維新は無能な働き者だが、国民民主は有能な卑怯者

維新と国民民主の予算案への対応は対照的だった。維新は早々に前原共同代表が高校税金化を「満額回答」として予算に賛成してしまい、それを前提にして自民党と交渉した結果、高額療養費制度の負担増まで賛成してしまった。

迷走した維新と空回りした国民民主

これに対して国民民主は、玉木代表が役職停止中に自民党の「年収123万円」の基礎控除引き上げという提案を蹴っておきながら、あとになって復活折衝した。今度は自民党に蹴られて公明党が老人優遇の修正案を出し、玉木氏は敗北宣言を出した。

結束すれば予算を大幅に修正できるチャンスにバラバラに行動した点は共通しているが、維新が簡単に自民に取り込まれたのに対して、国民は「年収178万円」という高い球にこだわって玉砕した。

支持者の反応をみると、維新の対応をほめる人はほとんどいないが、国民民主の敗北宣言には共感する支持者が多い。しかし結果的には、千載一遇のチャンスに野党は何も勝ち取ることができなかった。勝者は石破=森山政権である。

無能な働き者と有能な卑怯者

なぜこうなったのか。維新については、大阪と永田町の二元体制が混乱して、国政政党の体をなしていない。特に前原氏が自民党と握ったあと、党内の突き上げを受けて執行部があわてて中身のない「社会保険料の4兆円引き下げ」を打ち出したが、国対は動かず、前原氏は党内で浮いてしまった。各政治家はそれなりに一生懸命やっているのだが、党としてはバラバラの無能な働き者である。

特に前原氏は国民民主党が予算案に賛成したことを批判して離党しながら、今回は率先して予算案に賛成し、結果的には崖っぷちの石破政権を救った。前原氏はこれまで数々の党を壊して「死に神」とも呼ばれ、今回も国民民主党との協調の障害になった。

他方の国民民主は、玉木氏が役職停止になって榛葉幹事長が党内を仕切り、それなりに一貫した方針だった。それは「減税の党」のイメージを売り込み、「今回は敗北したが絶対に諦めない」と宣言し、ガソリン減税の前倒しなどのバラマキで戦う戦術だ。

インフレ率が4%を超え、長期金利が1.5%を超えたが、有権者はマクロ経済も財政も知らないから、減税を叫び続ければ参院選でも勝てるという計算だろう。特に地方の1人区に多くの候補を立てるので、老人を敵に回す社会保障改革は下ろした有能な卑怯者である。

しかしバラマキなら自民党のほうが上だ。若い有権者が国民民主を支持したのは社会保障改革に期待したのだが、そういうコア支持層は離れるだろう。野党第一党の立民党は最初から団塊老人の党で、紙の保険証で失笑を買った以外まったく存在感がなかった。

維新は前原共同代表を解任してコミュニケーション回復を

今はこんな政局ゲームをしているときではない。社会保障改革は待ったなしである。特に今年から団塊の世代が後期高齢者で1割負担になり、あと5年もすれば介護が大きく増えるだろう。医師会の代理人である厚労省にまかせていては、医療も財政も破綻する。

そんなときに野党まで「老人党」になったら、有権者には選択肢がなくなってしまう。こうなる原因はシルバー民主主義だが、少数与党になれば野党がキャスティングボートを握れる。今回のような絶好のチャンスに、こんなしょぼい果実しか取れなかったのは、野党の足並みの乱れが原因だ。

維新と国民民主は互いに責任を転嫁しないで今国会の失敗を反省してほしい。特に両党のコミュニケーションの障害になっている前原共同代表を維新が解任し、二元体制を立て直すべきだ。それができないなら国政維新は解散し、大阪の地域政党として再出発するしかない。