使途が決まっている資金は、期日が短期的な将来にあれば、預金に置かれるべきだが、期日が中長期的な将来にあるときは、投資信託を利用する余地がある。このとき、投資信託の合理的な選定を規定するものは、使途の必要性、使途の期日、家計の余裕である。いうまでもなく、使途の必要性が高いほど、期日が近いほど、家計の余裕が小さいほど、より保守的な投資対象が選択されるべきなのである。
例えば、同じ5年後という期日でも、使途が旅行ならば、投資収益が大きく変動しても、それに応じて旅行計画を変更すればいいのだが、使途が住宅購入のためのローンの頭金ならば、大きな期待収益を放棄して、元本の保全を優先させるのが賢明であり、同じ住宅購入資金でも、5年後の購入計画であれば、10年後の購入計画に比べて、より保守的な運用にすべきであり、手元の余裕資金が大きいときや、将来の所得の増加が見込めるときは、より積極的な運用が可能になる。
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高齢者の資産は、豊かな老後生活のために、順次に費消されていくことが予定されているはずで、金融庁も、勤労層の資産形成と並べて、高齢層の資産取り崩しの重要性を指摘しているが、誰にとっても、自分の余命を知り得ない以上は、資産取り崩しを合理的に計画することは不可能だから、結局は、現状のように、資産の多くが預金に滞留する事態になっているのである。
つまり、国民の金融行動は、それなりに合理的なのだが、更に、より合理的な行動も考え得る。つまり、総資産から、平均余命を超えて生きる場合に備えるための金額を控除した残余は、平均余命に応じて計画的に取り崩されて費消され得るのだから、その計画に応じて、投資信託での合理的な運用も可能であるし、平均余命以上に生きるための留保資産については、小さな果実を得ながら、資産価値の保全を図る投資信託の利用があり得るわけである。
使途のない資金とは、正確にいえば、未だ使途がないというだけで、いずれは、使途が決まって、費消される資金だから、使途が具体化するまでの期間は、平均余命を超えて生きる場合に備えて留保される資金と同じで、小さな果実と元本保全との均衡を実現するように、投資信託を適切に利用できるはずである。
なお、使途がない資金については、投機も可能である。健康維持を意識して、食べることに多少の制限を設けることも必要だが、食べることは人生の楽しみだから、面倒な制限を忘れて自由に食べることも必要である。同様に、投資の合理性は極めて重要だが、投機の楽しみを否定する必要もないのである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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