「アメリカ産のコメは危険」は本当か?

黒坂岳央です。

現在進行系で「令和の米騒動」が起きている。日本米が高すぎるのだ。全国のスーパーでの平均価格は、5 kg=4,220円(税込)で4月20日週時点で16週連続の値上がりだ。しかも前年同週のほぼ倍である。

政府も動いているがなかなか下がらないコメ価格を前に、海外産のコメが入って来るようになった。価格は安い。販売店によっては海外産米とブレンドした米や、100%海外産米が売られている。

特に今回は「アメリカ産のコメ」という日本人にあまり馴染みのなかったコメが入ってくることになる。だが「安さ」だけで判断して本当に大丈夫なのか?

筆者はフルーツ販売をする会社を経営する立場だが、周囲にはお米農家もたくさんおり、コメの事情については一般的な人に比べて詳しい情報が入る立場にある。アメリカ産のコメについて取り上げたい。

tfoxfoto/iStock

 1993年の「タイ米騒動」との違い

冷害でコメが不足した1993年、日本はタイ米を緊急輸入した。だが結局、あちこちでコメが廃棄され、日本米の代わりになることはなかったのだ。その原因は味と食感のギャップであった。日本人はコメの味にはうるさく、我々はあの頃、自国のコメの品質を再認識することになった。

だが今回起きている令和の米騒動は、あの時のタイ米騒動とは何もかも違う。今回は供給不足ではなく“物価高”への対抗策として輸入米が拡大している上に、注目されているのはタイ米ではなくアメリカ米だ。

アメリカ米の安全性を考える

注目するべきは安全性についてだ。

SNS上では「アメリカのコメは除草剤(グリホサート)の残留基準が日本の300倍」という極端な数字が飛び交い、危機煽りが見られる。

だが数字を冷静に考えると、コメに限れば日米とも0.1 ppmが上限となっている。米国連邦規則集(40 CFR 180.364)が示す「Rice, grain = 0.1 ppm」という数値は、日本のポジティブリスト(厚労省 2021年改正)と同水準なのだ。eCFR厚生労働省

要するに「基準が緩いから危険」という単純な話ではない。問題は基準値を超えるロットが紛れ込むリスクとその監視体制の違いにあるのだ。

米国では収穫後にホスフィンで燻蒸するのが一般的だ。FAO/WHO 系列の報告や英国流通調査では、最終残留は 0.1 ppm 未満がほとんどで、「適正処理なら可食時リスクは極めて低い」と結論づけられている。inchem.org

また、SNSでは「アメリカ米はヒ素濃度が高い」という話も出ており、これ自体は間違いではないが、FDAの試験では「米:水=1:6〜10」で茹でこぼすと無機ヒ素が40〜60%減少するとある。U.S. Food and Drug Administration これは実際に家庭で手軽に実践できるリスク低減策であり、「輸入米=即アウト」ではない。

もちろん、海外米に対して消費者が不安を感じるのは自然だが、適切な調理法や検査証明の確認でリスクは最小限に抑えられることも知っておきたい事実だろう。

海外米の取り扱い

「海外米を日本米と置き換えるか否か」というゼロヒャク思考ではなく、適切に取り扱うことが必要だろう。国産米を愛好する気持ちは理解できるが、輸入米も用途に応じて活用できるはずだ。

たとえば主食用は国産または有機 JASを使用する一方で、冷凍チャーハンやカレーなど味が強い料理は基準内の輸入・ブレンド米でコストダウンをはかる。

また、海外米は炊飯前の“湯取り”を習慣化する。洗米後、たっぷりの湯で軽く煮てから通常の水量で炊くと、ヒ素・残留農薬の双方を減らせる。さらにパッケージで“検査証明”を探す。「残留農薬一括検査済」「輸入ロット番号公開」など第三者証明がある銘柄を選ぶようにすればいい。

輸入米は確かに財布を助ける。一方で安全基準がイコールなら、残る論点は監視の実効性と自衛策だ。安全か?危険か?という極論や感情論ではなく、消費者は適切な調理法を採用することで安全に海外米を利用できるはずだ。

 

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。