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先週5月19日に、石破首相は参院予算委員会で日本の財政状況について、「間違いなく極めてよろしくない。ギリシャよりもよろしくない状況だ」と発言し、大きな問題となっています。
石破首相は「減税をする、財源は国債でまかなう、という考え方は、いたしかねる」とも述べています。
日本の財政状況がギリシャよりも悪いかどうかはともかく、首相という立場で、このような発言をしたことは非常に影響力が大きく、日本国内だけでなく、海外でも話題になっています。
また、翌日の20日には、10年債の金利は約1か月半ぶりに一時1.5%台まで上昇しました。

この件に関して、今回はアメリカの経済学者で元ヘリテージ財団のPeter St Onge(ピーター・セント・オンジ)氏の記事「Japan’s Debt Markets “Implode”(日本の国債市場は “崩壊”している)」を翻訳して紹介したいと思います。
今回の石破首相の発言と日本の財政については、国内にもさまざまな意見がありますが、「世界から日本がどのように見られているのか」を知ることも非常に重要なことだと思います。
財政・金融に関して、私たち(自由主義研究所)の立場としては、以下の3つが基本となります。
【財政・金融に関しての自由主義研究所の立場】
1. 個人の「財産権の侵害」である税金はできる限り少ないほうがよい。(減税をするべき)
2. 日本の財政は均衡に程遠く、これ以上、国債発行は絶対に増やすべきではない(国債発行つまり借金は減らしていくべき)。政府の借金の返済は、税金(インフレ税含む)によるしかなく、1と同様に財産権の侵害である。
3.政府の行うことは最低限にとどめるべきであり、大幅に歳出を削減するべき。例えば、年金や医療保険などの社会保障は縮小し廃止するべき。
特に、現在の政府支出と政府債務の大きさを考えると、大幅な歳出削減を断行することが重要だと考えます。また、1と2を行うためにも3は必須です。
「Japan’s Debt Markets “Implode”」の元の全文は以下から読めます。文中の(※)は筆者です。

「日本の国債市場は “崩壊”している」
日本の債券市場は「崩壊」しており、首相は状況を「ギリシャよりも悪い」と述べました。
2012年に国債の4分の3が債務不履行に陥ったギリシャと同じような状況です。
日本はアルゼンチンに代わってIMFの申し子になるのでしょうか?

日本の財政的窮地
ここ数十年、日本は崖っぷちに立たされています。政府債務はGDPの263%に達し、アメリカで言えば65兆ドルの債務です。
これは従来のレッドラインであるGDP比100%をはるかに超えています。
実際、2012年当時のギリシャの債務残高の2倍以上です。
日本の巨額の債務がこれまで維持されてきたのは、日本政府の債務の大部分が日本国民によって保有されているからです。日本人は国内資産を好む強い傾向があり、国債を銀行や生命保険会社に預けています。
これは、ギリシャとは対照的です。ギリシャでは、国債所有者の8割が外国人投資家であり、彼らは問題が起こればすぐに売却してしまうからです。
また、中央銀行である日本銀行が国債の大半を買い取っていることも支えになっています。
アメリカではその5分の1以下です※1)。
※1)アメリカでは、中央銀行(FRB)が保有する国債は全体の2割未満にすぎない。
揺れ動く国債市場
それでも、日本の債務の巨大さは、市場にとってダモクレスの剣※2)となっています。これが、日本銀行が慎重かつ遅い対応を余儀なくされる大きな理由の一つであり、繊細なバランスを崩すことを恐れているのです。
※2)「栄華の中にも生命を脅かすような危険が迫っていること」を意味する、古代ギリシャの故事
さて、市場はその微妙なバランスを崩しました。日本国債の最新の入札は、1987年以降で最も弱い需給環境を示しています。
もはや誰も日本の国債を欲しがらないということです。

これにより、国債価格は過去最低水準まで急落しました。指標となる10年債は、2008年の危機の際に記録された水準に達しました。
JPモルガンはこれを「崩壊」と呼びました。
これは重要な意味を持ちます。なぜなら、日本では米国と同様に、債券が金融システム全体を支えているからです。銀行はもちろん、約4000万人のますます困窮するだろう日本人への年金※3)も含まれます。これは60歳以上の96%※4)が含まれます。
※3)年金財政の一部は国債によって支えられている
※4)実際には、60歳以上の約82.3%が年金受給者
財政麻痺
国債を暴落させたのは、日本が再びリセッション(景気後退)に傾いていることを示す新しいデータでした。日本のインフレ率は現在約3.7%で、ドナルド・トランプ政権のアメリカの2倍です。
つまり、スタグフレーションなのです。

このデータは債券市場に衝撃を与えましたが、真に市場を揺るがしたのは、首相の「ギリシャより悪い」の発言でした。減税で経済を刺激することを拒否する文脈での発言だったのです。
つまり、日本は行き詰まり、債務が膨大すぎるため、減税はできないと首相が認めたようなものです。
これは2022年にイギリスで実際に起こったことで、就任したばかりのリズ・トラス首相は、減速する経済を刺激するために実際に減税を提案しました。

この結果、イギリスの債券市場は暴落し、大手銀行や年金基金は破綻の危機に瀕しました。そこで、政治家である彼女は撤退せざるを得なかったのです。
そして、日本は現在、イギリスと共に「財政破綻に陥った国々」の仲間入りを果たしたのです。
今後の展開
日本がトランプ大統領と貿易協定を結び、成長を取り戻すことができれば、あと数年は持ちこたえることができるでしょう。
しかし、それも時間の問題です。日本はいまや、「減税という拘束具」を越えてしまったのです。
次に待っているのは、膨れ上がる債務を賄うために必要な増税です。
そうなれば、日本は「破滅のスパイラル」に陥るでしょう。つまり債務増加が増税を招き、その増税によって経済が縮小し、結果として債務の相対的な重みが増すという悪循環です。
アメリカはというと、債務残高に関しては日本より10年遅れています。
しかし、2兆ドルの財政赤字が恒久化しつつあります。どの政党が政権を握っても関係なく、アメリカも日本と同じ道を突き進んでいるのです。

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最後までお読みくださりありがとうございました。
この件に関しては、さまざまな意見があると思います。
しかし、自由主義の観点からはもちろん、日本財政の問題からも、歳出削減してあまりにも多すぎる政府の無駄遣いをなくすことは最重要課題だと思います。
編集部より:この記事は自由主義研究所のnote 2025年5月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は自由主義研究所のnoteをご覧ください。






