コスパ思考の人生はコスパ悪い

黒坂岳央です。

「それって労力に見合うリターンある?」

最近、どこでも耳にするこのセリフこそが、現代の「コスパ思考」を象徴している。時間・労力・お金の投資に対して、いかに高いリターンを得るか。その考え方は一見合理的で、過去には「小賢しいが賢い人たち」として評価されてきた。

しかし、今やこの思考法は大衆そのものになりつつある。そして皮肉にも、「大衆化」された時点で、そこには大きな成功の余地はなくなっていく。

なぜなら、統計的にも歴史的にも、大衆の行く先に大きなリターンは存在しないからである。現代においても、あえてコスパの悪い道を選んだ者こそが、最後に抜きん出ていくのだ。

maroke/iStock

 

コスパ思考=短期的リターン至上主義

コスパ思考とは、「短期間で、最小の努力で、最大の利益を得たい」という志向性のことである。

たとえば、勉強においては「最短・最速で合格点を狙う」価値観であり、仕事においては「時給が最も高い案件に応募する」という短期的最大化を求める行動が典型である。

確かに、その場では“正解”のように見える。だが、その思考を継続していくと、努力に見合った価値の成長が止まり、「年齢に見合わぬ市場価値の低さ」という落とし穴にハマることになる。

なぜなら、現実には――大きな成果は「非効率の先」にしか存在しないからである。

時給思考の末路

コスパ至上主義の人間は、「時間あたりのパフォーマンス」に極端に執着する。労力とリターンを天秤にかけ、瞬時に「割に合うかどうか」を判断する。これがいわゆる「時給思考」である。

この思考では、自己研鑽や新しい挑戦、未来への種まきといった即効性のない行動は「コスパが悪い」と切り捨てられる。その結果、「今だけ・金だけ・自分だけ」という極めて短期的な判断に陥る。

筆者が若い頃、氷河期世代の周囲にも「正社員は給料低くてコスパが悪いから一生派遣でいいや」という声が多く聞かれ、「フリーター」という生き方が流行ったこともあった(そもそも氷河期世代は大変就活に苦労したタイミングであったが)。

だが、この発想が機能するのは若いうちだけである。やがて年齢を重ねたとき、地道に市場価値を積み上げてきた人間に、何の余力もなく追い抜かれていく。

コスパ悪い頑張りが未来を作る

よく考えれば、どの分野でも上に行く人間は例外なく、最初は「割に合わないこと」を続けている。

  • 管理職になる者は、上司に可視化される形で地道な積み重ねを行い
  • ハイスキル人材は、休日も自己研鑽に時間を投資し
  • 起業家は、売上ゼロの時期に営業と構築を繰り返す
  • YouTuberやブロガーは、誰にも見られない投稿を数年間続け
  • アスリートは、成果が見えない基礎練習を何千時間もこなす

いずれも、短期的には「コスパ最悪」である。しかし、その非効率なプロセスこそが、後の圧倒的成果につながっているのである。

現代社会において、「確実な即時リターン」がなければ動けない人が大半。

だからこそ、あえて“割に合わないこと”に取り組める人間は、レアであり、その努力体験そのものが価値を持つ

さらに、そうした“地味で泥臭い努力”は他者からの共感や応援を生む。SNS社会においては、この「応援される構造」自体が新たな資本になり得る。

努力する姿は承認欲求を満たし、その過程がストーリーとなってブランド価値を形成していく。つまり、非効率を選び抜いた行動こそが、実は最も高コスパな自己投資なのではないかという逆説に行き着く。

すべてを“損得”や“効率”で判断する思考は、確かにスマートではある。だが、それは同時に「人と違う努力」や「報われるまでの我慢」を避ける思考でもある。そして、他人と同じ努力しかしない人間が、他人と違う成果を得られるはずもない。

本当に大きな成果を望むのであれば、いま割に合わないと感じる努力に、敢えて飛び込む覚悟が必要である。その“非効率な選択”こそが、未来において唯一無二の差を生み出すのだ。

 

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。