SNSで激しい批判にさらされている立憲民主党が「厚生年金の流用は誤解だ」と言い始めた。石破首相も「従来から厚生年金の保険料が基礎年金の給付にも充てられている」と答弁した。
流用は誤解ではない。厚生年金が2階建てで、1階の基礎年金と2階の報酬比例にわかれているが、基礎年金保険料はこれまで40年間、国民年金に流用されてきたのだ。今度の年金法改正案は、その流用をさらに拡大しようとするものだ。
「基礎年金勘定」というダミーの年金
なぜこんな制度ができたのか。この制度を考えるには、国民年金の歴史を1950年代にさかのぼる必要がある。当時は保守合同の直後で、60年安保を前にして自民党と社会党が全面対決していた。
都市の労働者を基盤とする社会党に対して、自民党は自営業者と農民の党だった。老後の年金がある大企業の労働者に対して自営業者には老後の保障がなかったので、国民皆保険という名のもとに自営業者にも年金を出して支持基盤を固めようというのが岸信介の発想だった。
自営業者は貧しかったので、保険料も受給額も定額の補助的な年金だった。おかげで大金持ちも貧乏人も負担額が同じという超逆進的な年金制度ができてしまい、未納が多かったので、足りない分は政府が拠出金を出すことになった。
これは若年労働者が増えた1970年ごろまではよかったが、80年代には財政的に行き詰まり、1985年に基礎年金勘定をつくった。だが基礎年金という年金をもらっている人はいない。これは取りはぐれのない厚生年金から国民年金に拠出金を流用するためのダミーの年金勘定なのだ。
特に国民年金の第3号被保険者(専業主婦)は保険料を払わないで夫の保険料にただ乗りできる制度で、これが厚生年金被保険者(第2号)の超過負担になっている。
かつてこれには「妻の分の年金も夫が払う」という納得性があったが、今では働く女性(第2号)が専業主婦の年金を負担する不合理な制度である。これには連合も反対しているが、今回の案では第1号にも流用されることになる。
「底上げ」は破綻した国民年金の延命策
しかし高齢の受給者が増え、現役世代が減る超高齢社会では、受給額が大幅に減ることは避けられない。2004年に始まったマクロ経済スライドは、この年金支給額を少しずつ減額するものだった。
これは2023年で終わる予定だったが、減額を先送りしているうちに2057年まで延長され、就職氷河期世代が年金をもらうころには支給額が大幅に減ってしまう。そこで資金の潤沢な厚生年金積立金を基礎年金に横流して支給額を3割上げようというのが今度の改正案である。
毎日新聞より
…などと書いても、ほとんどの人には何のことかわからないだろう。これは年金官僚が75年かかって建て増しに建て増しを重ねた温泉旅館のようなもので、内部構造は彼らにしかわからない。確かなことは、こんなアドホックな建て増しを重ねると制度はますます不安定になり、負担は現役や将来世代に先送りされるということだ。
「100年安心」が20年で行き詰まった
2004年にマクロ経済スライドができたとき、公明党は「100年安心」だと言ったが、たった20年でこんな大改正が必要になった。人口は「年金財政検証」の前提をはるかに超えて減少しており、このままでは5年ごとに厚生年金がピンハネされて大増税がくり返され、そのうち旅館そのものが倒壊するだろう。
ChatGPT
いま必要なのは、このような問題の先送りではなく、財政的に破綻している国民年金を廃止し、税に切り替える改革である。これは民主党政権の時代から提案され、法制化までされたが安倍政権に葬られた。消費税の増税を恐れたからだ。
社会保障改革を掲げる国民民主と維新は自公立の「増税大連立」を阻止し、25年も先送りされてきた年金の抜本改革に踏み出すべきだ。その考え方は河野太郎氏が20年前から提案しているので、超党派の国民会議をつくってゼロから考え直してはどうか。