第三者委員会の報告書を読む①:本件文書事項1〜6、県の処分と公益通報

高橋 克己

3月19日に兵庫県(県)に提出された「文書問題に関する第三者調査委員会」の報告書を読んだ。同日に行われた第三者委員会の会見もネットで視聴してすべてを文字起こしし、報告書と突合した(以下、太字は筆者)。

県のサイトの表題には、「令和6年3月に職員が作成・配布した『齋藤元彦兵庫県知事の違法行為等について(令和6年3月12日現在)』と題する文書に関する事実確認の調査を行ってきた第三者調査委員会」(委員会)とのリードが記されている。

日本弁護士連合会の「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」は、第三者委員会の活動が、①不祥事に関連する事実の調査、認定、評価 ②説明責任 ③提言 であるとしており、報告書これ沿った体裁になっている。

報告書の公表版は本文170頁と添付資料87頁の計257頁、ダイジェスト版も35頁ある。会見の文字起こしも3万字を超えるが、要点が絞られているので、本稿は会見を軸に必要に応じて公表版で補足しつつ。報告書の概要を取りまとめた。

本件文書の記載事項

元県民局長(令和6年7月19日に百条委員会で証言が予定されたが、同月7日に死亡と確認。以下、元局長)が作成した文書(本件文書)に記載された「7つの事項」、及び「公益通報に関する県の対応など」についての報告書の項目と表題は以下である。

事項1:ひょうご震災記念21世紀研究機構の人事をめぐる問題(17〜23頁)
事項2:令和3年7月に実施された兵庫県知事選挙をめぐる問題(24〜30頁)
事項3:令和7年に実施予定であった兵庫県知事選挙の事前運動をめぐる問題(31〜33頁)
事項4:贈答品に係る問題(34〜56頁)
事項5:令和5年7月に開催された政治資金パーティーをめぐる問題(57〜66頁)
事項6:令和5年11月に実施されたプロ野球球団優勝記念パレードをめぐる問題(67〜80頁)
事項7:職員に対するパワーハラスメント、不適切な言動ないし対応の有無(81〜119頁)
公益通報:公益通報などの観点から見た場合の県の対応の問題点(同120〜149頁)

元局長は本件文書とは別に、令和6年4月4日に県の窓口に公益通報を行い、そのことをマスコミに公表した。その内容は明らかにされていないが、報告書は、その内容が本件文書の上記事項1~7から事項1を除外した他は、ほぼ同じである旨を記している。

県が令和6年5月7日に元局長に科した「停職3月」の懲戒処分の理由は以下の4件で、②~④は同年3月25日に片山元副知事(元副知事)が元局長から引き上げた公用PCから判明した。このことは、通報者探索に伴って判明した証拠が懲戒処分の理由になり得るか否か、という点で重要である。

  • ① 誹謗中傷文書(本件文書)の作成・配布
  • ② 人事データ専用端末の不正使用(人事管理職時に、特定の職員の顔写真データに関し、業務上の端末を不正に利用すると共に、個人情報を不正に取得し持ち出した)
  • ③ 職務専念義務違反(平成23年から14年間にわたって、勤務時間中に計200時間程度、多い日で1日3時間、公用パソコンを使用して業務と関係ない私的な文書を多数作成した)
  • ④ ハラスメント行為(令和4年5月、次長級職員に対してハラスメントを行い、著しい精神的な苦痛を与えた

公益通報

本稿では、委員会が本件文書の配布を、① 公益通報(外部通報・3号通報)に該当する、② 3号通報での通報者探索は違法である、③ パワハラは公益通報できる、と判断していることを先ず述べておく。

一方、県は本件文書を公益通報に当らない「怪文書」と見做して通報者を探索し、それを元局長と特定して、彼の公用PCから懲戒処分の証拠を見出した。前記に基づけば、県の通報者探索や公用PCの引き上げは違法なので、ここはポイントである。

但し、専門家の間でも、① 本件文書が3号通報に当るか否か、② 3号通報での通報者探索が適法か違法か、③パワハラが公益通報の対象か否か の3点については意見が分かれ、百条委員会も公益通報に当らないとする野村修也・徳永信一両弁護士に書面を求めた。

本稿では、斯界でも議論が分かれるこの問題には深入りしない。

【事項1】ひょうご震災記念21世紀研究機構(同機構)の人事をめぐる問題

同機構の五百旗頭真元理事長が令和6年3月6日に急性大動脈解離で急逝したことが、その1週間前の2月29日(本件文書の記述は死亡日の前日)に元副知事が元理事長に機構の人事案を伝えたことがトリガーになっていると、本件文書が示唆した件である。

藤本委員長(委員長)は、人事案を伝えたことや元理事長が再考を求めたことは事実だが、元理事長の死亡との間に、医学的な因果関係や直接的な因果関係を裏付ける資料はなく、直接の因果関係があったものとは認めません、と述べた。本件文書の記述は虚偽であった。

但し、委員長は、話し合いが元理事長に通常を超える大きな心理的負荷を与えたことは想像に難くないとし、県に貢献された方には敬意を払うべきあり、人事改革を行いたいのであれば、丁寧に進めるのが適切であったというのが我々の意見です、と提言した。

【事項2】令和3年7月実施の県知事選をめぐる問題

令和3年の県知事選で一部職員が公職選挙法や地方公務員法に違反して関わったと指摘した件である。委員長はその事実は認められないとし、関わった職員がその後異例のスピードで昇任したとの指摘があるが、人事に纏わる問題には関与すべきではないとして、人事が不相応であるとも、論功行賞の結果であるとも認定しなかったので、本件文書の記述は虚偽である

