現代の認知症医療に一石を投じる警鐘の一冊

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本書では、不適切な診断や過剰な薬物療法によって患者の状態が悪化するケースが多数紹介されています。認知症にはさまざまなタイプがあるにも関わらず、その違いを理解せずに画一的な治療が行われている現状を批判し、薬に頼りすぎない総合的なアプローチの重要性を説いています。

告白します、僕は多くの認知症患者を殺しました。 まちがいだらけの日本の認知症医療」(石黒伸著)現代書林

[本書の評価]★★★★(85点)

【評価のレべリング】※ 標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★  「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★   「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★    「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満

不適切な治療で悪化するケースも

多くの医療機関では、認知症の正確な診断ができていないことが問題です。認知症にはさまざまなタイプがありますが、それらの違いを理解せずに治療が行われ、患者の状態を悪化させることがあるのです。

<Aさんの例:適切な薬への変更で改善>
86歳のAさんは息子さんと二人暮らしでした。物忘れが気になり、かかりつけ医からアリセプト5mgを処方されましたが、服用後に落ち着きがなくなり、外出して迷子になることが増えました。

認知症専門医に相談したところ、アリセプトが興奮を引き起こしていると判断。薬を変更したところ、わずか1週間で落ち着き、徘徊も止まりました。3か月後には近所の人と挨拶を交わすほど回復しました。

<認知症治療の正しい考え方>
認知症治療は「薬漬け」というイメージがありますが、本来の目的は症状の進行を遅らせたり、問題行動を緩和したりすることです。

しかし、薬には副作用があり

  • 過度な鎮静作用で自立性を失うことがある
  • 心臓や肝臓に負担をかけ、寿命を縮める可能性
  • 転倒や骨折のリスクが増加する

さらに、医師から薬の効果や副作用について十分な説明がないことも問題です。

薬に頼らない選択肢を

本書では薬だけでなく、非薬物療法も効果的だと説かれています。認知機能の維持や行動・心理症状の改善に効果があり、副作用のリスクも低いことがあげられます。家族や介護者とのコミュニケーションを深めることも、精神的安定に重要です。

認知症治療は、薬物療法と非薬物療法を組み合わせ、一人ひとりの状態に合わせて行うことが大切です。医療従事者、患者、家族が協力して最適な治療法を見つけることが求められます。

患者一人ひとりの状態に合わせた治療と、医療従事者・患者・家族の協力の必要性を訴える、現代の認知症医療に一石を投じる警鐘の書です。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

2年振りに22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)

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