イラン産「高濃縮ウラン409㌔」の貯蔵先?

カナダ西部のカナナスキスで開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)は16日(現地時間)、イスラエルのイランの核関連施設への攻撃を認知するなどを明記した共同声明を発表した。同声明は①イスラエルの自衛権を認める、②イランの核兵器製造につながる核関連活動を絶対に容認しない、③イランの核問題は最終的には関係国間の外交交渉で解決すべきだ、という3点から構成されている。同声明にはトランプ米大統領も署名した。同大統領はイランとの核協議を優先すべきだと主張し、共同声明には署名しない意向を示唆していた。米国を含むG7首脳国がイスラエルのイラン攻撃を容認したことは、イスラエル側には大きな支援だろう。

G7カナナスキス・サミットでトランプ米大統領と会談する石破茂首相,2025年6月17日、首相官邸公式サイトから

G7が認知したイスラエルのイラン攻撃には明確な目標がある。イランの核関連施設、特に濃縮ウラン関連施設の破壊だ。「ライジング・ライオン作戦」と呼ばれるイスラエル軍のイラン攻撃は17日で5日目に入った。イスラエル側はイランのウラン濃縮施設ナタンツに激しい空爆を行ったほか、金属ウランを製造するイスファハンや第2の濃縮ウラン施設フォルドウにも空爆し、大きな被害を与えた一方、アラク重水炉施設やパルチン軍事施設にはこれまでのところ空爆を行っていない。

情報が混沌としている面もあるので少し整理したい。ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は16日に開催された特別会合で「イスラエルの攻撃により、ナタンズのイラン核濃縮施設の一部とエスファハーンの4つの核施設などが被害を受けたが、ナタンツの地下施設は攻撃を受けていない。また、16日の時点でフォルドゥにある第2ウラン濃縮施設、ブシェール原子力発電所、そして建設中の原子炉には被害の報告はない」と報告している。

IAEAは12日、定例理事会でイランの核不拡散義務違反を批判する非難決議を可決したばかりだ。IAEAは5月31日、イランの核活動に関する包括的な報告書を加盟国に送付し、核不拡散のためのIAEAの活動に対するイランの協力について、「満足いくものではない」と批判した。IAEAによると、イランによる濃縮度最大60%のウランの保有量は、5月17日時点で3カ月前から133.8キロ増の推定408.6㌔となり、核爆弾9個分に相当する。IAEAは「イランは高濃縮ウランの生産と備蓄を大幅に拡大させており、深刻な懸案事項だ」と指摘した。

また、IAEAの査察官は、既知の核施設から離れた施設で、ウランの痕跡やその他の証拠を発見した。それに対し、イランはこれまで信頼できる説明をしていない。秘密核活動は、長年調査が続けられてきた。機密報告書によると、これらの活動に使用された物質は国連に報告されていないという。

ところで、イスラエルのイラン核関連施設と核兵器の運用手段となる弾道ミサイルの製造拠点への空爆活動をいつ停止し、イランの核開発能力が無力化したと宣言し「ライジング・ライオン作戦」を終了するだろうか。トランプ米大統領はイランとの核協議の再開に熱心であり、イランもここにきて米国に協議を再開したい意向を伝達しているといわれる。実現すれば、イラン側は濃縮関連活動を断念する代わり、米国に制裁解除を要求するディ―ルとなる。

しかし、まだ深刻な問題がある。イランが既に製造した約409㌔の高濃縮ウランを秘密の場所に保管していた場合だ。専門家たちは、イスラエルの大規模攻撃前から、イランが高濃縮ウランを秘密の場所に移送・保管している可能性があると警告していた。IAEA元査察局長のハイノーネン氏は16日、BBCとのインタビューで、「重要な疑問が一つ未解決のままだ。イランが400キログラムを超える高濃縮ウランをどこかに貯蔵し、ひそかに核開発を継続する場合だ」と述べている。なぜならば、イランの製造済みの約400キログラムの高濃縮ウランは、容易に隠蔽できるからだ。ちなみに、兵器級のためには90%以上の濃縮ウランが必要だが、「60%から90%までは短期間で達成できる」という。

もちろん、イスラエル側はイランの409㌔の高濃縮ウランの行方が判明するまではイラン攻撃を続けるだろう。米国がイランと核協議を再開した時、米国は真っ先に409㌔の貯蔵先をイラン側に問い詰めるだろう。なお、イランの同盟国ロシアのぺスコフ大統領報道官は「イラン産の高濃縮ウランを貯蔵し、民生用原子炉の燃料に変換するという案が考えられる」と述べ、イスラエル・イランの核問題の仲介に意欲を示している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年6月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。