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ネタニヤフ政権の二大目標:斬首作戦と核施設の破壊
イスラエルによるイラン攻撃の背後には、ネタニヤフ政権にとっての二つの絶対的な目的がある。
第一の目的は、イランの最高指導者ハメネイを標的とした「斬首作戦(decapitation strike)」である。第二次世界大戦後、アメリカは「民主主義の輸出」を掲げ、数多くの独裁国家に対して体制転換、いわゆるレジームチェンジを実行してきた。しかし、「アメリカ・ファースト」および「自分ファースト」を掲げたトランプ政権は、イランの体制転換には消極的であり、これはネタニヤフにとって決定的な転機となった。
第二の目的は、イラン北部・コム市の南東約30キロに位置するファルドウ(Fordow)核施設の破壊である。ここは、イスラエルの「敵対勢力の核保有は容認しない」という国家安全保障ドクトリンの中核に位置づけられてきた。実際、イスラエルはこれまでもイラク(1981年のオシラク原子炉)やシリア(2007年のデリゾール)などの核関連施設を、先制的に空爆してきた。
地下深部の標的と戦術核「B61-11」
イラン側もその歴史を踏まえ、約30年前からファルドウ核施設を極秘裏に建設。地下80〜100メートルの岩盤層に埋設し、さらに宗教施設に隣接させることで、政治的・軍事的にも通常兵器による攻撃が困難な構造とした。
この「掘っても届かない標的」に対し、米国の地中貫通兵器GBU-57(MOABより巨大な30,000ポンドのMOP)でも届かない可能性があると指摘されている。そこで浮上するのが、別の種類のバンカーバスター「B61-11」と呼ばれる小型戦術核である。これは冷戦期に、旧ソ連の地下軍事施設(例:シベリアの指令基地)攻撃を目的に開発された特殊兵器だ。私はロスアラモス研究所にて、この兵器の開発責任者ステイーブ・ヤンガー博士から直接証言を得た。
私は日本人ジャーナリストとして、米国内にある約10か所の国立研究所(DOE=米エネルギー省管轄)を複数回訪問。原爆と原発の両面から現地で取材を行ってきた。ロスアラモス、サンディア、パンテックスなどでは、B61-11に関する貴重な資料・写真・証言を収集している。
特筆すべきは、B61-11や同型地表貫通爆弾がB-2ステルス爆撃機とのセット運用を前提としている点である。イスラエルは過去20年にわたり、米国に対してこの兵器の供与と運用許可を繰り返し求めてきた。独自開発を試みたとされるが、実際の使用許可は米国が握っているという見方が根強い。
もちろん、核兵器の使用は国際社会の激しい非難を招く。現実的には「不可能」とされるが、仮にイスラエルが「国家の存亡に関わる」と判断した場合、たとえ米国の反対があっても(たとえばそれがトランプ政権であっても)、使用に踏み切る可能性は完全には否定できない。
サイバー戦と非軍事的選択肢
また、爆撃以外の選択肢にも注目すべきである。イランの核開発を一時的に麻痺させた実績があるのが、米国とイスラエルが共同開発したサイバー兵器「スタックスネット(Stuxnet)」だ。これはイラン・ナタンツの遠心分離機を物理的に破壊に導いたマルウェアであり、私も取材を試みたが、当事者への直接取材は極めて困難だった。
作戦の中心にはモサドが存在し、米NSAやイスラエルの電子諜報部門「ユニット8200」の協力があったことは確かである。今後も同様のサイバー攻撃が実施される可能性は高い。
アメリカの支持と「力の外交」の論理
一方、日本国内では「イスラエルが核兵器を保有しているのに、なぜイランの核保有を認めないのか」「なぜアメリカはイスラエルを支持し続けるのか」といった素朴な疑問も見られる。だが、これは国際政治の現実を知らぬ“こたつ評論家”の声にすぎない。
確かに、「国家も人間も平等であるべきだ」という理念は尊い。しかし、現実の国際政治において、それがそのまま通用するとは限らない。
アメリカのイスラエル支持については、「ユダヤ系アメリカ人の影響力」「キリスト教原理主義者の支持」「ユダヤロビーの力」などが挙げられる。だが最大の理由は、イスラエルが中東で唯一、選挙によって政権交代が起こる国であるという制度的な特徴にある。私は40年近くにわたり、米国の識者や政治家と意見を交わしてきたことの結果、学んだことだ。
今回のG7による共同声明でも、同じスタンスを読み取ることができる。
イスラエルではアラブ系住民やイスラム教徒にも投票権があり、それ自体がイランのような神権体制とは根本的に異なる。イスラエルには多くの問題があるとはいえ、近代国家としての「政権交代」という原則を維持している。
トランプ政権の登場によって、アメリカ自身の民主主義の矛盾がより鮮明になった。とはいえ、アメリカがイスラエルを「よりまし(ベター)」と評価する理由の一つは、まさにこの制度的合理性にある。宗教的正統性よりも、機能する制度こそがアメリカ外交の基準なのである。
現時点で最も現実的な展開は、この危機的なシナリオが回避され、イランが譲歩することである。イランの最高指導者は、降伏などしないと言明した。だが同時にロシア辺りに亡命する可能性も出ている。当然、ホメネイ師亡き後がパーレビ元国王の孫か、逆により強硬な反イスラエル・反米国強硬派になる可能性もある。そこは全く予測できない。
米・イスラエル両国による圧力と軍事的示威が、イランの事実上のかなりの譲歩――いわば「無条件降伏」に近い形へと導く。私はこの可能性について、アメリカ政府内の複数の関係者から直接話を聞いている。これは軍事行動そのものではなく、軍事力の存在が政治的成果を引き出すという典型的な「力の外交」なのである。