【対談・中編】日本の経営者は”経営の役割”を果たせていない!?

(前回:【対談・前編】『社員に寄り添う経営』は間違っている??

創業4年で上場を果たし、さらに急激な成長を続ける株式会社「識学」の安藤社長と、「経営コンサルで思想家業もやってる」倉本圭造の対談、中編です。

前編記事では、私(倉本)が仕事でお付き合いのあった会社が、破綻寸前の経営危機から立ち直った事例から、「ちゃんと社員の可能性を信じて、戦力になってもらう工夫をする」「全員分の脳を使おうとする」ことの重要性について話しました。

この中編では、実際その「全員分の脳を使う経営」をやるために、

最近の日本の経営者の多くが「経営者としての役割」を果たせていないという話

⋯になっています。

「経営者の役割」とは何なのか?なぜそれが今の日本ではできなくなっているのか?

「売上のネタなんてそこら中にあった時代」と「今」では、経営者に求められる役割がどう違うのか?という話もしています。

一緒に考えてみませんか。

前編記事はこちら。

『社員に寄り添う経営』は間違っている??(株式会社識学・安藤社長との対談・前編)|倉本圭造
「経営コンサルタントで思想家」の倉本圭造です。 今回は突然なんですが、特別企画として、株式会社「識学」の代表取締役社長である安藤広大氏との対談企画をお届けさせていただきます。 「株式会社識学」は、一般的な知名度はまだそれほど高くないかもしれませんが、中小企業やベンチャー界隈では「ああ、あの識学さん」という感じで結構...

識学さんのYouTubeチャンネルで動画も公開されています(動画は前後編の二本、テキスト版は前中後編の三本になっています)。

1. 最近の日本の企業がギクシャクしている理由

倉本:そういうの(従業員に今の会社の状況や進んでいこうとする方針を理解してもらうこと)がなぜ重要かというと、例えばアメリカの会社って現場の人のいうことを聞こうとそもそも思ってないみたいなところがあるんで、だからトップダウンで現場はいうこと聞くだけの存在になっていくわけですけど、逆に日本の会社は、あらゆる人が「自分も考える能力がある」と思ってはいると。

そこまではいいんですが、昔のちゃんと組織があった時代はともかく、今はトップの考えを従業員が理解しなきゃというカルチャー自体がだんだん薄くなってしまって、アメリカみたいに無理やりトップダウンにやったら文句をいうくせに、下が上の考えを理解してそれに合わせて提案をしていくという連動性が切れてしまってるんで、今の会社の現状からすればそりゃちょっとそんなことできないよね、みたいなズレた提案を下から上げて、上は「わかってねえ」ってハネつけるしかなくなって・・・

安藤社長:そうですね。めちゃくちゃあると思います。

倉本:結果的に下の人は「上は俺達の意見を全然聞いてくれねえ」ってなっちゃうみたいな誰のためにもなってない齟齬がありがちだなと思うんですが・・・

安藤社長:それはだからもうどっちも悪くて・・・

倉本:ほんとそうですよね

安藤社長:要はこれも冒頭言った、それぞれがそれぞれの立場を理解してないってことなんで、これは経営側がその従業員に与えた自由っていうのは「あなたのこの領域においての自由」だよっていうことをちゃんと伝えていないのが問題なんですね。

倉本:自分たちの現状をちゃんと理解してもらう、理解させるっていうことが大事だと。

安藤社長:そうなんです。あなたの目標達成するための提案であれば、いくらでも聞くよと。でもあなたは経営責任持ってるわけじゃないんで、会社を全体を良くするための提案っていうのはあなたには求めてませんと・・・っていうことを明確に言わなきゃいけないんですね。僕らはこれを「責任と権限をしっかりあわせましょう」というふうに言ってるんですけど、自分に与えられた権限の中で提案するってことを、ちゃんと覚えなきゃいけないんですね。

もうやっぱりどんどん「この時代なんだから」と言ってみたり、なんかその、本当ね、僕は強い言葉でいうとどんどんどんどん左傾化してってると思うんですよ。で、その従業員側がこの「責任」以上の「権限」を有しはじめてるんで、その結果として今の話みたいな不具合が起きてしまってるんで、やはり常に責任と権限は一致させておかないといけないんですね。

倉本:なんかその、従業員に理解してもらうやり方は、識学さん的な方式もあれば、もうちょっとソフトタッチな方式もあるかなと思うんですけど、その究極的に目指す部分として、その会社の現状を 分かってもらう・分からせることをしないと、その下からの提案が、めっちゃズレたものしか出てこないんで、結果として 無視せざるを得ないみたいな感じになって、お互い「分かってねえ」みたいな感じになるなと思ってて・・・

例えばIT企業の若い人とかが、なんかうちもGoogleマップみたいなんやりましょうよみたいなこと言って、いやうちにできるわけないじゃん、みたいな。

なんかこういうこと頻発してるなと思ってて、そうじゃなくて今のその会社の規模感とか資金力とか自分たちのアセットみたいなことを考えると、こういうことならできるよねっていう方向性が示されていれば、それに応じて噛み合った提案が上げられるようにもなるなと思っているんですが・・・

