トランプ政権「常識の革命」レポート②:DOGEが切り込む腐敗的既得権益

(前回:トランプ政権「常識の革命」レポート①:麻薬、移民、エネルギー問題

第Ⅲの柱 腐敗的既得権益の一層

いよいよ、「常識の革命」の本丸とも言える第三の柱「腐敗的既得権益の一掃」について述べていきたい。このテーマはテスラやX(旧ツイッター)などを率いる実業家、イーロン・マスク氏の存在抜きに語ることはできない。

新たに立ち上げられたDOGE(政府効率化省)のトップに就任したのが、マスク氏である。民間人を行政機関のトップに据えるという異例の人事だが、トランプ氏は全幅の信頼を寄せている。マスク氏と彼が率いるチームが「腐敗的既得権益の一掃」に決定的な役目を担っている。

真の民主主義、機能する民主主義であるためには、政府は国民に応えなければならない。しかし、国民に応えることのできない、選挙で選ばれたわけでもない強大な官僚機構が存在している。選挙で選ばれた人たち、つまり大統領や議会の人々が、その官僚機構に影響を与える力を持っていなければ、それでは人民による統治ではなく、官僚機構による統治ということになる。これは民主主義に反しており、違憲である。したがって、権力を国民に戻し、官僚の専制政治を行わないようにすることが不可欠である。

とは、マスク氏の言葉※32)である。

DOGEという大ナタ

DOGEの目的は、その名の通り「政府を効率化する」ことなのであろうが、それは表向きの表現で、本当はマスク氏の言葉に表れているように、強大な官僚機構をバラし、小さな政府を実現し、議員の影響下に置き、国民の手に民主主義を取り戻すことであろう。分かり易く言うならば、非民主主義的になってしまった官僚機構をぶっ壊しに来ているのだ。

DOGEの活動で世界にまず衝撃が走ったのは、USAID(アメリカ国際開発庁)の解体であろう。USAIDは世界各地で人道支援事業を展開するため設立され、職員数は約1万人、数十カ国で活動している。

「人道支援」と聞くと、世界と米国の役に立っている印象を持つが、マスク氏はUSAIDを「ミミズ(不正・濫用・汚職)が入ったリンゴではなく、ミミズの塊そのものだ。もはや修復不可能だ」と表現している※33)

トランプ氏も「普通ならば、200個の事業のうち、殆どが良い事業で、不要な事業が僅かにあると考えるでしょう。しかし、僅かにあるのは良い事業の方で、殆どが無駄なものだった」と語る。

USAIDなどの行政機関を閉鎖することについて、様々な批判があることは事実だ。理由は「人道支援が途絶えてしまう」、「マスク氏は選挙で選ばれていない」、「世界における米国のプレゼンスが落ちて、中国にその隙を突かれてしまう」などだ。

一部では誤解があるようだが、トランプ氏とDOGEは、人道支援を全て止めると言っている訳ではない※34)。トランプ氏自身もFOXニュースのインタビュー※35)で「良い事業については、マルコ・ルビオ長官が率いる国務省で継続すれば良い」と答えている。

共和党のジョニ・アーンスト上院議員は、USAIDの問題を何年にもわたって追跡してきた一人だ。彼女が2月3日にXのスペース(ラジオ)※32)で明かしたのは、官僚機構の傲慢さと、拠出金の中抜きの実態である。

例えば「ウクライナへの人道的支援」という名目で出金されたお金の詳細を議員として調べようとしたら、USAIDは情報開示を拒んだそうだ。仕方がないので、マッコール下院議員と共に公式の議会調査を開始し、さらに半年ほど交渉した後、ようやく彼女のスタッフはごく限られたデータにアクセスすることを許された。しかし、メモを取ることはできず、ずっとカメラを向けられていた。

しかしその調査で分かったのは、いくつかのケースでは、間接経費率(NICRA)が50%~60%を超えていたことである。しかもこの経費には、下請け業者のコストは含まれていないという。

