
スペイン・ロタ米軍基地
IKONOS PRESSより
スペイン・ロタ市の米軍基地がモロッコに移転する可能性は?
スペインのカディス県ロタ市に所在する米海軍基地が、モロッコに移転するのではないかという懸念が広がっている。これまでの歴代アメリカ大統領の間では、同基地の移転は現実的ではなかった。ところが、トランプ大統領の登場により、米国のNATO離れが取り沙汰されるようになり、それに関連してロタ基地の移転も現実味を帯びてきた。
というのも、アメリカにとってモロッコは地政学的に極めて重要な国であり、モロッコのムハンマド6世は折に触れて、基地を自国に移転するようアメリカ側に働きかけているためだ。
中国に接近するスペイン・サンチェス首相
一方で、スペインのサンチェス首相は、米国に相手にされないと判断し、中国寄りの姿勢を強めている。中国企業の誘致に積極的であり、今月中に3度目の訪中も予定されている。
かつて、イタリアで五つ星運動が政権を握った際、中国は同国を足がかりにEUへの進出を図った。しかし、極右のメローニ政権が誕生したことで、イタリアは中国との関係を断ち切った。その代わりに中国がEUへの接近の標的としているのが、スペインである。
こうした状況の中で、サンチェス政権の中国接近に対し、トランプ氏が反発を強めているのは確実と見られる。より忠実な同盟国であるモロッコに海軍基地を移すという案は、もはや荒唐無稽とは言えなくなっている。そもそもロタ基地の主な任務は地中海の制海とアフリカの治安維持である。その意味でも、基地をモロッコに移す方が戦略的合理性がある。
モロッコと米国の歴史的関係
アメリカを最初に独立国家として承認したのは、実はモロッコである。それほど両国の関係は深い。
トランプ政権はその関係を重視し、政権末期には「西サハラはモロッコの領土である」との方針を打ち出した。それまで西サハラ問題は、住民投票によって帰属を決定するという国連主導の枠組みが存在しており、スペインもこれに追随していた。
モロッコによるスペイン首相の盗聴疑惑
2022年には、モロッコの諜報機関がスペインのサンチェス首相、マルラスカ内相、プラナ農相の携帯電話をスパイしていたことが発覚した。
その後、サンチェス首相がモロッコを訪問したのを機に、スペイン政府は米国と同様に西サハラをモロッコ領と認める立場に急転換した。その理由については、3年が経過した現在も明らかにされていない。
一部では、モロッコの諜報機関がサンチェス首相にとって公になれば不都合な情報を握り、それを外交カードとして活用しているのではないかとの見方もある。実際、それ以降のスペイン政府は、まるでモロッコに服従しているかのような対応を続けている。
モロッコのライバル・アルジェリアとの関係悪化
さらにスペインにとって不都合なのは、西サハラ領有をモロッコ支持に転換した結果、同地の独立を支持するアルジェリアとの関係が悪化したことだ。これにより、アルジェリアからスペインへの天然ガス供給が大幅に減少した。
スペインはその分をロシアからの輸入で補っているが、ウクライナ侵攻でロシアに制裁を課している中、ロシアからの天然ガス輸入量が逆に増えているという矛盾した事態に陥っている。