2. ケーキを切って配布するように「責任」を丁寧に配る経営が必要

安藤社長:それはですね、勿論あると思いますが、ただ経営人が見ている景色と、従業員に見えてる景色って全く違うんで、僕らが話す前提条件を例えば2年目社員に聞かせた時に、そのことをやっぱり理解できないんで・・・

倉本:ちゃんとケーキを切り分けて配布するようなことをしないと・・・

安藤社長:そうです。配布して、「この中で」あなたの頭を使って全力で考えてくれ、ということを言っていくことが大事ですね。といっても「ちょっとはみ出る」ぐらいの提案ならズレようがないんですけど、要は「本来経営者が考えないといけないようなところ」を、従業員に考えさせようとすると絶対ズレます。

僕もふりかえって、NTTドコモの新入社員時代に生意気でしたんで、ドコモの上層部はわかってない、みたいな感じで経営陣のところに時間貰って言いに行ったりしてたんですけど、今考えるとめちゃくちゃ恥ずかしいです。

倉本:それはそうかもしれませんね。なるほど。結局それも、「規律がきちんとあることで、情報の吸い上げも可能になるし、機敏に状況を見て変わっていくことができる」という話につながってくるんですかね。

安藤社長:そうですね。ルールというか、お互いの立場認識のズレがないということがすごく重要なんですね。

倉本:ただそれをやると、経営者の人に・・・ウェットにやるよりもよほど物凄い重大な責任が・・・

安藤社長:おっしゃるとおりです。

倉本:かかってくるわけですよね。なんかその、識学が求める経営者側の責任の大きさっていうのがあまり認識されてないから、なんかこう「俺が上役なんだからお前ら従え」と言ってるだけの集団だと思われてる面もあるんじゃないかと・・・

安藤社長:ほんとまさにおっしゃるとおりで(笑)

要は、経営者の役割をより鮮明にするってことなんで、そのこの経営戦略ミスったら全て経営者の責任になるわけですから。要は話し合いで決めないわけだから、それはまさにおっしゃるとおりです。

3. 昔と違う大事な「経営者の役割」とは?

倉本:いわゆる「両利きの経営」っていう経営学用語があって、「探索」=収益機会を色々広めに見て探していく部分と、あとはちゃんとオペレーションしっかりやるっていう部分と、両立しないといけないよねって話なんですけど、識学さんの話を聞いていると、もう経営者自身が、その「探索」の部分はめちゃくちゃ真剣に自分一人でやってないといけないっていう感じに、どうしてもなっちゃうのかなと思うんですが・・・

安藤社長:もちろん現場からの情報収集の中で、探索のきっかけを見つけていくということも重要なんですけど、そのやはり僕がマーケットの評価を獲得する責任者なわけですから、僕が評価を獲得するために設定した項目を、次の役職が達成する。で、それを達成するために次の項目が設定されるってことになるわけで言うと、仕組み上僕が唯一のマーケットとの接触面になるわけなんで・・・

倉本:そうですね。それって結構大変じゃないですか?

安藤社長:大変だと思います。

倉本:大変ですよね。なんかいろんな会社見てると、やっぱステージがどんどん変わっていくと会社も同時にさらに変わっていかなきゃいけないみたいな部分があって、それなんかちゃんとやれるのって結構大変だなっていう風な感じがあって、その部分を誰かと話さずに経営者一人でやれるっていうイメージがあんまり湧かなくて・・・

安藤社長:話さないこともないですよ。当然その僕がマーケットを見て「これはやるべきだ」って言った時に、各責任者が役割が振られるわけで、その時に自分たちの責任を果たす上でどう思うかっていう意見は聞きます。だから僕がやろうと思ったことでも、彼の話を聞いてやめることもたくさんありますし・・・

倉本:なんか、徐々に今までいけてたパターンがズレてきてるなとか、そういうのを感知して、10年先のためにだんだんこっちに動かしたほうがいいかなっていうようなことを・・・僕のクライアントで優秀な経営者の人は常に考えてるなと思ってるんですが、そういう機能の部分は、識学の中でもうちょっと強調したほうがいいんじゃないかと思うところがあるんですよね。というのは、それがないと、ちょっとだんだん、パワハラ的になっちゃう部分もあるんじゃないかなと思うんですが・・・

安藤社長:変わっていかなきゃいけないってのはそうなんですが、なんでパワハラ的になっちゃうと感じるんですか?

