきた』とお話ししてくださったのが、病院を受診しようと思ったきっかけです」(中村さん)
「長年、自分は少しおかしいのではないか? 普通ではないのではないか? という疑問を抱いていたため、いつか病院に行こう、とは思っていましたが、なかなか勇気がわかず、一歩を踏み出すことができずにいました。しかし、結果として、わたしは病院に行って診断を受けてよかったと心から思っています」(同)
中村さんは、「病院を受診して心の底からホッとした」と当時のことを言います。
「自分が普通の人のように振る舞えないこと、コミュニケーションが上手くとれないこと、物忘れが酷すぎることなど、『自分はぐちゃぐちゃ人間だ!』と自分自身を責め続けていたことに、実はきちんとした理由があったからです」(中村さん)
「それはわたしにとって大きな救いでした。理由がわかれば対処ができます。見えない相手には、太刀打ちできませんが、相手が見えれば対処できる。そう思ったわたしは、自分の取扱説明書をつくり、自分自身の特性と徹底的に向き合い続けました」(同)
そんな、中村さんは、なんと「コミュカ」を武器に、仕事を続けています。もがいて苦しんだからこそ、身につけることができた「コミュカ」なのでしょう。
普通がむずかしいという話
中村さんは幼いころより体が弱く、癇癪や、過剰に集中し過ぎてしまう「過集中」、さらには物忘れがひどく大変な毎日を送ってきたそうです。大学受験では過集中がプラスに働き、偏差値40を70まで上げて志望大学(同志社大)に合格するも、入学後は華やかな学生たちに馴染めませんでした。
ところが、「過集中」がプラスに働いて、「声の世界」へはいることになります。ナレーターの道を勧められ、大学卒業と同時に現在の事務所に所属しました。ナレーターには高い集中力が必要とされますが、短所を長所として活かしながら活躍している点が興味深いところです。
発達障害を持つ人は、集中力を発揮したり、記憶したりといった、ほかの人にはない得意な能力も兼ね備えていることが多いのです。環境を調整し、上手に工夫して、苦手な部分を補うことができれば、その力をいかんなく発揮し、素晴らしい成果も残せます。
中村さんのファンが急速に増えています。その理由を考えると、中村さんが自身の経験を率直に語っている姿勢が多くの人々の共感を呼んでいるのだと思います。本書は約300ページあり、非常に充実していてコストパフォーマンスも高い大作です。
しかし、以下の点に注意が必要です。
本書の主な読者層は、日々の生活に疲れているビジネスパーソンであると考えられます。精神的に疲れている人にとって、300ページは多すぎるかもしれません。マンガ風の図版を挿入して内容を圧縮し、より読みやすくしたほうがベターだったように思います。
本書の完成度と内容の充実度は評価できますが、読者の視点をもう少し意識すればさらに良かったと思います。それでも十分に評価できる内容ですので、星4つとしました。
皆さん、ミスを少なく、成果を出せる方法をこの機会に学びませんか。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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2年振りに22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)