さしずめ「トランプ ショック」と命名するのでしょう。世界は経済の動き、金融の動き、株式市場の動きにくぎ付けとなり、戦々恐々としています。いったいどうなるのか、誰もわかりませんが、わからないでは答えにならないので私なりの予想をしてみたいと思います。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより
この週末、不動産物件をいくつか見て歩きました。その理由は自分が住む集合住宅のコンシェルジュと駄話をしていた際、「この建物で売りに出ている物件に買い手がつかないんだよねぇ」というのでマーケットの実態を探りに出たわけです。
バンクーバーの不動産統計には売れるまでに要する日数、平均売買日数が21日と出ていますが、実はほとんど実態を表していない指標です。というのは物件は売り出しをしたときが一番反応が良く、2週間もすれば注目度が下がり、内見する人がいなくなるため、オファーが入らなかった場合、一旦Saleのリスティングから落とし、1週間ぐらいしてから再度価格を見直してアップし直すのです。売買日数もそこからまたゼロスタートなるので統計は当てにならないのです。実態は数か月とみてよいでしょう。
で、実際に物件を見て歩き、不動産屋と話をすると「客が来ない」「全然オファーが入らない」「売り手が価格を引き下げても誰も買わない」「売り出して6か月待っている」…と悲惨な状況でした。春は通常、不動産マーケットが動くのに厳しい状況はカナダが移民を絞ったことと景況感が悪いことが大きいと思います。コロナ前とは雲泥の差と言ってよいでしょう。
アメリカの不動産市況もJPモルガンの分析では今回のトランプショックの前ですら「前年とほぼ変わらず」の見込みでした。気になるのは建築中物件が突出しているため、それらが完成後市場に出回った際に市場が更に緩む公算はあります。
さて、私が不動産の話をまず振ったのは景況とは人々が今、お金を使う時期か、待つ時期か考えるにあたり、不動産購入という人生で最大級の買い物に動くか動かないかは時の景況を反映しやすいからなのです。私が見る限り、バンクーバーの不動産市況がここまで冷えているのは初めての経験かもしれません。
景気が良いか悪いかの判断は収入や株式投資などからの副収入を通じた所得の増分に影響を受けやすいですが、それ以上に周りの雰囲気に流されやすいものなのです。古い例ですが、バブル経済の80年代後半、給与や賞与が爆発的に増えたわけではなく、むしろ忙しいながらも残業手当があり、社費による飲食も割と緩めだったことが人々の雰囲気を前向きにし、一種の祭りのような状況を作り上げたことが盛り上がった最大の理由であり、根拠なき不動産価格や株価の上昇と未実現益の積み上げで泡を掴んだわけです。
北米ではそもそも景況感にやや疲れが出てきた中で今回、トランプショックで一気に背中を押しているというのが私の見立てです。この週末には全米50州で1300近いデモが開催されたと報じられています。ターゲットはトランプ氏とマスク氏。そのトランプ氏は相互関税は予定通り引き上げると述べているため、私は国民の不満は次のレベルである暴動になる可能性すら否定できないとみています。全米が荒れに荒れ、政権トップに危機感が募れば関税のフリーズや撤回というシナリオはあり得ると思いますが、すべてはトランプ氏個人の判断に委ねられます。
リーマンショックやコロナの際の市場の大暴落と違い、今回はトランプ氏が明白なる犯人であり、人為的であります。トランプ氏の主張する関税の壁を作ることでアメリカ国内に製造業が回帰し、国内生産が潤い、雇用も増えるというシナリオを論じる経済学者の話を私は聞いたことがありません。
パウエル議長は4日の段階ではまだ判断できないと述べています。個人的に考えるアプローチとしては物価上昇率から関税による恣意的な物価上昇率を補正し、調整後の数字がFRBが目指す2%に近づいているか計算するしかないと思います。各種関税はこれからようやく施行されるわけで統計値に出てくるには2-3か月先になります。FRBは市場の動向をみて予防的利下げをする可能性はありますが、本格的な判断は6月とか7月にならないとできないとみています。
今週の株式市場は大荒れになると思われ、特に東京市場は心配性の個人投資家の買い手に支えられてきた中、海外機関投資家が利益が出ている銘柄を見境なく売却することから防御の手段はなく、崩落しやすいとみています。信用売買をしている個人投資家には追証が発生しやすくなるとみています。一部では売られ過ぎ、底打ちという専門家の意見もあるし、実際、大バーゲン価格をつけ始めている銘柄が多数出てきていますが、パニックの時には平常な判断力が無くなり、市場からの撤退が主眼となるため、何らかのきっかけがあるまでは厳しい状態が続くと思います。
トランプ関税は経済学の歴史に残る愚策となるはずです。更に想像を膨らませ、悪いシナリオを描くならここから世界不和が始まり、国家間の信用関係にひびが入るような事態が起きればとそこから先は目も当てられないことになります。
トヨタがアメリカで販売する車の価格を変えないと述べています。これは消費者にはすさまじく勇ましい話ですが、トヨタの利益率が大きく下がるのみならず、自動車市場において歪みを生じさせ、他の自動車メーカーとの共存共栄にヒビが入ることになりかねず、マイナスの影響にも注視しています。
関税問題はどこかで収まるかもしれませんが、アメリカ不信というレッテルが貼られたのは大きいでしょう。世界から市場はアメリカだけではない、という動きも出かねず、しばし、その落としどころを探る展開となりそうです。また、中国が笑っているとされますが、それが明白な傾向となった時、トランプ氏はどのような顔をするのでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年4月7日の記事より転載させていただきました。