なぜあなたは部下に仕事を任せられないのか?

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部下に任せることに不安を抱く上司が存在します。リーダー層では、部下に任せるより自分がやったほうが早いし失敗もないと、「何でも自分でやってしまう病」が蔓延しているのです。

効率アップ! チーム力アップ! モチベーションアップ! リーダーの任せる技術」(岡本文宏 著)あさ出版

任せることが苦手な人の特徴

任せることが得意で、スムーズに仕事を振っていくリーダーがいる一方で、上手く仕事を任せられない人もいます。セミナーや研修会場でアンケートを取ると、後者の方が圧倒的多数派です。仕事を任せることが苦手な人には共通する特徴があると著者はいいます。

<自分だけが常に忙しく働いている>

著者はかつての経験を思い出し次のように回想します。

「店長だけが一生懸命に接客をしたり、商品管理をするなどして、忙しく動き回っているけれど、部下はボーッと店頭で立っているか、何人かで固まっている店舗がありました。店長はいつも辛そうな顔をして、疲れているという印象でした」(著者)

「スタッフに、その状況についてどう思っているのかを尋ねたところ、『店長が一人で何でもやってしまうので、やることがない』『自分が手伝ってよいのかどうか分からない』と口々に言っていました」(同)

自分だけが一人で忙しい状況になっているのは、「部下が何もしてくれないから」ではなく、原因は仕事を任せられない上司や経営者にある場合が少なくありません。

リーダーは部下に仕事を任せて、自分の仕事をする時間を確保しなければなりません。戦略をマネジメントする、人を育てる、現状を詳しく把握する、ヴィジョンを描き組織全体で共有する、部下とコミュニケーションをしっかり取るなど多岐にわたります。

本来はじっくり腰を据えて、時間をかけて取り組む必要があることばかりです。しかし、部下に仕事を任せられなければ、それらに着手できません。結果として、組織の舵取りが上手くいかず、思ったような結果を出すこともできないでしょう。

部下の育成は時間が掛かる

部下に仕事を任せられないリーダーの多くは、「教える時間がもったいない」という思考に陥っています。確かに、自分でやれば10分で終わる仕事を、部下に教えながら進めると1時間かかることもあるでしょう。しかし、これは投資と同じです。最初の1時間を惜しんでいると、永遠に自分が10分の作業を繰り返すことになります。

部下の成長には個人差があり、同じことを教えても習得スピードは人それぞれです。ある部下は3回の説明で理解できても、別の部下は10回必要かもしれません。この違いを受け入れ、根気強く向き合うことが重要です。

また、部下に任せた当初は、ミスや手戻りが発生することも覚悟しなければなりません。完璧主義のリーダーほど、部下の80%の出来に我慢できず、つい手を出してしまいます。しかし、その20%の差を埋めるプロセスこそが、部下の成長機会なのです。

育成期間中は、確かに組織全体の生産性が一時的に下がるかもしれません。しかし、3ヶ月後、半年後を見据えてください。きちんと育った部下は、あなたの右腕となり、組織の戦力となります。一人で10の仕事をこなすより、5人で50の仕事をこなせる組織の方が、はるかに強いのです。

部下育成は種まきと同じです。すぐに芽は出ませんが、水をやり続ければ必ず花が咲きます。今日の小さな投資が、明日の大きなリターンとなって返ってくることを信じて、部下に仕事を任せる勇気を持ちましょう。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

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