アーンスト上院議員が挙げたような事例は恐らく氷山の一角で、まさにその事実がトランプ氏やマスク氏が強硬な姿勢に出ている所以であろう。選挙で選ばれた議員が官僚に情報開示を求めることすら困難の極みで、仕組みを改善しようものなら気が遠くなりそうな話だ。しかも、税金であるにも関わらず、中抜きという手法で流れる多額の使途不明金。これはもはや汚職の横行と言えるのではなかろうか。

詳細は後述していくが、使途不明金問題はUSAIDに限った話ではなく、様々な政府機関で横行しているようだ。もはや漸進主義で対処できる次元を超えているので、革命によって正さねばならない。きっとそういう思いでトランプ政権は突き動かされているのであろう。

DOGEが問題視し、支払いをキャンセルした具体例としては、例えば表3に記載されているようなものがある※36)(1ドル≒150円):

表3

最新の状況はDOGEのホームページ※37)で確認できるので、そちらをご覧いただきたい。いずれにしても、とても納税者が納得できる使途に税金が使われているとは言い難い有り様である。また、先述した事例が示すように、不当な中抜きが本当に横行しているならば、尚更看護できないであろう。

そして、DOGEの鋭い切り込みはUSAIDに対してだけではない。様々な行政機関にメスを入れている。

表4はDOGEのホームページに掲載されいている節約した金額の上位10リストである(3/20時点)。現時点で総額1150億ドル(≒17兆2500億円)を節約したとしている。参考までに日本の令和6年度防衛関係費の歳出額は7兆7249億円※38)である。いかに多額かがお分かりいただけるであろう。

表4 節約された行政機関トップ10

EPAも多額送金発覚

DOGE以外にも、トランプ政権下で任命された各リーダーたちは「不正・濫用・汚職」のチェックを矢継ぎ早におこない、「常識の革命」の一翼を担っている。

例えば、環境保護庁(EPA)長官に任命されたリー・ゼルディン氏は、バイデン政権がトランプ政権誕生の直前に、EPAを通じて200億ドル(3兆円)ものお金を外部の金融機関に流出させていたことを突き止め、即座に返金するよう訴えている※39)

事の発端は2024年12月にプロジェクトヴェリタスがXに公開した動画※40)である。極秘に録画された動画では、当時のEPA職員が「トランプ氏の大統領就任前に、(沈みゆく)タイタニック号から急いで『金の延べ棒』を外に放り出している」と語っている。

ゼルディン長官は、バイデン政権がトランプ政権誕生前に急いでお金(『金の延べ棒』)を意図的に流出させていたとして、厳しく追及する姿勢を明確にしている※41)

動画に登場したEPA職員(当時)は次のようにも述べていた:

(金の延べ棒は)非営利団体、州、部族に出している。なぜなら、トランプが大統領に就任したら、政府系のプログラムだと回収されやすいけど、そうじゃないところの方が回収しにくいから。トランプが勝利した場合の保険みたいなものさ。共和党にお金を回収されないようにしている。

まともな感覚が完全に抜け落ちてしまって、罪悪感や恥といった人として持つべき感情がまるで感じられない言葉が並ぶ。常識を取り戻す運動は、そういう心や精神こそ重要かもしれない。

そしてゼルディン氏が調査を開始すると宣言した約1週間後(2/20)には、200億ドルのうち20億ドル(3000億円)が”Power Forward Communities”に流出していたことが判明※42)

同団体は、元民主党州知事候補ステイシー・エイブラムスとつながりのある非営利団体で、低所得者層コミュニティで家庭用電化製品をグリーンな代替品に交換する資金を提供することで「気候への影響を減らす」ことを目指している。

驚くことに補助金契約書には「20億ドルの分配を21日以内に済ませることと、『予算の立て方』と呼ばれる研修を90日間以内に完了させること」と書かれていたとゼルディン氏は明かす。既に手元のお金を分配してしまった後に、予算の立て方を学んでもどうしようもない。