委員長は、ここでは「人事に纏わる問題には関与すべきではない」と述べるが、事項1では「県に貢献された方には敬意を払うべきあり、人事改革を行いたいのであれば、丁寧に進めるのが適切であったというのが我々の意見です」と踏み込んでいる。

【事項3】令和7年実施の県知事選の事前運動をめぐる問題

知事が令和5年下半期から次回知事選への投票依頼を開始し、令和6年2月にはD氏が随行して但馬地域の商工会と商工会議所に出向き、他の市町の商工会。商工会議所に投票依頼を行っている様子であり、これが公選法違反、地方自治法違反であると指摘された件である。

委員長は、知事が当時、県内各地の商工会・商工会議長を訪問したことは事実だが、その際に知事選の支援や投票依頼を行った事実は認められず、予算や政策についての説明と意見交換が目的だったとした。本件文書の記述も虚偽だった。

【事項4】贈答品に係る問題

本件文書には、「贈答品の山」として「知事のおねだり体質は県庁内でも有名。知事の自宅には贈答品が山のように積まれている」と記され、「コーヒーメーカー」「ロードバイク」「アイアンセット」「スポーツウェア」の4例が挙げられている。

委員長は、随行者の所属部にコーヒーメーカーとトースターが届いたのは事実だが、知事個人が受け取ったものではなく、随行者に秘書課に届けるように指示した事実もないので、主要な部分でこの指摘は事実ではないとした本件文書の記述は虚偽であった。

ロードバイクとゴルフクラブ、そしてスポーツウェアも知事個人への贈与は認められなかったとし、特別交付税算定での見返りや総務省出向者冷遇の事実も認められなかったとした。以上、本件文書の記述は4件とも虚偽であった。

但し、委員長は各視察先とは利害関係がないとは言い切れないので、疑念を招かぬよう慎重な行動が必要であったと思われると提言した。また贈答品問題では、4月の公益通報を受けてガイドラインを策定し、物品受領のルールが明確化されたことはご承知の通り、と述べた。

報告書は「知事のおねだり体質・・」につき、ホットラインやアンケートを参照したが「庁内で有名な噂とまでなっていた訳ではなく」、アンケートも匿名が大半で、質問形式も厳密ではないためこれを評価することは困難と記している

ならば、委員長は事項4の結論としてその様に述べるべきだろう。膨大な報告書を詳しく読む者は多くないからだ。百条委員会のアンケート結果はメディアの論調を先導したが、それが杜撰だったことはネットで夙に知られていた。ここが世論分断の原点ともいえよう。

【事項5】令和5年7月開催の政治資金パーティーをめぐる問題

委員長は、知事の後援会が実施した政治資金パーティーに信用保証協会役員が関与した事実はあるが、本件文書にある指導員の削減や補助金カットを仄めかした事実やその活動に県職員が関わった事実は認められなかったとした。本件文書の記述は虚偽であった。

ただし、信用保証協会の幹部が名刺を配ってパーティー券販売活動の一部を担ったということは、協会の公的イメージや業務の中立公平性に対する信頼を傷つけかねないので、幹部には慎重な行動が求められたと言って良いと考えると、提言した。

【事項6】令和5年11月実施の優勝記念パレードをめぐる問題

本件文書は、令和5年11月23日実施の優勝パレードを、県費をかけずに実施するべく、クラウドファンディング(CF)や企業の寄付を募ったが必要額を下回ったため、元副知事を司令塔にして、信用金庫への県補助金を増額し、それを募金としてキックバックさせることで補ったとし、公金横領・公費の違法支出と記した。またパレード担当の課長(同課長)が「この一連の不正行為と大阪府との難しい調整に精神が持たず」うつ病を発症し、現在病気療養中と記している。

委員長は、本件が「真実相当性」の問題に関わるからか、詳しく経過を述べたが、結論として元副知事が補助金と協賛金集めの両方に関わったものの、時系列でみても両者は別物で関係はなかったと考えているとした。これも本件文書の記述は虚偽である

但し、委員長は、これらの事実は委員会が大阪と兵庫の職員間のメールなどを細かに分析して分かったことであり、また補助金と協賛金の両方で重要な役割を果たした副知事本人は時系列から2つは別の問題と理解できるが、外部(即ち、元局長)から見ると関連があると見えてもおかしくはないと思われると述べた。

この「外部から見ると関連があると見えてもおかしくはないと思われる」という部分が3号通報の要件である「真実相当性」の有無に関係するというのである。そして委員長は「この件については背任罪で告発がなされているようですから、最終的にはその結果を待たなければならないが、・・キックバックはありえない」と結論した。

関連して委員長は労務環境に言及し、同課長は協賛金集めに携わっていないので「その職員が不正に巻き込まれたということはなく、その指摘は誤りだと思われます」としたが、同課長のパレード開催直前1ヶ月の時間外勤務が130時間超に及んだことは心身に極めて大きな負荷がかかったと思われるので、県は無理のない現実的な方針を取ることが望ましかったと提言した。

報告書によると、令和5年9月22日発足のパレードのプロジェクト副リーダーだった同課長から11月10日に不眠を訴えられた上司は、不調時には無理せず休むように指示していた。また同課長はパレード終了後の12月8日にプロジェクトを外れたが、翌令和6年1月26日から病気休暇をとり、同年4月に死亡している。

委員長は、「その職員が不正に巻き込まれたということはなく、その指摘は誤りだと思われます」と述べたが、本件文書の「パレードを担当した課長はこの一連の不正行為と大阪府との難しい調整に精神が持たず・・」をどう受け取るかは人それぞれである。

本件文書が10ヵ所に送られた令和6年3月12日以降に、この問題が拡大した。時系列として、同課長の死が翌月の4月であったことに本件文書のこの記述が影響した可能性はなかったか、との疑問が残る。

(その②:事項7パワハラ事例①につづく)

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