黒坂岳央です。
筆者は2023年1月から、さまざまなAIツールに課金し、ほぼ毎日使っている。その中で感じたのは、「AI格差」や「AI失業」といった言葉が、もはや未来の話ではなく、現在進行形の問題であるということだ。
AIの波から逃れられる人は、そう多くない。筆者は危機を煽るつもりは毛頭なく、むしろ今すぐ時代の変化に備えるべき時が来ているという啓蒙をしたい。

Devrimb/iStock
デジタルデバイドの再来
2000年代、「デジタルデバイド(情報格差)」という言葉が話題になった。
「インターネットが安価に広まり、世界中の情報がフラットになれば、格差は縮まるだろう」──多くの人がそう期待していた。
しかし実際には、パソコンやネットに慣れた人が一気に情報を制し、そうでない人との間に大きな差が生まれた。社会インフラが整っていなかったり、リテラシーが追いつかなかったりして、かえって格差が広がったのである。
いま、同じ構図がAIの分野でも起きつつある。身の回りのあらゆるデジタルガジェットにAIが搭載され、ウェアラブルデバイスのような小さな製品にすらAIが当たり前のように入っている。
米中では先端ガジェットの開発とシェア争いが激化しており、日本企業のプレゼンスは年々薄れてきている。国家レベルでのAI格差も、目に見える形で現れてきた。
すでに、AIデバイドは始まっている。
AIは「優秀な人をもっと優秀にする」道具
よく「AIが人間の仕事を奪う」といった言い方をされるが、これは正確ではない。本質的には、「AIをうまく使いこなす人間が脅威になる」ということだ。
すでにSNSを中心に、AIを活用してビジネスで成果を上げている人たちが出てきている。
最近になって名前が知られるようになった人たちの多くは、AIを活用して自動化ツールを開発・販売したり、大量のYouTube動画を効率的に作成して収益化していたりする。
彼らに共通するのは、「ソロプレイヤー」であるという点だ。かつては複数人のチームでSNSマーケティングやビジネス展開をしていた人もいたが、AIを使いこなす人たちはたった一人でビジネスを完結させてしまっている。
筆者自身は、彼らのように何か偉業を成し遂げたわけではない。だが、これまで外注していたプログラミングやクリエイティブ制作の一部を、AIを使って自分でこなすようになった。
この体験を通じて、「以前まで請け負っていた人の仕事が、知らない間に消えているのでは」と思ったのだ。小さな単位ではあるが、確実に「AI失業」はもう始まっている。
実際、アメリカでは2023年以降、AI導入によるレイオフ(人員削減)の事例が相次いで報告されている。たとえばニュースサイトのCNETは、記事の一部執筆をAIに切り替えた後、編集部の人員を削減した。また、IBMは「AIで代替可能な業務は採用を停止する」と発表し、今後数千人規模で人手が削減される可能性があると明言している。
ホワイトカラー業務や管理部門、マーケティング、カスタマーサポートなど、“クリエイティブ”と呼ばれてきた領域でもAI代替が現実に起きているのだ。
こうした変化は、今後ますます多くの分野で起きてくるだろう。
無料と有料で開く「AI格差」
現時点で、ChatGPTをはじめとする生成AIは無料でもかなりのことができる。だが、これは永遠に続く話ではない。
今後、AI各社がシェア争いを終えたタイミングで、本格的な収益化フェーズに入るのは時間の問題だ。IT業界では「まずシェアを取る」「その後、課金に移行する」という流れはごく一般的である。
すでに、無料版と有料版の間には性能面でもできることの幅でも、はっきりとした差が出始めている。GPT-3.5とGPT-4の違いを使い比べれば、それは一目瞭然だ。さらに、ChatGPTのo4-mini-highやClaude 3 Opusなど、上位モデルは明確に「使える人に恩恵を与える設計」になっている。
この現実が意味するのは、「AIに投資できる人」と「無料でしか使えない人」の間で格差が拡大する」ということだ。
使えるAIとそうでないAIの間には、発想のスピード・アウトプットの質・ビジネスの可能性において埋めがたい差がある。
◇
AIは魔法ではない。ゼロの人間をイチにしてくれるツールではない。すでにある程度の知識や問題意識を持った人を、何倍にも拡張してくれる道具である。
だからこそ、今この瞬間にもAIに触れている人、慣れている人、使いこなしている人が、一歩も二歩も先に行っている。AIデバイドは、静かに、しかし確実に進行している。いま必要なのは、完璧な使いこなしではない。少しでも早く“触り始める”ことだ。
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