前出のEPA職員の「とにかく急いで現金を外に放り出した」という主旨の話が、真実味を帯びてしまうと感じるエピソードである。

そもそも本件の予算は、バイデン政権だった2022年に米国インフレ削減法(Inflation Reduction Act)に基づいて創設されたGGRF(Greenhouse Gas Reduction Fund:温室効果ガス削減基金)の予算(270億ドル)から割り当てたものであり、2024年夏までに米国内の温室効果ガス排出を削減するプロジェクトに補助金を交付することになっていた※43)

金額が非常に大きいため、その拠出スキームや使途の正当性に関する今後の議論の行方は、多くの米国民が注視してゆくだろう。

FEMAも多額送金か

また、つい最近になってFEMA(連邦緊急事態管理庁)がニューヨーク市の移民支援に 5900万ドル(約88億5千万円)を送金したことも発覚した※44)。不法移民の宿代などに使われるとのことだが、マスク氏は「トランプ大統領の大統領令に著しく反抗している」と非難する。

ノースカロライナ州で2024年9月に大型ハリケーンHeleneが発生し、100人以上の犠牲者を出し、数千世帯の家屋を奪ったが、今なお住居がなくて困っている住民が大勢いて、FEMAの対応が遅くて不十分との批判が続いている。そのようなタイミングでNYへの巨額送金が発覚したことで、一部国民感情の火に油を注いでしまった格好だ。

国土安全保障省(DHS)はこの資金を含む8000万ドル(120億円)を急いで回収したが、回収は違法だとして、NY市はトランプ政権に対して訴訟を起した※45)

おそらくトランプ政権としては、国民より違法移民が優先されてはならないとの考えに基づく行動だったと思うが、逆にNY市は議会軽視との批判を強めるであろう。NY州とトランプ政権の対立の行方については、今後も注視していきたい。

DOGE今後の行方

最近の世論調査※46)によると、約7割の国民が「政府の支出は無駄、不正、非効率に満ちている」と思っているが、「DOGEは無駄の削減に貢献している」と評価している人は6割に下がる。

また、「民主党はトランプ大統領がやっていること全てに反対すべきだと思いますか、それとも彼の行動に対してもっと様子見の態度を取るべきだと思いますか?」との問いには、民主党支持者の実に64%が「全てに反対すべき」と答えている。

不正や無駄があることにあるが、やり方が気に食わない。あるいはやっている人たちが気に食わないということなのだろうか。なんとも歪な調査結果であるが、行動や結果よりも、個人的な感情が優先されてしまうことを危惧する次第である。

一方で、「DOGEは我々の税金の使い道を知りたがっている。そして、我々はそうさせるべきだ」と語るのは、ハイチ地震の復興支援に携わってきた公立学校区の元CEOのポール・ヴァラス氏である。彼がそう明言するのは、現地で支援金の横領などを目の当たりにしてきたからだ。

NYポストの記事※47)で、ヴァラス氏は「USAIDが他のNGOとともに、いかに約束をほとんど果たさず、救援活動の調整を怠り、上前をはねるかさえ見てきた」と明かしている。具体的には、アメリカ政府が拠出した21億3000万ドルのハイチ関連の契約と助成金のうち、実際にハイチの組織や企業に支払われたのは5000万ドル以下、つまり2%だったと言うのだ。また、それに比べ、13億ドル(56%)はアメリカ首都やその近郊にある企業に支払われている、とも。

これが事実ならば、驚くべきことだが、前出のアーンスト上院議員が明らかにしたUSAIDの実態――「間接経費率が50%~60%。下請け業者のコストは含まれていない」に正に合致する内容だ。

米国民の7割が政府の拠出には不正などがあると信じているようだが、98%もの所謂「公金チューチュー」があったと知れば、流石に驚くのではなかろうか。

トランプ政権やDOGEのやり方に不満がある人も少なくないようだが、強硬な手段なくして、一体どうやったらこのような不正を暴き、繰り返させないようにできるのか、私には見当もつかない。漸進主義でやってきたのがまさにアーンスト氏の様な人だと思うが、それで埒が明かないのは明白である。

