3泊5日でトルコのイスタンブールで開催されたALIS(Ana Sayfa | A Look Into Science)に招かれて講演をしてきた。最近は海外に出かけるのが億劫なので、あまり講演は引き受けないが、医学部の学生が主催している会議だということに興味を持ち、引き受けた。
トルコの医学部は3年間の基礎医学、3年間の臨床医学の6年制だとのことで、基礎医学の学生を中心に、主に大学から補助を受けてこの会議を運営している。
Acıbadem大学のことは全く知らなかったが、医療を中心とする大学であり、学生は生活費を含む奨学金を受けことができるので、きわめて競争率が高い大学であると聞いた。この大学を設立したのは、医療関係の大会社だ。
このALIS会議は医科学分野で毎年テーマを決めて演者を招待している。今回は8回目でテーマがゲノムだったので呼ばれた。20歳を過ぎたばかりの人たちが運営するので不安はあったが、非常によく組織化されていて感心した。二人の責任者のもとに、役割分担が明確になされ、見事だった。
各スピーカーごとに対応係が決められており、私は午前5時到着便だったのだが、3人も迎えに来てくれた。ひと眠りして、午前11時くらいから参加したのだが、1000人くらい収容できる会場が8割ほど埋まっていた。
会場では居眠りする人もほとんどなく、若い人たちが新しい知識を必死て入手しようとする姿が、まぶしかった。日本の大学2、3年生と比較すると日本はどうなってしまうのだろうかと不安でいっぱいだ。
また、海外演者の航空運賃はトルコ航空が支援しているとのことで、国を挙げて若者を支援する姿勢が羨ましくもあった。参加者も700〜800名に及び、イラン、シリア、エジプトなどからも参加していた。
医学部の学生が多いと聞いていたので、最先端の情報よりも、ゲノム解析の歴史・私が臨床医から遺伝学研究者になった経緯・遺伝子多型・ゲノム薬理学・ゲノム免疫学や免疫治療を紹介して、最後に私が研究者であっても臨床医の気持ちを忘れないでいる原風景などを紹介した。
そして、終了後、私が見たことのない風景を目の当たりにして感動した。会場にいた700〜800人の参加者が立ち上がってスタンディングオベーションをしてくれたのだ。長い研究者生活を送ってきたが、このようなことは一度もなかったので驚きでもあった。講演後の長い質問者の列にも驚いたし、一緒に写真を撮って欲しいとの60〜70人のリクエストにも感激した。
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ランチ時間も「Meet-to-Expert」とのことで十数人の若い人たちに囲まれた。質問する人に対して答えるのは私だけなので、食事を口にする時間が限られ、結構厳しかったが、楽しくもあった。目を輝かせながら質問してくる彼女たち(2日間、男性も1、2人いたがなぜか寡黙だった)を見ていると、逆に私が刺激を受けた。
帰国する前にヨーロッパ側のイスタンブールの観光に案内され、ローマ帝国時代からの歴史を垣間見ることができた。モスクと教会が並んでいる様子やかつてのTopkapi宮殿、イスタンブールをヨーロッパ大陸とアジア大陸に隔てるボスポラス海峡など歴史と美しい景観を満喫した。食事もおいしかったし、また、訪れたい。
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編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2025年5月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください