トランプ氏の関税ゲームは2月2日の中国向け10%を皮切りに第2弾が3月2日のカナダ、メキシコへの25%と中国への追加10%、第3弾が3月10日の鉄鋼とアルミニウムの25%関税、そして第4弾が今回の自動車関税25%になります。ちなみに第5弾が4月2日に発表予定の相互関税でこれが一番大きなものになるはずですが、全容は見えていません。これとは別に対欧州向け関税とかベネズエラの石油関税といった個別案件も出てくるわけで留まるところを知りません。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより
今回の自動車関税発表を受け、欧州とカナダは報復関税を検討しています。トランプ氏は「来るなら来い、もっとすごい報復をしてやる」と意気込んでいます。世界経済をここまで震撼させた人物もいないと思います。
トランプ氏の思想はアメリカ第一主義であり、アメリカさえよければ他国はどうなってもよいと解釈してよいでしょう。カナダ、メキシコへの25%関税導入の際、不法移民と違法薬物フェンタニル問題を理由に挙げていましたが、私には単なるこじつけで理由は何でもよかったのだろうという気がしています。
さて今回の自動車向け25%関税、正直わかりにくいと思います。完成車と主要部品共に25%追加関税で除外事項としてカナダ アメリカ メキシコの関税協定であるUSMCAに基づく免税プロセスを取っている部材は関税が当面かからないとされます。一台のクルマを作るのにどの部品にどれだけ税金がかかるかいちいち詳細に見て行けば膨大な時間がかかるでしょう。トランプ氏のこの関税発動は4月3日かもしれませんが、実際に現場に人が配属され、関税を査定するのは相当の時間を要するのではないかと想像しています。下手すれば輸入港の関税システムがマヒして保税置き場が車であふれることもあり得ます。
わかりやすいクルマ、例えばポルシェは部品を含め、全車ドイツからの輸入ですからストレートな25%関税ですが、トヨタの場合、カムリのような全量アメリカ製もあるし、日本とアメリカの部材が混在し、更にUSMCAをクリアしている部材が多い車両もあるのでそのあたりのインパクトはブランドごとの積み上げの上で各社へのインパクトを計算することになります。
ざっくりした予想では日本勢では日本からの輸出が現地販売の52%を占めるマツダと44%のスバルが最大の受難者、ついで17%の日産になると思いますが、日産の場合はそもそもの経営危機の最中での話なので経営の屋台骨という点では日産への影響は大きいと思います。
では実際の関税はどう扱われるのか、といえばそれらの自動車メーカーが何か金銭負担をするわけではありません。輸入ディーラーが輸入時に査定された関税を払うだけです。今回の25%の追加関税は既存関税の2.5%に上乗せする部分ですから自動車関税そのものは27.5%になります。ディーラーは仮に今まで500万円で輸入していた車のコストに137.5万円の関税がかかり、637.5万円が輸入コストになります。当然ながらエンドユーザーへの販売価格はこの関税分を引き上げないと輸入ディーラーは赤字になります。
一般的には製造元である自動車メーカーへの出荷価格の引き下げ要請、及びディーラーのリストラによる販売コストの削減を行い、なるべく関税増分を圧縮するように努力するでしょう。特にメーカーからは販売奨励金を含めた様々なインセンティブが出ると思われ、消費者からすればどの車がいくらで売られているのかさっぱりわからない事態も発生するかもしれません。
いずれにせよ、アメリカ内にある輸入車販売ディーラー、特に日系、韓国系、ドイツ系は販売数の激減が予想されると思います。ではアメ車の一人勝ちか、といえば全然そのような様相もなく、GMもフォードもカナダ、メキシコなどとの協業の中でクルマを作り上げているので経営インパクトは相当あるとされます。とくにフォードへの影響は大きく、ジム ファーリーCEOは「前代未聞」で「壊滅的」と訴えています。影響が少ないとされるテスラは逆に政治的なコンフリクトを起こしており、これでテスラがバカ売れすることもまずないだろうとみています。
2024年、アメリカは約1600万台の車を販売しています。私はこの関税措置で車業界に勝者なしで消費者は様子見をするのではないかと思います。つまり買い替えが進まず、販売が大きく落ちるシナリオです。当然ながら車が売れなければディーラーのリストラはあり得るわけでトランプ関税が一部の人の職を奪う事態になる公算は高いとみています。
もう一つは車の買い替えの停滞が招く影響です。コロナの時、半導体が足りず、自動車ディーラーから売る車が全くなくなる事態が生じました。今回、ディーラーには車があるけれど車が売れないという事態が予想されますが、消費者行動は「この関税は何時か無くなるかもしれない」という期待で一種の「我慢モード」にこれから入るとみています。近年のクルマは性能が良いので1-2年、延命させることは全く問題ありません。
すると仮に将来、この関税が撤廃されたとき、潜在需要が一気に爆発し、こんどはディーラーに車がない状態なりかねないのです。つまりトランプ関税は人々のマインドに強く影響し、消費の振れ幅を過剰にさせるリスクはあるでしょう。当面は巷に言われるスタグフレーション(不景気なのに価格が上昇すること)を招くと思います。これはFRBにとって超難問となるはずで容易な金融政策の変更ができなくることも予見できます。
一方、高額車への影響は軽微だと思います。特定の車種を目指す人は金額の問題というよりその車をいかにゲットするか、ということですので今回の影響が最も出るのは大衆車だと思います。
もう一つ先読みをすれば中古車市場への影響は大きくなります。仮にこれが恒久的な措置だとすれば今後の輸入車の購入価格は25%上がるわけですから中古市場でも今後値上がりが予想されます。すると関税がかかっていなかった古い車への需要が高まるというシナリオも描けないことはないと思います。多分これは3-4年後の話になります。
私は事業者として何が起きるか考えるのが仕事ですが今回の関税が引き起こすであろう影響は思った以上に深刻になると考えています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年3月28日の記事より転載させていただきました。