トランプ米大統領はまるで独裁者ヒトラーの再来

全世界を敵に回すファシスト

トランプ米大統領は2日、ほぼ全世界に対する関税引き上げ(10‐34%)を発表、「貿易不均衡の是正、産業基盤の再生、国の借金の返済(米国債)などにより、米国をかつてないほど偉大な国にする」と宣言しました。米国が戦後、主導してきた自由貿易体制、グローバリゼーションを自ら崩壊させ、「米国一強」体制をつくりたいようです。帝国主義に親近感を持っているのでしょう。

関税を発表するトランプ大統領 バンス副大統領Xより

日本のメディアは「歴史の過ちを一顧だにしない蛮行である」(朝日新聞社説)、「戦後の世界経済を発展させる原動力を破壊する暴挙である」(読売社説)、「各国が関税引き上げ競争に走った1930年代の愚挙が繰り返すのだろうか」(日経社説)を非難しています。新聞もテレビも関税引き上げのことばかりでなく、トランプ氏の帝国主義的思考、中国に対抗しようとする米国の覇権再構築の願望にも言及すべきです。

株式市場は先行きのインフレ、経済停滞を懸念し、東京市場では連日、1000円以上も株価が急落しています。人や各国政府には耳を貸さないトランプ大統領に反省してもらうには、市場の審判がくだればよい。インフレが再燃し、景気が低迷し、株価も下がれば、来年の中間選挙、その2年後の大統領選もトランプ氏は首筋が寒くなることでしょう。

もっとも市場の審判に任せず、トランプ氏は全世界を敵にしたのですから、G7、G20、欧州連合(EU)、世界貿易機関(WTO)は米国抜きで米国を非難する声明をだすべきです。日本も「極めて残念で不本意だ」(石破首相)など、ありきたりのことを言わず、米国をはっきり非難してほしい。非難すると、今後のディールで不利な扱いを受けるのではないかと尻込みするのはやめてほしい。

読売新聞は「トランプ氏とパイプを構築し、積極的に働きかける安倍・元首相のような外交努力を怠ってきた」(政治部長のコラム)、「石破首相のリーダーシップも問われる。2月にトランプ氏と会談したにもかかわらず、相互関税の決定まで、なすすべもなかった」(社説)を主張しました。この段階に及んでは、非難する相手は石破首相ではなく、もっぱらトランプ氏であることを間違えないでほしい。

トランプ氏はなぜ、全世界を敵にまわすような愚劣な振る舞いをしているのでしょうか。

中国に追い上げられている現状を打開すべく、米国の覇権の再構築を他国の犠牲の上に立って進めようとしているからだと思います。「トランプの手法はディール(取引)だから、乱暴な数字を並べたてており、交渉の進展に合わせて、関税率を下げてくるだろう」、「株式市場も過剰反応して急落している」との指摘はあります。それはありうるかもしれません。

もっとも関税引き上げはトランプ氏の構想の入り口にすぎないような気がします。トランプ氏は三権分立(大統領、連邦議会、連邦最高裁)を崩し、大統領の権限を一方的に広げる「単一執行府論」を持ち出しています。保守系の学者らがずっと提唱し、トランプ復権のために作成した政策提言(ヘリテージ財団)を下敷きにしているともいわれます。

民主党系が多い連邦政府職員の大量解雇、海外援助を担う米国際開発局(USAID)の解体、自身の犯罪捜査に関わった捜査機関への報復、メディアに対する締め付け、権力への批判をいとわない研究者、大学(ハーバード、コロンビアなど)に対する援助削減、憲法が禁じる3期目も探るとの意向など、連日のように米国の理念の体系を崩そうとする情報が伝わってきます。トランプ革命でしょうか。

18世紀型の帝国主義の復活を目指している。中露と対抗するには、相手国と同様、独裁者政治がよいと思っている。そのためには、これまでの同盟国、国際機関の存在を無視する。そんな解説もよく聞かれます。極右の活動家の助言も聞いている。1950年代のマッカーシズム(赤狩り)の再来の指摘まで言われます。トランプ氏は大衆扇動家どころか、ヒトラーに似ているファシスト(独裁者)のようです。

最終段階では、グリーンランドを支配し、北極圏に開拓地を広げるのでしょうか。北極圏に接するカナダにも影響力を広げる。北極圏を囲むように存在するロシアとは戦わない。米ロを中心に主導権を握る。地球温暖化で北極圏航路は今後、発展するとみて地球温暖化は歓迎で、パリ協定には背を向ける。

トランプ氏の政治は、米国と世界の分断につながります。その前に米国内の分断があります。有権者が共和党と民主党がほぼ半分に割れ、米国政治は二分されています。特に米国の製造業が衰退し、白人男性が不満を持ち、共和党支持に回っている。衰退した製造業を再生するのが今回の関税引き上げの大きな狙いとされます。その結果、米国は日米、米欧を含め同盟国との分断をいとわないことになった。

つまり「米国内の分断」が「世界の分断」を招いたともいえます。米国の有権者は全世界に向けた関税引き上げという前代未聞の措置は、インフレ、経済停滞という形で米国民に最も重く降りかかってくることを知るべきです。米国の有権者の懸命な判断を期待します。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2025年4月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。