フランスの防衛産業政策を日本は真似できない

仏、防衛増強に財源の壁 GDP比3〜3.5%目標も増税否定 日経新聞

防衛増強を目指すフランスが財源の壁に直面している。マクロン大統領は国防予算を国内総生産(GDP)比で3~3.5%に引き上げる意向だが増税は否定、金融市場では財政再建の遅れに警戒感が広がる。仏政府は苦肉の策で20日に公的な防衛ファンドの設立を発表し、国民の出資を募った。

新ファンドの調達目標額は4億5000万ユーロ(約730億円)で投資は最低500ユーロからと、個人が小口資金を投入しやすい設定になっている。ファンドは集めた資金を資本不足の中小の防衛企業に投資し、武器の生産能力強化につなげる。

仏政府が国民に防衛産業支援を呼びかけるのは、国防強化が急務なのに財源が圧倒的に不足しているからだ。

フランスはEU加盟国の中でも政府債務が大きく、金融市場では財政負担増への警戒感が広がる。格付け大手フィッチ・レーティングスは3月中旬、仏国債の格付け見通しをネガティブとして「防衛費を現状より増やせば財政を圧迫する」と指摘した。

これは面白い試みだと思います。増税をすれば政権運営にもかなり悪い影響はでるでしょうし。フランス政府の債務はGDPの1.1倍ですが、かなり危機感を持っています。対して我が国は2.6倍です。にも関わらず、のほほんと2%に増やせと行っている人が多すぎます。危機感が麻痺しています。

安倍晋三のように国債すればいくらでも軍拡できるとか、防衛費増やしたら防衛産業が潤うので内需拡大になるとか与太を信じている国会議員が多すぎます。いくら防衛装備を増やしても経済には役に立ちません

。例えば羽田空港を拡張して国際取引が増えるとか、輸出に貢献するとかであれば公共投資は乗数効果がでます。ですが防衛にそれは期待できない。ことに我が国の場合低性能、低品質、高コストで調達しているわけで、こんなものは税金とリソースのムダ遣いです。

それでも将来に改善すればいいけども、それはありえない。官民共に変えるつもりがないからです。例えばヘリメーカーは3社ですがほとんど防衛省の需要で食っている。事業統合等をし、将来独自ヘリを開発し、世界の軍民市場で売れるようなヘリが登場する可能性はまずありません。

そんなカネと生産能力があれば輸出可能な製品に回して税収を確保すべきです。クズのような装備の調達で生産アセットを使うことは、減少する労働力のムダ遣いでもあります。

投資に対するリターンがマイナスです。

財務省の裏には金のなる木が生えているわけではありません。これ以上政府の赤字を増やせば、円の価値は暴落して、装備やコンポーネントの輸入も難しくなります。今や国産装備も多く外国製のコンポーネントを使用していますから、極端な円安は防衛費の実質的な削減になります。

またいざ戦時となった場合戦時国債を発行するとして一体どこの国が買ってくれるでしょうか。戦時や大災害を想定するならば健全な財政であることが必要不可欠です。

むしろどうせ将来性の波国産装備を止めて、なおかつ自衛隊を縮小すべきです。

いくら力んでも防衛費に回せる税収はないし、兵隊の数も同様です。100の戦力を目指して30しか兵隊が集まらないのは根性ではどうにもならない。であれば70の戦力で80の充足率を目指すべきです。

フランスの取り組みは大変興味深いですが、我が国では無理でしょう。まず口では色々いっても防衛省はスタートアップ企業には冷たいし、防衛産業を理解していません。

そして本気で輸出しようなど思っていません。

対してフランスは軍事関連の輸出は国是ですから、全く環境は違います。フランス企業は輸出市場で常に戦ってきているし、欧州の他国のメーカーとも共同開発や、企業買収を通じて一体化しています。事実上EU内は一つの国と言ってもいい。通貨も同じだし、関税もかからない。こういうスキームは有効でしょう。

防衛産業の振興を図るならば政府、防衛省、自衛隊、企業ともに当事者意識をもっと持つべきだと思います。

そのうえで何が問題かを把握して真面目に対処すべきです。やっているフリでは何も変わりません。

Boarding1Now/iStock

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編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2025年3月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。

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