GDPに政府支出を含めるべき?

hudiemm/iStock

先日、石破首相が自民党の参院選公約で、2040年に「名目GDP(国内総生産)1000兆円」を目指すと打ち出し、大きな話題になっています。

石破首相が打ち出した「名目GDP1000兆円」 その場合、株価はいくらまで上がる?(Yahoo!ニュース オリジナル THE PAGE)
 石破首相が自民党の参院選公約で、2040年に名目GDP(国内総生産)1000兆円を目指すと打ち出したことが話題になっています。「名目GDP1000兆円」のときに想定される株価はどうなるのか。第一生

はじめに、GDPについて確認しておきましょう。

日本銀行のHPから一部を引用してみます。

GDPとは
Gross Domestic Productの略で、「国内総生産」。

一定期間内に国内で生産された財(モノ)・サービスの付加価値の合計額。一国の経済活動を包括的に示す指標・景気を測る指標として重要なもので、内閣府が作成・公表している。

GDPには名目値と実質値がある。
・「名目GDP」は、実際に取引されている価格に基づいて推計されるため、物価変動の影響を受ける。
・「実質GDP」は、ある年(基準年)の価格水準を基準として、物価変動要因が取り除かれている。
このため、景気判断や経済成長率をみる場合には、名目GDPだけでなく実質GDPも重視される。

日本銀行のHPより

また、GDPの算出には主に3つの方法(「支出法」「所得法」「生産法」)がありますが、最もよく使われる「支出法」では、以下の4つの項目があります。

  • 政府部門による「公共投資」
  • 海外部門による「(純)輸出」
  • 企業部門による「設備投資」
  • 家計部門による「個人消費」と「住宅投資」など

さて、ここで考えていただきたいのは、「豊かさとは何か」ということです。

たとえば、市場で民間企業の商品が売れたということは、「消費者がそれを欲しいと思ったからこそ、購入した」ということを意味します。

そこには強制はありません。

消費者は、自らの望みでそれを購入し、その商品はその消費者を豊かにしたのです。

このように、人々が自発的に買う商品が多いほど、豊かな社会だと言えると思います。

一方、政府の活動は、民間の市場での活動とはまったく違います。

「政府には富を生み出すことはできず、国民から税金を奪って、それを使って強制的に何かを押し付けることしかできない」からです。

このように、民間の市場(人々の消費)と、政府による支出を、一緒にして「GDP(一国の経済活動を包括的に示す指標・景気を測る指標)」とし、「GDPの成長を目指す」と目標にすることは、大きな混乱や誤解を生むことになりかねません。

さまざまなデータを活用することは必要ですが、そのデータが表すものの意味を考えてみることは非常に重要です。

今回はそれに関連して、アメリカの経済学者で元ヘリテージ財団のPeter St Onge(ピーター・セント・オンジ)氏の2025年3月7日の記事「Should Government Spending Count as GDP?(GDPに政府支出を含めるべき?)」を翻訳して紹介したいと思います。

(※)と太字は筆者です。

元の文章はこちらから読めます。

Should Government Spending Count as GDP?
When we cut government waste, end useless wars, or deport welfare-case illegals, government statistics count it as making us poor.

GDPに政府支出を含めるべき?

私たちが政府の無駄を削減し、無益な戦争を終わらせ、福祉目当ての不法移民を国外追放すると、政府の統計ではそれが「私たちが貧しくなった」としてカウントします。

これは、愚かしい話です。

先週の日曜日(※この記事は3月7日の記事です)、商務長官のハロルド・ラトニックはマリア・バーティロモに対して、政府統計の大半を作成している商務省は、今後はGDPを算出する際に政府支出を分離して算出するようになると語りました。

その前の週には、イーロン・マスクが、政府支出はそもそもGDPに含めるべきではないと投稿しました。なぜなら、「自動車を作っている人全員をDMV(陸運局)で働かせても、GDPの数字は同じに見えてしまう」からとのことです。

マスクの言っていることは、正しいことです。

実際には、GDPが上がってしまう可能性すらあるのです。

なぜならGDPは「産出量」、つまり市場価格で評価される財やサービスをカウントするからです。

しかし、政府がすることには、市場価格がついた「産出物」が存在しません。

そのため、政府の統計官たちは、代わりに給与やその他のコストを合計するだけなのです。つまり、アメリカ中の自動車工場をすべて閉鎖して、そこの労働者に「窓の外を眺めるだけ」という公務員にし、高い給料を与えれば、GDPは上昇してしまうということになります。

