遠からずゼレンスキーは詫びを入れ、「鉱物資源協定」は成約する

28日にホワイトハウスの大統領執務室で行われたトランプとゼレンスキーの会談は、世界中がそのライブ中継を見守る中、激しい口論の末に決裂した。が、筆者はそう遠くない将来ゼレンスキーが詫びを入れて、いわゆる「鉱物資源協定」が成約すると考えている。

その理由は単純で、両者がその「成約」を望んでいるからだ。トランプは会談決裂後、記者団のぶら下がり取材に「平和を望む人物には見えなかった」とし、激しい言葉の応酬になった理由について「(ゼレンスキーが)強気に出すぎた」ためだと述べた(1日の『ロイター』)。

一方、『Politico』のレイチェル・ベイト記者は、ホワイトハウス高官二人から聞いた話を書いている。それは、「トランプ氏が二人に、『扉は閉ざされていない。・・和平交渉の準備が出来たら(ゼレンスキーは)戻って来るべきだ』と語った」との話である。

これらの記事にあるトランプ発言に、彼の心境が尽くされているように思う。筆者は、会談のライブを見ていて、ゼレンスキーがウクライナの惨状らしき写真を取り出し、トランプに1枚ずつ説明する様子を見て辟易した。1~2枚ならともかく、数えた訳ではないが10枚近くあったか。そしてプーチンへの、約束破りだの何だのとの悪口雑言を並べ立てた。

ゼレンスキー大統領SNSより

ゼレンスキーには、トランプが進めようとする和平シナリオへのイマジネーションが欠けている。そのシナリオを推察するに、①ウクライナとの「契約」を済ませ、②プーチンに停戦を飲ませる。領土問題は措き、先ず戦をやめる。③ゼレンスキーに②の中身を伝える。④この先の和平の枠組みを米・英・宇で協議する。というものではなかろうか。

それをゼレンスキーは、未だ①の途中なのに、④の結論を保証せよ、とトランプに迫ったのである。如何なトランプでも、②でプーチンと話をする前に④を保証できるはずがない。①を円滑に終わらせてこそ、②がやり易くなるのにゼレンスキーは「強気に出すぎた」、即ち「too much」だったのである。

「平和を望む人物には見えなかった」とのトランプ発言の裏には、「なぜ俺を信頼して任せないのか」とのトランプの思いが滲む。米国を筆頭とする西側諸国の支援なしには自国を守れないというゼレンスキーが置かれた立場を、彼は判っていないとの思いである。

トランプにしてみれば、NATO諸国の支援の多くがロシアの凍結資産の運用益の「融資」である一方、バイデン政権が行った膨大な支援は米国民の税金の無償供与だ、という思いもあろう。その一部返済をウクライナの資源開発によって賄おうとする計画なのだから、「さっさと署名しろ」という訳である。

ウクライナの地下資源の多くが、目下のロシア占領地域に賦存していることは拙稿で触れた。だから米国には見返りがあまりない、との見方もある。が、トランプにとっては、だからこそ①の円滑な「成約」こそが②のプーチンとの交渉のカードになる、と考えているのではなかろうか。

ウクライナは米国から有償の支援を受け取る準備がある
2月27日の『Wedge online』に「火事場泥棒トランプが狙うウクライナのレアアース」との見出し記事が載った。記事の著者は北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授の服部倫卓氏で、在ベラルーシ共和国日本国大使館専門調査員など...

ゼレンスキーは『Foxニュース』のインタビューで、トランプとの関係修復の可能性につき「もちろんだ」と答え、「このようなことになって申し訳ない」と述べた(前掲『ロイター』)。2日の欧州首脳会議後の『BBC』取材にも、鉱物資源協定に署名する準備ができているとし、「交渉のテーブルの上に置かれている合意文書は、当事者の準備が整えば署名される」と述べた

ここ10日間で米国は、ヴァンス副大統領がウクライナの商務長官・国務長官と会談し、ルビオ国務長官もウクライナ外相と3度話をした。いずれもトランプ大統領とも電話で協議した上でのことだ。その会談を決裂させた責任は偏にゼレンスキーの短慮にある。

トランプシナリオ④の結論が、プーチンの思惑通りになるとは限らないが、彼もいい加減戦争はやめたかろう。ゼレンスキーは、つべこべ言わずトランプに即刻詫びを入れ、「合意文書」に署名することだ。