ビックバンの大爆発で宇宙が形成されたのは今から約138億年前という。私たちが住む地球が誕生したのは約46億年前だ。その地球に人類が誕生したのは約500万年前だ。宇宙の形成プロセスを振り返ると、ビックバンから飛び出した莫大なエネルギーから水素、それからヘリウム、そして様々な素粒子、原子、分子が生まれ、星が誕生していった。インフレーション論によれば、宇宙は今日も膨張を続けている。最も興味深い点は、宇宙に広がった最初のエネルギーは完全に消え失せることなく、形態を変えながらも今も存在し続けているという事実だ。

「地球」NASA公式サイトから
138億年、46億年という天文学上の数字を振り返る時、私たちの前に、悠久な歴史が既に経過してきたという事実が胸に迫ってくる。長い天文学的年数から見たならば、私たちが生きてきた歴史は瞬きするほどだろう。
思考を宇宙の世界に拡大していくと、人類の歴史が瞬間に過ぎず、そこで生きている人間が微々たる存在に感じ、心細くなってしまう。
天才の物理学者アインシュタインは教会の教えや聖書の世界の神を信じなかった。それらは伝説に過ぎないと受け取っていたからだ。しかし、神の存在は否定していなかった。彼はオランダの哲学者スピノザの神観(汎神論)に感動していた。アインシュタインは眼前の宇宙、森羅万象が余りにも秩序正しく、一定の公式に基づいて運営されていることに感動し、敬意すら払っていた。サムシング・グレートな存在への敬意とでもいえるかもしれない。その意味で、彼は無神論者ではなかった。
2022年、ノーベル物理学賞を受賞した世界的な量子物理学者アントン・ツァイリンガー教授は、「偶然でこのような宇宙が生まれるだろうか。物理定数のプランク定数(Planck Constant)がより小さかったり、より大きかったならば、原子は存在しない。その結果、人間も存在しないことになる」と指摘している。宇宙全てが精密なバランスの上で存在しているというのだ(「量子物理学者と『神』の存在について」2016年8月22日参考)。
悠久な時間が織りなす宇宙は時に人を威嚇することもあるが、地球という惑星で居住する人類は選ばれた存在ではないかと感じる。なぜならば、ツァイリンガー教授がいうように、地球には全てが整い、その一つでも欠けていたなら人は存在すらできなかっただろうと思うからだ。
満天の夜空を見ることができるなら、ビックバンが起きた138億年前や地球が誕生した46億年前が昨日の出来事のように私たちの心を捉えるかもしれない。
宇宙空間には銀河が至るところにあり、それぞれが数十億の星、惑星、衛星を持つ独自の世界を広げている。人間という“種”や冥王星までの太陽系全体も大宇宙の中では砂漠の砂粒にもならない、という思いが自然に沸いてくる。それは人間や地球を卑下するものではなく、圧倒的な宇宙の広がりへの畏敬、といったほうが当たっているだろう。
宇宙は喧噪な日々を生きる私たちの心を解放し、無限な空間まで広げてくれる。私たちが生まれるずっと前から、宇宙は存在してきたということは、私たちは宇宙の孤児ではなく、私たちが生まれてくるために長い準備があったことを教えてくれる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年4月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。