トランプ就任100日の通信簿:厳しい政策運営と世論にさらされるアメリカ

トランプ政権が発足してからハネムーン期間の100日を超えてきました。ハネムーン期間では報道機関は政権の手腕を見るというスタンスからその評価を控えるとされてきました。ただトランプ氏の場合は11月の大統領選挙直後から強烈でサプライズが多い発言を繰り返したため、大統領就任は1月19日でも実質的には11月4日の時点から世界がその発言に振り回されてきたとも言え、既に様々な声が出ているのはご承知の通りです。

就任100日目にABCのインタビューを受けるトランプ大統領 ホワイトハウスXより

トランプ1.0の就任100日の際にはどちらかといえばトランプ氏の資質に関する様々な意見や評価が多かったのに対して今回はそれらプライベートな点はほとんどなく、トランプ氏の手腕そのものが注目されてきました。ではトランプ氏のここまでの評価はどうだったのか、それこそ日本の子供からお年寄りまで意見できるほど強いインパクトがありました。100日という区切りを受けて日経は9分野について5段階の通信簿をつけています。

5、つまり大変よくできた、が国境警備強化と関税の2項目、一方全くダメの評価である1はウクライナ戦争となりました。記事には出ていませんがこの9項目の平均は3.1ポイントで及第と落第の瀬戸際とみてよいでしょう。また評価のポイントは公約通りにできたかどうかであり、その項目が評価されるものかどうかは別であります。

トランプ公約が世論受けと合わせ、もろ手を挙げて「いいね」だったと思われるのは外交的なウクライナ問題やイスラエル問題でしたが今日までの成果は低く、イスラエル問題も通信簿は2でした。個人的にはルビオ国務長官の手腕が全然ダメだと思います。経済政策と不法移民対策は諸刃の剣的なところもあり、私個人としてもただただ混乱を招いているという評価しかありませんがここに来てベッセント財務長官の評価が急上昇で氏が防波堤の役割を果たしている感すらあります。

驚いたのはアメリカ国内に滞留する不法移民の強制送還の数はバイデン政権時742人/一日に対してトランプ政権時は661人と成果が悪いのです。国境で不法移民の流入を徹底して潰しているのが激減の理由なのかもしれませんが、今一つという気がします。

ところでカナダで4月28日に総選挙があり、中道左派の自由党が過半数には4議席足りないものの勝利をおさめ、カーニー氏が議員の座も手にし、いよいよ本腰を入れた政権運営に入ります。カナダも今回の選挙に至るまで紆余曲折で国内は大いに揺れ動きました。トルドー氏の不評が頂点に達したのが氏と共に歩んだフリーランド氏とのいざこざで副首相を辞任した時でした。この時点でトルドー氏への世論の支持が急速に衰え、辞任表明に至ります。自由党は野党保守党に世論調査で20%ポイントもの差をつけられ、どう見ても政権交代という情勢でした。

ところが自由党党首選で大本命のフリーランド氏はすい星のごとく現れたカーニー氏にお株を奪われたのです。フリーランド氏の惨敗の理由は政策的にトルドー氏に近いことで自由党で支持が広がらなかったのです。カーニー氏はカナダと英国の中央銀行総裁を歴任、退官後、ブルックフィールドという世界最大級の不動産投資会社のCEOを務めます。私はカーニー氏が出馬検討の報が出た時から同氏が勝つだろうし、同氏しかトランプ氏と対峙できないだろうと申し上げました。

理由は中銀総裁時の氏の手腕を見てきたからで極めて実務能力の高い知的で緻密な性格故にトランプ氏に対して理論武装と相反する性格でトランプ氏にとって苦手意識を植え付けるだろうと想定したからです。

では今後、アメリカとカナダの関係はどうなるでしょうか?大胆予想をするとカナダは国力がアップし、国家の意識が変わるだろうとみています。例えばカーニー首相はカナダを世界で圧倒するエネルギー大国にのし上げると表明しています。またTPPや欧州とのFTAを含む世界各国との連携を利用し、アメリカの依存度を下げながら経済の拡大を図る政策に出るとみています。

カナダ マーク・カーニー首相インスタグラムより

一方、アメリカ側はカナダとケンカをしてもメリットがないのは自明なのです。トランプ氏の熱量が冷めた時、アメリカはカナダの信認を失う一方でカナダはより強固な基盤づくりに励むという構図を予想しています。

またトルドー政権の時、同氏の一種の外交下手からインドと中国との関係が大いにこじれました。カーニー氏はまずはインドとの関係修復を目指す気がします。今は中国外交を優先するときではないし、先日話題に振ったように世界の工場が中国からインドにシフトしていること、またバンクーバーは北米最大のインド人コミュニティを誇るなどインドとの関係は好む好まざるにかかわらず、非常に深いものになっています。

ロジスティックスでも変化は起きる可能性があります。アメリカ経由でカナダやメキシコに流れていたものがカナダやメキシコ直輸入に変わる点です。カナダはアメリカの1/10の人口しかいないため、事業所やハブ、管理拠点をアメリカに置き、カナダにはアメリカ経由で流れるという仕組みがかなり存在します。日系企業でもアメリカ法人の下にカナダを置くケースがあります。ところが事業者は政治リスクを今回嫌というほど感じたわけで「アメリカ経由」から「カナダ、メキシコ直」に変化することも大いにあるとみています。

トランプ氏の政権運営の真価は就任6か月後の7月中旬に再評価することになるでしょう。その際に一番注目されるのがまず政権幹部で脱落者が出ないのか、であります。既にマスク氏と国防長官のヘグセス氏の処遇が注目されます。またアメリカ外交がこれほど無能になったのは私が知る限り初めてであり、個人的にはルビオ国務長官への評価が気になるところです。バンス副大統領は特に人格的に論外でお調子者でしかないとみています。

ピート・ヘグセスアメリカ合衆国国防長官Xより

私がカナダにいることもありますが、かなり公平に見てもアメリカは厳しい政策運営と世論の厳しい声にさらされる一方、カナダは着実に歩を進めるとみています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年4月30日の記事より転載させていただきました。

アバター画像
会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。