イスラエルによるイラン攻撃:「B61-11」の影

野口 修司

FatmirBajrovic/iStock

中東情勢の緊迫化とイラン攻撃の衝撃

中東情勢は今、かつてないほど緊迫の度合いを深めており、イスラエルによるイランへの攻撃がついに始まりました。今回の標的は、イラクのようなアラブ国家ではなく、ペルシャ人を中心とするイランです。しかし、その構図は過去の事例と非常に類似しています。

イスラエルが核関連施設に“再び攻撃” イランは報復宣言 なぜ対立 原油価格や日経平均株価などにも影響 | NHKニュース
【NHK】イスラエル軍は13日、イラン各地にある核関連施設など100以上の標的への攻撃を行ったと発表し、ネタニヤフ首相は「イランの

イスラエルは、敵対勢力による核保有を断じて容認しないという国家戦略を堅持しています。この方針はアメリカとも基本的に一致しており、両国は水面下で連携しているとみられます。少なくとも、今回を含め、イスラエルが米国に「事前通告」しているのは間違いないでしょう。イスラエルによる攻撃直前の記者会見におけるトランプ大統領の発言でも確認できます。

地下核施設と「B61-11」の存在

今回の攻撃で標的となっているのは、イラン国内に点在する核関連施設とされている。これらの施設の多くは地下深くに建設されており、通常の大型爆弾でも破壊が困難な構造を有している。

特に最重要な核施設はフォルドウ施設だ。宗教聖地にも近く攻撃しにくい。今回のような普通の攻撃で破壊はほぼ不可能です。

筆者は以前スタックネットの取材をした。あのようなサイバー攻撃も1つのやり方です。同時に爆撃で破壊する。これも効果的だ。しかし、重要施設は地下深くなので、攻撃が実際に成果を上げられるかどうかは、依然として不透明である。

こうした中で注目されるのが、アメリカが冷戦期に開発した戦術核兵器「B61-11」である。これは旧ソ連・シベリアの深層地下施設を破壊するために設計されたものと開発者から直接聞いた。筆者は日本人ジャーナリストとして唯一、ヒロシマ原爆製造で有名なロスアラモス国立研究所に入り、この兵器を直接確認するとともに、開発責任者(写真)ステイ―ヴ・ヤンガー博士と対談する機会を得た。

戦術核兵器「B61-11」開発責任者(右)と筆者

この兵器は、現在イランに存在する深層地下施設の無力化にも理論上は有効とされており、今回の作戦においても使用可能な選択肢の一つとなりうる。

筆者が過去にアゴラで執筆した記事で、当時の大統領補佐官から裏話を聞いた。その時にも触れたように、イスラエルがかつてイラクの核施設を攻撃した際は通常兵器を用いた空爆であった。しかし、今回のイラン攻撃では、まさに「B61-11」もしくは改良型のB61-12 さらに、非核のGBU-57 など同型地表貫通爆弾の使用可能性が一部で指摘された。

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核使用の可能性と国際的反発

イスラエルが戦術核兵器を実戦で使用する可能性は、極めて低いと考えられます。

まず、イスラエルが独自に開発した可能性は否定できませんが、過去10年ほどの噂はあるものの、アメリカがイスラエルにこの兵器を供与した確証はありません。第二に、戦術核兵器の使用は国際社会からの強い非難を確実に招き、特にトランプ大統領が強く反対すると予想されます。第三に、今回のイランによるドローンやミサイルを用いた報復が、それほど大規模ではなかったことがあります。これは、イラク国内向けのポーズに過ぎないという見方さえあります。過去2年間におけるイランのイスラエルへの攻撃は、かなり抑制的なものにとどまっています。やはり、やり過ぎればイスラエルだけでなく、米国が動く可能性を恐れてのイランの作戦なのでしょう。その結果、戦火拡大の可能性はかなりありますが、核使用の可能性は極めて小さいと言えます。

批判が大きく政治的に使えないともいえるB61-11 の代わりに非核のGBU-57 など同型地表貫通爆弾の使用可能性も指摘された。だが爆弾があっても、B-2 のような落下する爆撃機もセットで必要と、といわれる。そのため、イスラエル「独自」でイラン核施設の完全破壊は不可能といえます。

今回のイスラエルによる攻撃の発端の一つは、トランプ前大統領がイラン核合意から一方的に離脱したことが挙げられます。これにより、イランは核開発を正当化できる一方で、イスラエルにとっては今回のような攻撃を正当化できる状況が生まれました。(米国諜報の一部などは以前と違って、イランは核兵器開発を諦めたという判断するものもいる。だが確証はない)ネタニヤフ首相は、戦争が終結すれば国内で様々な責任を問われるため、ガザだけでなく広範囲での戦争継続が、その責任追及を避けるための自己保身につながると考えているのも間違いない。

そして、最も大きなきっかけは、トランプ前大統領が選挙を意識して、イランとの関係において柔軟な姿勢を示し、対話を開始、合意に達する可能性が出てきたことです。今回の攻撃後でさえ、トランプ氏はイランの強硬派が死亡したと発言しており、事態が落ち着けばイランと合意してもよいという示唆とも受け取れます。

万が一にも、両国がイスラエル抜きで歩み寄るようなことがあれば、イスラエルにとっては決して許容できない事態です。これを阻止する目的こそが、今回の攻撃の直接的な引き金になったと見られています。

(文脈は異なるとはいえ、昨年10月4日のハマスによるイスラエルへのテロ攻撃が今回の大惨事につながったことは確かです。この出来事に関しては、数千年にもわたる歴史的解釈や、数百もの主張が永遠に平行線をたどるかのように議論されています。

しかし、誰もが予想できたのは、イスラエルによる「100万倍返し」ともいえる報復でした。ハマスだけでなく、誰もがその事態を予見できたはずです。それでもハマスが攻撃に踏み切った大きな理由の一つは、イスラエルとサウジアラビアの接近にあり、パレスチナ問題が忘れられるのをハマスらが防ぎたかったためと、筆者は確信しています。どこかとどこかの国が仲良しようとする。それで損する国が開戦するシナリオ。筆者が湾岸戦争とプラザ合意で対談。仲良くなったジム・ベイカー国務長官が教えてくれたことです)

とはいえ、情勢は刻一刻と変化しており、B61-11やそれに類する貫通型爆弾の使用可能性を含め、今後の展開には引き続き注視が必要です。

石油利権と日本への影響

この問題には中東の石油利権も密接に絡んでくる。もしホルムズ海峡が封鎖されるような事態に発展すれば、日本を含む多くの国々の経済やエネルギー安全保障に甚大な影響を及ぼすのは避けられない。

したがって、これは「遠い中東の出来事」でも「他人事」でもない。我々自身の生活に直結する喫緊の課題として捉えなければならない。