1.GDPの計算方法

理論上、GDPは国内で生産されたすべての最終財・サービスの価値をカウントするものです。

多くの人は、これを「豊かさ」の指標として用います。

GDPが上がれば私たちは豊かになり、下がれば不景気で困っていると見なされます。

GDPが6か月連続(つまり2四半期連続)で下がれば、それは典型的な「景気後退」の定義となります。そして人々はそれを「急速に貧しくなっている」と解釈します。

これは民間部門については基本的に正しいことです。

GDPの上昇は、生産の増加を意味し、それは私たちの豊かさにつながります。

ただし、子育てのようにお金のやり取りが発生しない価値ある活動は、GDPに含まれないというただし書きはあります。

2.GDPと政府支出

しかし、政府が関わると話はおかしくなります。

その一因は、先ほど述べたとおり、GDPが政府支出を「産出物」ではなく「支出」でカウントしてしまうことです。

そしてもう一つの理由は、政府が実際に生み出しているものの質が極めて低いということです。

たとえば、その一例として、アフガニスタンでの戦争などは言うまでもありません。

また、他の例として、シカゴの公立学校を考えてみましょう。

そこでは、生徒一人当たりに年間28,702ドルも費やしています。これは非常に高額です。

しかし、11年生(高校2年生)で読み書きが「熟達レベル」にあるのはたった22%、数学に至ってはわずか18%です。

つまり、シカゴの学校によるGDPは、実際には何も生み出していないと言っても妥当でしょう。

いや、むしろ、マイナスになっているとすら言えるかもしれません。

まともな子どもたちを読み書きできない人間に変えてしまい、立派な学校の建物「日中だけの刑務所」に変える装置だとさえ言えるからです。

しかも、さらに悪いのは、政府が使うすべてのお金は、最初に「誰かから取り上げた」ものであるという事実です。

つまり、それは「生産」ではなく、「再分配」に過ぎません。

強盗が盗んだ場合と同じです。

しかし、政府が帳簿をつけると、なぜかその「強奪」が「富を生み出した」ことになってしまうのです。

私たちは、強盗が金を奪ったことを、経済全体の金額が2倍になったとは数えません。そして、その強盗がIRS(内国歳入庁)に勤めていたとしても、やはりそうすべきではないのです。

3.解決策は何か?

ミルトン・フリードマンは、政府支出の質が低く、再分配に過ぎないことから、GDPへの反映を大幅に割り引くことを提案しました。

マレー・ロスバードは、政府の支出は強制的な再分配であるため、GDPから完全に除外すべきだと主張しました。

あるいは、税・インフレ・借金による資源の浪費(いわゆる「デッドウェイト・コスト」)を考慮して、むしろマイナスとしてカウントすべきだという考え方すらあります。

これは政治的にも重要なことです。

なぜなら、政府支出によって本当の景気後退が「隠されてしまう」可能性があるからです。

たとえば、ジョー・バイデン政権下では、政府の成長は経済全体の3倍のスピードで進み、GDP成長の約半分を占めました。

人口はそれ以上に増えていたので、実質的に、バイデン政権の4年間は、連邦政府以外のすべてにとっては「景気後退」だったと言えるのです。

これは11月の選挙結果を説明する一因となるでしょう。

そして、これから起きることを考えると、さらに重要になります。

なぜなら、DOGEによる削減や戦争の終結によって政府が縮小されれば、それは無駄・インフレ・債務が減るので、私たちは「豊か」になるはずです。

しかし、現在のGDPの定義では、それらのすべての「富」は、あたかも「景気後退」のように統計上現れてしまうため、左派メディアがその数字に飛びつき、「バイアウトを求める銀行家のように」騒ぎ立てることになります。

私たちは今後も政府支出の額を記録すべきです。

ただし、それは「どれだけ無駄遣いしているか」を知るためです。

そして、実際に私たちが支払っている「本当の経済」を中心に置くべきなのです。それは、政府を除外した形での報告を意味します。

最後までお読みくださりありがとうございました。

GDPの算出方法について、

  • 「政府支出をそのまま入れる(従来の方法)」
  • 「政府支出は大幅に割り引く(ミルトン・フリードマン)」
  • 「政府支出を完全に除外する(マレー・ロスバード)」
  • 「政府支出はむしろマイナスとしてカウントする」

など、さまざまな意見があり、それぞれの方法で、算出される数字もデータの読み方もまったく変わってきます。

さらに具体的に考えるため、近日中に具体的な数字と推移を紹介していきたいと思います。


編集部より:この記事は自由主義研究所のnote 2025年6月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は自由主義研究所のnoteをご覧ください。