生成AIで世界から出遅れる日本

黒坂岳央です。

世界規模で生成AIを使う人が増えてきた。最近では日本人の中にもAIを使うユーザーや、必要性を訴える人が増加している。その一方で、日本国内では「ガラパゴス化」とも言える現象が進行している。

2025年5月時点で、OpenAIの提供する生成AI「ChatGPT」の有料版「GPT Plus」の日本の加入者は、推定わずか14万人で日本の総人口の約0.1%に過ぎず、世界から大きく遅れを取っている(数字の出どころは後述の表を参照)。

日本はChatGPTそのもののアクセス数では上位グループに位置しており、「無料版は使うが有料版は使わない」のが現状である。筆者はこの差を「まだまだ多くの日本人が仕事でAIを使いこなしていない」という実態を引き出せると思っている。

Mininyx Doodle/iStock

データで見る「日本の出遅れ」

日本が生成AIの出遅れている現状は、各種データからも明らかである。

世界のGPT Plus有料ユーザー数(2025年推定)

  • アメリカ:約300万~400万人以上(世界シェア約30%)*世界1位
  • 韓国:約100万~150万人規模(世界シェア約8~10%)*世界2位
  • インド:数十万~100万人規模(世界シェア約7%)
  • 日本:約14万人程度(世界シェア約1.2%)

(出典:OpenAI、Reuters、Statista、SimilarWebなど有料ユーザーの割合は公式な内訳データがないため民間による推定値)

同じアジアである韓国は有料版ユーザーは100万~150万人で世界2位、アメリカは300万人以上で世界1位。こうしたAI先進国と比べると、「AIの課金状況」に圧倒的な差があるのが現状だ。

こういう話をすると「日本人が貧しくなったから使うお金がない」という意見が想定されるが、それは誤った理解だ。OECDの「Better Life Index」によると、日本の1人あたりの平均可処分所得は年間28,872米ドル、で韓国の24,590米ドルで「日本人の方が使えるお金が多い」。よって日韓のAI格差は所得の差ではない。

これは統計データによらない肌感覚だが、日本人はAIを「軽い検索代わり」で使っている印象である。調べ物やちょっとした翻訳、愚痴聞き役といったものである。まったくのムダとは思わないが、確かにこうした用途では課金の必要性を感じにくいのは当然だろう。

なぜ日本は有料版を使わないのか?

日本の生成AI有料版利用率が低い背景には、複数の要因が存在する。特に重要なのは、「無料版で十分」というユーザー心理の奥に潜む「利用習慣の浅さ」である。

1. 価格感度の高さ

月額3,000円というGPT Plusの料金は、NetflixやSpotifyなどの動画・音楽サブスクリプションサービスと比較しても高めである。

eMarketerの調査では、日本人が最も多く支払っている月額デジタルサービスは1,000円未満が中心であり、生成AIは「3000円のサブスクは贅沢品」「なくても困らない」という心理が働きがちだ。「毎日使う必然性」を感じなければ、財布の紐は固い。

2. データ漏洩への懸念

企業や自治体の多くが生成AIの利用に慎重な姿勢を示している。総務省の「AIガバナンスガイドライン」のような厳格な情報管理が求められる中、「機密情報をAIに入力するな」とする社内ルールを設ける企業も多数存在する。

特に情報管理に厳しいとされる国民性も相まって、ガバナンスへの不安が導入を抑制している。

3. ROI(投資対効果)が見えない

日本企業の多くが「生成AI導入の効果が不明瞭」と感じているだろう。これは、生成AIの使いこなしに関するノウハウや理解が不足しており、具体的な成果や費用対効果が見えにくいため、経営層の投資判断が後手になる傾向があることを示唆している。

4. 教育・リスキリングの遅れ

「プロンプトの出し方がわからない」「具体的に何に使えるか想像できない」という声が根強いのも現実だ。日本の企業文化はOJT(現場教育)を重視する傾向があり、AI活用に関する体系的な研修やリスキリングが欧米諸国ほど浸透していない。

このように複合的な要因があると考えられる。

AIの真価は仕事で現れる

「無料版で十分」と感じるのは、そもそも仕事で使う人が少ないからだ。筆者は、生成AIを「仕事の中で使うこと」によって初めて、その真価が発揮されると実感している。

自分は生成AIの有料版は仕事ではもちろん、以下のような仕事以外の日常でも「知的インフラ」として活用している。これらは無料版では不可能か、極めて困難な作業だ。

たとえば引っ越し先の選定だ。国土交通省の土地データをChatGPTに直接読み込ませ、長期的な人口動態や土地、不動産価格やハザードリスクなどを考慮した上で、将来性のある引っ越し先の候補地を絞り込んで引っ越し先を決めた。構造が複雑でパラメーターの多い選定要素も、o3モデルは高い精度で解析できる。

また、個人の価値観やリスク許容度が非常に大きく左右される資産運用についてもAIは大活躍だ。過去の市況やデータを学習させ、モンテカルロシミュレーションを用いて「将来の収益変動の可能性」を数値的にモデル化し、資産運用計画の妥当性を検証。シミュレーションやバックテストをPythonで自動化する提案をしてくれた。

以前から感情を排除し、システマティックな投資をしたかったが、このような技術を持たなかった筆者は大いに助けられた。

その他には子供の教育、旅行のプランニング、医療や法務などありとあらゆる日常使いでも活用することが可能だ。

これらは個人使いの例に過ぎないが、やはりAIは仕事で使うのが最も価値が高い。慣れない頃は「Google検索で十分」「自分でやる方が手直しがなくていい」となるが、これは「他者に仕事を振る能力」が鍛えられていないからだ。

毎日使っていればプロンプトは洗練され、過去のやり取りをAIが学習することでドンドン効率は高まる。そうなれば有料課金に興味が移り、一度使うとその生産性の高さに手放せなくなる。この一連のプロセスで最も得をするのは自分なのだ。

日本人の人口割合で有料ChatGPT利用率が0.1%という現実は、確かに「出遅れ」を示している。しかし、悲観する必要はない。裏を返せば、それは「非常に大きな伸びしろがある」ということだ。いつの時代でも変化には大きなチャンスがある。周囲が使わないからこそ、自分が使って出し抜く、くらいの気概で取り組みたい。

 

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。