倉本:なんというか、「水場」がだんだんズレてくるわけじゃないですか。

安藤社長:ああ、そうですね。

倉本:水場に対して、だんだんこっちにズレていくから、全体的に徐々にこっちに動いていくぞ、みたいなことを、かなり真剣にずっと考えてないといけないのが経営者の重要な役割だと思うんですね。

安藤社長:おっしゃるとおりですね。

倉本:たとえばこれだけの売上の時はここでOKだったけど、次さらにこれだけのレベルを目指すなら別のところに移動しなくちゃいけないとか、こういうことを常に考えるのは、識学的な考え方だと経営者しかできないことなんだけど、それを自分ひとりでやろうとすると、なんかまあ識学を本当の意味で理解してる人はやれるかもしれないけど、実際はなかなか難しいんじゃないかと。

そうすると、なんかだんだん水場から水がひいてきちゃって、前と同じことしてても取れなくなってきてるんだけど、「お前これだけやるのがお前の責任だったんじゃないか」って言うだけみたいなことになりがちなんじゃないかと。

安藤社長:ああー、経営者が自分の責任を放棄して、現場のせいだけにしちゃうと。まあこれは、識学の弊害として起きるのかというと・・・

倉本:識学による弊害というより、人間社会ほっといたらそうなっちゃうよねという感じの・・・

安藤社長:そうですね、おっしゃるとおりですね。

倉本:そういう意味では、識学においては、経営者側に求められてる要求としてこれをやらなきゃいけないというのがすごく高いレベルとしてあって、それがあるからこそ、上下の別を考えるとか立場の線引きを大事にするみたいなことをやってもOKになるんですよという部分を、もうちょっと強く言っていったほうがいいんじゃないかなと。

4. 「組織のオペレーション」はキッチリ「仕組み」にして自動化すれば、経営者は本来のしごとができるようになる。

安藤社長:そうですね。だから僕らは、「水場を選ぶ」という役割と、その水場でちゃんと水を集めるというオペレーションの部分、その両輪があったとして・・・

倉本:まさに「両利きの経営」の両サイドですね。

安藤社長:僕らの考えでは、そのオペレーションの側の部分は仕組みを作っちゃって、経営者としてはほとんど時間をかけなくなるんですね。

倉本:なるほど、「探索」に時間をフルに使えるんだと。

安藤社長:そう。っていうのが僕らの経営者に対して求めることです。

倉本:確かに、僕はうまくいっている会社は結構そんな感じになっているなと思っていて、10年後こうなるから、今すぐってわけじゃないけど、徐々にこっちに動いていかないといけないなということを、前もって前もって前もって考えていれば、そんな大改革とかしました?っていうぐらいの感じで、10年前とは全然違う会社になっているみたいな感じになっているなと思っていて・・・

そういう意味で、経営者がちゃんとそういう役割を果たさないといけませんよ、っていうことを、いろんな人がちゃんともうちょっとシェアしていくべき時代なんじゃないかなと。

安藤社長:いや、そうかもしれないですね。変化が激しいですからね。いわゆる組織オペレーションの方だけに時間を使っちゃってる経営者が圧倒的に多いですよね。

倉本:それが識学的な発想で「自動化」されると、もうちょっと目線をあげた話ができるようになっていくっていうことなんですかね。

安藤社長:僕自身は、マネジメントに使う時間っていうのは月曜日の午前中だけなので、それ以外はほぼマネジメントに使わないですね。

倉本:確かに、経営者がある程度フラフラしてるほうがうまく行ってる事例は多いなと思っていて・・・

安藤社長:いやもう間違いなくそうですね。水場の話は面白いですね。僕はおそらく水がある場所を探す役割で、水がある場所の中で本当の水場を探す役割が本部長で・・・っていうような感じだと思うんですよ。そういうそれぞれの役割っていうのがあるのはすごい最近痛感しています。

倉本:その「探索」の部分を、僕らよりも10歳20歳上の経営者の人って、もちろん優秀な人は別ですけど、そんな機能が存在するっていうことすら意識の外みたいな人が結構いるなと思っていて。僕ら世代かさらに下ぐらいになると、それが経営者の役割だねって思ってる人はかなり増えてるんじゃないかなっていう印象があるんですよ。

この間ツイッターでバズってた話なんですが、バブル世代の人より上の人って、(もちろん優秀な人は別ですけど)人付き合いの中で勝手に仕事を融通しあって間を抜いてとか、そういう適当なことをやるのが仕事だと思っていて、マクロに見てこれからどうやっていかないといけないとかを考える時間とか全然なくて、 カルチャーギャップを感じるみたいな話があって・・・

そういう上の世代の、ほっといても水場なんてそこらじゅうにあって、イケイケでできた時代とは違ってきてるので、だんだん常にズレに対して鋭敏になって、それをセンサーが捉えて、今はまだ売れてるけど、ちょっと徐々にやばくなってくなと思って、常にズレを修正していくみたいな部分が経営者のしごとなんだという、メッセージがもうちょっと共有されたほうがいいんじゃないかと思ってるんですよね。

安藤社長:それはほんとそうだと思いますね。

(対談・後編に続く)

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編集部より:この記事は経営コンサルタント・経済思想家の倉本圭造氏のnote 2025年5月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は倉本圭造氏のnoteをご覧ください。