今後の調査次第で金額や割合に多少の誤差が出てくるかもしれないが、まずはDOGEにしっかりと調査をさせ、結果を公表することが国民に対する責務ではなかろうか。

杜撰な管理が明らかに

DOGEのXポスト(2/18)※48)によると、財務省アクセス・シンボル(Treasury Access Symbol:TAS)とは、財務省の支払いと予算項目(標準的な財務処理)とを結びつける識別コードであるが、連邦政府では、4兆7000億ドル(700兆円)の支払いにTAS欄への入力は任意で、しばしば空白のままであったため、トレーサビリティ(追跡)はほとんど不可能であったことを明かしている。

また、マスク氏の投稿(2/17)※49)によると、社会保障のデータベースには100歳以上が2000万人も存命扱いになっているそうだ。驚くべきことに最年長は360歳以上と、米国の歴史より古い。先進国であるはずの米国にしては、言葉を失ってしまう程に、あまりにも杜撰と言わざるを得ない。

ちなみに、財務省のTASフィールドは、トランプ政権下で早々に入力必須となり、社会保障については不正な出金がなかったかどうかを含め、まさに調査が入っているところである。

また、マスク氏が明かした※50)ところによると、テロ組織などに米国のお金が流出しないよう「Do not pay list(支払い禁止リスト)」なるものが政府にあるそうだが、このリストに新規団体を登録するのに最大1年もかかるそうだ。さらに、載っていても実際に支払われているケースもあるとのことで、もはや開いた口が塞がらない事態となっている。

第Ⅳの柱 アメリカ価値観を取り戻す

最後の柱は、抽象的かつ横断的なものであり、特定の政策によって実現されるものではないだろう。しかしだからと言って、重要でない訳ではない。

実は、既に述べてきた革命の枝葉は、基本的に価値観を取り戻すことに繋がるものであると感じている。例えば、国境問題や犯罪への向き合い方、経済合理性と環境問題のバランスを取ること、行き過ぎたDEI(多様性・公平性・包括性)政策の見直し、などである。

また、枝葉どころか幹に該当する部分、マスク氏が言う「官僚主義から民主主義を取り戻す」活動もそうであれば、DOGEが切り込んでいる「腐敗的既得権益の一掃」もそうであろう。

つまり、この価値観を取り戻す運動は、常識の革命の土台になっているものであり、またゴールですらあるのではないかと思う。

アメリカの価値観、つまり常識を取り戻す。だから、「常識の革命」。行き過ぎた極左的イデオロギーから、真ん中に戻す。行き過ぎた官僚主義から、真ん中に戻す。行き過ぎた利己主義から、真ん中に戻す。そういうことなのではないかと思う。

(次回に続く)

※ 本記事は短縮版です。『湊合』令和7年春号で詳細を確認いただけます。

※32)X, @elonmusk, Doge & Mars
※33)X, @elonmusk
※34)CBS News, USAID to be merged into State Department, 3 U.S. officials say
※35)Fox News Video, President Donald Trump: We will be bigger, better and stronger than ever before
※36)X, @DOGE
※37)DOGE, Department of Government Efficiency
※38)防衛省・自衛隊, 令和6年版防衛白書
※39)Fox News, Zeldin demands return of $20B in taxpayer money wasted by Biden administration
※40)X, @Project_Veritas
※41)EPA, Administrator Zeldin Announces that Billions of Dollars Worth of “Gold Bars” Have Been Located at Outside Financial Institution
※42)Fox News, EPA reveals Biden sent $2B to Stacey Abrams-linked group that replaces gas stoves in low income communities
※43)CPI, Harnessing the transformative potential of the Greenhouse Gas Reduction Fund
※44)NBC New York, DHS: Taking back $59 million FEMA funding for NYC migrant stays
※45)The New York Times, Adams Sues Trump Administration for Return of $80 Million It Seized
※46)Harvard CAPS-Harris Poll, Field dates: Feb 19-20 2025
※47)New York Post, Paul Vallas, How USAID squandered billions in Haiti and around the globe
※48)X, Department of Government Efficiency, @DOGE
※49)X, @elonmusk
※50)X, @RapidResponse47