2月末から始まったラマダン(断食の月)が終わり、オーストリアでもイスラム教徒は寺院や家庭でラマダ明け(イード・アル・フィトル)の祝いを行った。当方はイスラム教徒ではないが、以前イスラム教徒の友人に招かれてウィ―ンのイラク大使館で開催されたラマダ明けの祝いに何度か参加したことがある。スーダンの国連記者は敬虔なイスラム教徒らしく、「ラマダンは心を洗い清めるチャンスだ」といっていたことを思い出す。ただ、イスラム教の5行の一つ、ラマダンの期間前後はイスラム過激派によるテロ事件が起きる時でもあることから、各国の治安関係者は警戒していると聞いた。幸い、今回は大きな不祥事はなかった。

正教会の復活祭の日、ロシア国民に祝意を表明するプーチン大統領=2024年5月5日(クレムリン公式サイトから)
オーストリアでは現在、イスラム法(Islamgesetz)の改正が検討されている。具体的には同法の厳格化だ。プラコム統合担当相は先月23日、「イスラム過激主義に関連したラディカリゼーション(急進化)の問題がある。そのため、イスラム法をどのように更新できるかを詳細に検討する必要がある。実際に、一部のモスクで問題が発生していることが確認されており、厳しい対応が必要だ」と述べた。
イスラム法改正では、14歳までの女子に対するスカーフ(ヒジャブ)着用禁止が検討されている。同相は「幼い少女たちが抑圧されることを許さない。イスラム過激主義が台頭している国々では、女性がスカーフを着用していることが多い。スカーフ禁止に関する具体的なモデルはまだ確立されていないが、専門家と協議しながら法的に有効な形を模索している」という。
一方、4月20日はキリスト教会にとって一年で最大の祝日、復活祭(イースター)だ。今年はローマ・カトリック教会と正教会が同じ日に復活祭を祝う。ローマ・カトリック教会(およびプロテスタント教会)は通常、グレゴリオ暦を使用して復活祭の日付を決定する一方、正教会の多くはユリウス暦に基づいて復活祭の日付を計算する。そのため、正教会の復活祭はカトリック教会よりも1週間から5週間遅れることが一般的だった。2025年は両暦で計算した日付が一致するため、同じ日に祝われることになったわけだ。
ちなみに、キリスト教の復活祭の日付は、325年の第1ニカイア公会議で決められた。その原則は「春分後の最初の満月の後の日曜日」となっている。その第1二カイア公会議から今年はちょうど1700年目に当たる。キリスト教の教義を統一し、復活祭の日付を決定した重要な会議だった。この節目に、東西キリスト教会が同じ日に復活祭を祝うわけだ。それゆえに、2025年の復活祭が、東西両教会の対話を促進する象徴的な出来事となるかもしれない。
ところで、ロシア正教会も今年は欧米諸国のキリスト者と同じ日にイースターを迎えることになるから、敬虔なロシア正教徒を自負するロシアのプーチン大統領も正教会でイースターを祝うはずだ。知恵者プーチン氏だから、東西両キリスト教会が同じ日に復活祭を祝う今年、ウクライナ戦争で「イースター停戦」を言い出し、平和の指導者として世界にアピールするかもしれない。
ソ連国家保安委員会(KGB)出身のプーチン氏はかってロシア正教会の洗礼を受けた経緯を語ったことがある。曰く「父親の意思に反し、母親は自分が1カ月半の赤ん坊の時、正教会で洗礼を受けさせた。父親は共産党員で宗教を嫌っていた。正教会の聖職者が母親に『ベビーにミハイルという名前を付ければいい』と助言した。なぜならば、洗礼の日が大天使ミハイルの日だったからだ。しかし、母親は『父親が既に自分の名前と同じウラジーミルという名前を付けた』と説明し、その申し出を断わった」という。
欧州社会は久しくキリスト教社会と言われてきたが、イスラム教徒の数は年々増加してきた。朝にはミサの時間を告げる教会の鐘が鳴り、夕にはイスラム寺院からの祈り時を伝えるアサ―ンが響き渡る。欧州ではキリスト教会とイスラム寺院が時にはいがみ合い、時には共存してきた。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年4月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。