平均年収460万円に6割の日本人が届かない理由

黒坂岳央です。

日本人の平均給与(2023年、国税庁の民間給与実態統計調査)は460万円と発表され、SNSやニュースサイトを中心に「悪い意味で」大きな反響を呼んでいる。

年収460万円と聞くと「そんなに高いのか!?」と驚く人は少なくないだろう。それもそのはず、460万は6割弱と半数以上の人には遠く届かない数字だからだ。

中央値は350万円~407万円に過ぎず、平均値との大きな乖離は一部の高所得者が平均値を大きく押し上げていることを意味する。つまり、現代日本の格差拡大を表しているわけだ。

我が国の現況を把握し、手取りアップのために必要な内容を考察したい。

※補足すると日本の所得分布は右に歪んでおり、高所得者が平均を押し上げるため、平均以下の割合が6割程度になるのは統計的には自然な結果だ。あくまで「実感と実態が乖離する」という話をしている。

maruco/iStock

日本人の年収が上がらない理由

なぜ、日本人の年収が上がらないのか?現時点の状況を踏まえるとざっくり次の3つが主要因として上げられる。

1つ目は雇用の硬直性と“就社”文化だ。「若者は仕事が気に入らなければすぐに辞める」みたいな話はよくあり、「3年以内の離職率0%を目指す」という企業が増えている。

一方でアメリカでは新入社員の3分の1が6ヶ月以内に辞めるというデータもある。つまり、感覚値では「日本人は昔より辞める人が増えた」というものだが、実態としては「転職を恐れ、就職ではなく実態は就社になっている」ということだ。

企業は一度雇った正社員を簡単に解雇できず、その結果、窓際族のように「働かないが年収が高いおじさん」を大量に抱えて、給与の原資の確保に苦慮するという日本特有の事情もある。

簡単に退職や転職をしないということは、それをする人にはリスクに働く。結果、企業側も簡単に給与アップをするインセンティブが働かず、雇用すると解雇が難しいとなれば雇用にも及び腰という社員と企業のジレンマに陥っている。

2つ目は報酬の二極化だ。稼げる仕事と稼げない仕事の差が非常に大きい。これは我が国に限らず、アメリカや中国はさらに格差は大きい。稼げる産業、稼げる企業に入れるかどうかが決定的であり、個人の自助努力ではどうしようもない硬直的なファクターである。だがまだ打てる手は残されている(後述する)。

3つ目は手取りの目減りだ。現在の日本は社保、インフレ、円安により、「見えない減給」が起きている。平均年収460万円、は「手取り」で考えると更に低い。特に厳しいのが社会保険であり、労働者だけでなく、雇用する企業側にも大きな負担を強いて経済界の重しになっている。

これらマクロ環境を俯瞰してわかることは、もちろん個人の自助努力は最大限必要という前提ではあるものの、自己責任「だけ」では片付けられないということだ。平均に到達していない人だけが悪いわけではない。

個人にできる給与アップの具体的戦略

給与が少ない理由が明らかになったが、個人レベルではまだまだできることは残されている。ここからはその戦略を具体的に取り上げたい。

1つ目はスキルアップである。「日本は給与が上がらない」と言われがちだが、「上昇圧力がかかりにくい」のは事実でも、「上がらない」わけではない。

筆者は会計分野の専門スキルアップをしながら転職を繰り返す過程で、200万円以上の収入アップを実現したし、親族のITエンジニアは初任給300万円台からスタートして、20代の内に1000万円を突破、現在は1500万円を稼いでいる。「稼ぎやすい業界、稼ぎやすいスキル」を身に着けて転職をすれば収入は上がるのだ。

時折、聞かれるのが「頑張っているのに上がらない!」という不満の声だ。だが、この意見の多くは「残業やサービス労働」といった時間の切り売りはしているが、付加価値の高いスキルアップを指していないケースもある。実際、日本はOECD加盟国、東南アジア諸国を含めて「最も余暇時間に勉強やスキルアップをしない国」である。

さらに注意したいのは「稼げない仕事」につけば頑張りがムダになる。たとえばデスクワークの事務職は人気職だが、空前の人余りが起きている。一方でITエンジニアやブルーカラーは人手不足で国家規模での人員の再配置が急務である。だが、受け身で待っているだけでは変化には時間がかかるので、早めに自ら業界の移動を考えることが大事だろう。

そしてもう1つは資産運用である。資産運用は円安、インフレをヘッジできるという大きな効果がある。現時点でNISAは活況のようだが、マネーリテラシーを高める努力は結果に直結しやすい。

その一方で、資産運用ばかりに熱心になるのも考えものだ。というのも、資産運用は種銭がないと文字通り、何も始まらないからである。さらに資本力がない時期は自分のスキルに投資する方が比較にならないほど圧倒的にリターンは大きい。そのため、資産運用はまずスキルアップをし、稼げる業界、稼げる仕事をした上、余剰資金を得てから考えるべきだろう。これは優先順位の問題だ。

個人的に日本人の給与アップをする上で、国家に頼みたいのは過剰な規制を辞めることだ。

たとえば日本はかつてビットコイン取引量で世界一になったが、厳しい規制で中国、アメリカへと主権が移りかつてほどのプレゼンスはない。タクシーは既存産業保護が行き過ぎたことで、労働者減少の今、ウーバーすら使えず社会全体でそのコストを払っている(2024年4月より日本でもライドシェアが「一部」解禁)。儲かる産業が生まれれば国内企業ももっと活発になるはずだ。

イノベーションを阻害することは仕事の創出、海外からの投資敬遠、手取りアップの邪魔をしている。手取りを減らすのは国家の失策も少なからずあると思っている。

 

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。