欧州で難民申請数に変化が見られる:ドイツが難民申請件数で第3位に後退

興味深いデータが報じられていた。ドイツの「ヴェルト日曜版」が今年第一四半期の難民申請に関する欧州連合亡命庁(EUAA)の未公表の統計を掲載したが、それによると、毎年欧州一の難民受け入れ国だったドイツが難民申請件数では第3位に後退、それに代わってフランスが4万871件でトップ、次いでスペイン。ドイツは3万7387件と前年同期比で41%急減している。

EUAAの「2024年難民報告書」

ちなみに、最下位はオルバン首相のハンガリーで22件の難民申請件数、スロバキアは37件だ。ハンガリー・ファーストを掲げるオルバン政権は「移民難民ゼロ」を目標としている。スロバキアのフィツォ首相も隣国ハンガリーのオルバン政策を倣って難民・移民に対して強硬政策を取ってきている。

シリアからの難民については、アサド政権が崩壊後、国外追放と帰還に関する議論が始まっている。オーストリアを含む多くの国がシリア国民の難民手続きを一時停止している。シリアのアフメド・アル=シャラア新政権の民主化の動向次第だが、シリア難民が今後急減することが十分予想される。一方、フランスでベネズエラからの難民申請件数は増えている。ベネズエラでは政情不安定や経済困窮に悩む国民の4分の一が隣国のコロンビアやぺルなどの南米に避難しているが、欧州ではフランスやスペインでベネズエラ人の難民申請が増えている。

ヴェルト紙によると、欧州全体の難民の出身国別では、ベネズエラ、次にアフガニスタンとシリアが続く。ベネズエラ人からの難民申請件数は今年第一四半期は前年同期比で44%急増し、ウクライナ、中国人、インド人も増加傾向だ。

中東・北アフリカから欧州に大量の難民が欧州に殺到した2015年には、大多数の難民はドイツが最大の目標先だったが、今年に入り、変化がみられるわけだ。ちなみに、今年第一四半期(1月~3月)、最大の難民申請件数となったフランスはウクライナ避難民の最大の難民先となってきた。

ただし、上記のEUAAのデータはあくまで今年第一・四半期だ。第二・四半期以降、ドイツで難民申請件数が増えてくると予想されている。

ドイツでは現在、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)との間で連立交渉が展開中で、移民政策と税制問題で激しい政策争いが行われている。移民政策では、CDUのメルツ党首は1月、「国境での難民申請拒否」など厳格な5つの方針を発表し、「一切の妥協をしない」と明言してきたが、SPDとの連立協議の草案では「近隣諸国と協調して対応する」と柔軟な表現に変わっているという。CDUは「近隣諸国の合意は不要」と主張してきただけに、CDU支持者にとって「なぜ譲歩するのか」といった批判が飛び出している。

ドイツ地区協会(DLT)は、戦争や危機地域からの移民・難民の受け入れ全面停止を主張している。DLTのアヒム・ブローテル会長は「最終的には、内戦難民を受け入れる必要があるのか」と疑問を呈し、「EU内の難民がより公平に分配されることを期待している」と述べている(ドイツ民間放送ニュース専門局NTV)。

ドイツの場合、移民反対、外国人排斥を標榜する右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の飛躍を警戒し、CDU/CSU内で移民・難民への強硬論が出てきている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年4月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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