サッカー日本代表に必要なのは老獪ビジネスマンマインド?

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サッカーとは、手を使わずに相手陣地のゴールにボールを入れた数を競うスポーツ…非常にシンプルなルールです。空間とボールがあればどこでもプレーできるという手軽さ。世界中のどこでも楽しめる魅力的なスポーツです。

熱狂するホモ・サピエンス、残念すぎるオーストラリア代表戦

しかも、手を使わないことでボール扱いの難易度が増し、ホモ・サピエンスの機動力を極限まで引き出し、敵味方入り乱れることで闘いの要素も生まれ、驚きのイレギュラーも…。このことが人々を熱狂させ、世界中で愛されています。

そして、私もその魅力に取りつかれた一人のホモ・サピエンスです。お気に入りの選手、チームの活躍は本当に嬉しいものです。ただ、その分、残念な結果は心理的なダメージとなってしまいます。

先日、6月5日の日本代表オーストラリア戦での敗戦はまさにその心理的なダメージを受けたゲームでした。FIFAランクに影響するゲームに敗れたことで、2ランク程度のダウンが予想されています。本大会での好成績に向けては、決して良いニュースではありません。

しかも、負け方が良くない…。圧倒的にボールを支配しながら、僅かな心理的なエアポケットのような隙を突かれての失点です。ここでは、このような「事故」のような失点がなぜ起こってしまったのか考えることで、今後の日本代表の応援としたいと思います。

日本代表、痛恨の失点

図は失点シーンのイメージです。赤の矢印がボールの動き、オレンジの矢印が人の動きを表しています。スローインボールからの展開でDF瀬古が敵ボールホルダーのターンで入れ替わられ、ペナルティエリア奥深くへの侵入を許してしまいます。DF瀬古は体を張って展開の阻止を図りましたが、折り返しのマイナスボールを許してしまいます。

図:日本代表、失点シーンのイメージ

敵ボールホルダーも余裕がなかったようで、折り返しは少々ルーズなボールだったのですが、そのボールに真っ先に反応したのがオーストラリアのアジズ・ベヒッチでした。ほぼフリーでのシュートを許してしまいました。そして、GK谷にもカバーに入っていたDF瀬古らにも触れさせない鋭い弾道で日本ゴールを陥れたのです。

守備の人数は足りていたはずなのに…

もちろん、この失点も残念なのですが、さらに残念なのはこの瞬間だけ、日本代表はフリーズしているかのような出足の悪さが全体的にあったのです。図でわかるようにペナルティエリアとその周辺、日本代表は人数が足りていない訳ではありません。いつものように機敏な守備をしていれば阻止できた得点でした。なぜ、こうなったのでしょうか?

理由はシンプルです。このゲーム、ネット上のファンの声には「眠くなる…」、「練習試合のようだ…」などという声が散見されています。実際、ほぼ守りに徹していたオーストラリア代表の攻め手は単調でした。特にスローインを獲得してからの攻撃は本当に単調でした。

日本代表を体格差で押し切ろうというロングスロー…。ゴール前の密集にボールを放り込んで混戦からのゴールを狙うというものでした。しかし、これは日本代表もしっかり警戒してことごとく弾き返す…。日本代表はこのゲームのオーストラリア代表の攻めパターンに慣れきってしまっていたことでしょう。

そして、オーストラリアの強固な守備をどう崩すかで頭がいっぱいだったことと思います。そんな中で、このスローインだけはショートパス…。守備に戻っていた選手たちは、何が起こったのか困惑したことでしょう。実際、MF久保は完全にロングスローだと思って出遅れたと語っています。要はオーストラリア代表の攻めてこない、攻めたとしても単調な攻撃、という「体」に完全に騙されてしまったのです。

サッカーは騙し合いのスポーツ、ビジネスと同じ

オーストラリア代表もどこまで騙そうと狙っていたのかは不明ですが、少なくともこの最後のスローインに限っては完全に日本代表を騙していました。サッカーとは騙し合いのスポーツ。騙されたら負けなのです。そういう意味ではサッカーはビジネスとも似ていますね…。

特にこの騙し方、前回ワールドカップで日本代表が世界の強豪、ドイツ代表、スペイン代表に勝った騙し方とよく似ています。前半は守りきって攻め手を見せず、敵にそのリズムに慣れさせて勝った気分にさせてしまう。そうして後半は一気にギアを上げて…。デティールは違いますが、騙し方の概要は概ね同じです。それだけにますます残念な敗戦でした

ビジネスでも単調で簡単そうに見えるビジネスほど落とし穴があるものです。大事なことは、どんな騙し方が待っているか予想しておくこと、そして仮に騙されたとわかったらフリーズせずに切り替えて行動できることです。騙し合いの世界では狼狽えたら、フリーズしたら負けです。

日本代表が老獪なビジネスマンのような新しいマインドを持って次のインドネシア代表戦、そしてワールドカップ本戦に挑んでくれることを願っています。

杉山 崇(脳心理科学者・神奈川大学教授)
臨床心理士(公益法人認定)・公認心理師(国家資格)・1級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)。
1990年代後半、精神科におけるうつ病患者の急増に立ち会い、うつ病の本当の治療法と「ヒト」の真相の解明に取り組む。現在は大学で教育・研究に従事する傍ら心理マネジメント研究所を主催し「心理学でもっと幸せに」を目指した大人のための心理学アカデミーも展開している。
日本学術振興会特別研究員などを経て現職。企業や個人の心理コンサルティングや心理支援の開発も行い、NHKニュース、ホンマでっかテレビ、などTV出演も多数。厚労省などの公共事業にも協力し各種検討会の委員や座長も務めて国政にも協力している。
サッカー日本代表の「ドーハの悲劇」以来、日本サッカーの発展を応援し各種メディアで心理学的な解説も行っている。

心理マネジメント研究所(代表:杉山崇@脳心理科学者・臨床心理士・公認心理師/神奈川大学教授)|note
「心理学でもっと幸せに!」を実現する研究所。各種研修、採用・組織運営コンサルティング、データ解析、心理カウンセリング、キャリアコンサルティング、などを組織と個人に提供中。代表の杉山は著書多数の他、NHKニュース、フジテレビ「ホンマでっかテレビ」などTV出演も多数。長州男児。