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筆者はメディア各社からインタビューを受けることがしばしばある。最も多いのが「官製談合」についてであるが、「随意契約」についての質問も同じくらいに多い。
少し前までは官民間の癒着や腐敗の文脈で随意契約が取り上げられることが大半であったが、最近の傾向を見るとその妥当性や(ルール上の)許容性について問われることが多くなったように思われる。小泉進次郎農水大臣が備蓄米の放出を「随意契約で行う」と発言し実施したことで、この用語がさらに注目を浴びた。これからも頻繁に問い合わせがくるだろう。
メディアへの回答の場合、丁寧に説明しても確実にその一部が切り取られて掲載される。また、同じ内容の説明をするのも時間的に勿体無いので、この際、共有すべき情報をここでまとめておこうと思う。
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第一に、随意契約とはしばしば「非競争的な契約手法」として理解されるが、これは正確ではない。法的には、公共調達の場合、競争入札以外の契約手法のことをいう。競争の要素があっても競争入札でなければそれは随意契約として扱われる。設計コンペ、提案(プロポーサル)に基づく契約者選定、見積り合わせ等、随意契約でも競争的手法に基づくものは少なくない。最初から特定の業者を決めておいて交渉する手続は特命随意契約と呼ばれる。
第二に、随意契約が認められる場面は会計法や地方自治法(そしてこれらの施行令)によって法定されている、ということである。国の契約を規律する会計法では、(1)契約の性質又は目的が競争を許さない場合、(2)緊急の必要により競争に付することができない場合、(3)競争に付することが不利と認められる場合においては「随意契約によるものとする」と定められている(29条の3第4項)。
それ以外にも、予算決算及び会計令に定めた特定の場合には「随意契約によることができる」と定められている(会計法29条の3第5項)。一定額を超えない契約において随意契約が認められている、いわゆる少額随意契約がその典型である(予算決算及び会計令99条1号等)。
第三に、地方自治法及びその施行令においても同様の規定が置かれているが、多少規定振りが異なる。例えば、会計法では、「契約の性質又は目的が競争を許さない場合」とされているところ(上記参照)、地方自治法(施行令)では、「随意契約によることができる場合」として、契約の「性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」とされている(地方自治法施行令167条の2第1項2号)。
第四に、地方自治体が随意契約を行う際、しばしば「○号随契」と呼ばれることがあるが、これは今触れた地方自治法施行令167条の2第1項の各号に、随意契約が認められる事情が列挙されていることに基づく。先ほど挙げた「競争入札に適しない」場面は、「2号随契」である。よく見かけるものは以下の5つである。
- 1号随契:予定価格が一定額を超えない契約
- 2号随契:契約の性質又は目的が競争に適しない場合
- 5号随契:緊急性を理由とするもの
- 6号随契:競争入札に付することが不利となるもの
- 8号随契:不調・不落を理由とするもの
このうち直近において、その問題性がしばしば報道で取り上げられるのは、1号と5号である。以下、この点について少し掘り下げて論じることとしよう。
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1号は、金額の少なさを理由に随意契約が認められ、発注機関にとっては説明が容易であるのでその利用に躊躇がない。しかし、少額随意契約が認められるその趣旨は、競争入札の手間暇をかけるだけのスケールメリットがないからであり、裏を返すと一定を超える案件は競争入札による効率性のメリットの方が大きいと判断されるのである。従って、随意契約の方が楽だからという理由で、工事を分割したり、ロットを小さくしたりしてこの枠に収めて随意契約を実施することは不適切である。
5号は、競争入札をする時間的な余裕のない場合に許される方式で、一般的には2、3日の余裕すらないケースが想定されている。ただ、地方自治法施行令は「随意契約によることができる場合」として規定されているので、国の場合よりも多少の幅があるという解釈も可能であるが、実務上は急を要する災害対応あるいはそれに準じる場合にのみ適用されているのが実際である(もちろんそこまで厳格ではない自治体もあろうが、それ以外のケースに適用しようとして議会で紛糾したというある自治体のケースを見聞きしたことがある)。
悩ましいのは、学校施設の改修や空調設備設置のような本当は非常に急いでいるが、5号随契の適用に躊躇して、分割発注して1号随契に持ち込むケースの存在である。ストレートに考えれば競争入札を実施する時間的余裕がないのであれば5号随契でよいはずだが、特例中の特例として5号随契を理解してしまうと、説明が楽な1号随契の利用にはしってしまう傾向が強い。どの自治体でも似たような問題に直面しているのではなかろうか。
2号随契や6号随契は一般条項的な枠であり、特に2号随契は判例法上、発注機関の裁量が広く認められているものになっているが、現在ではこの規定の利用に躊躇する自治体は非常に多い。簡単にいえば、裁量が広くても裁量の逸脱の可能性がある限りこれに躊躇するのである。現場においては「各方面からの無駄遣いへの批判」に対する心理的なプレッシャーは相当のものがあるのだろう。
5号随契も同様である。「緊急かそうでないか」の判断が発注機関に委ねられていると、発注機関は躊躇するのである。一方、少額随意契約は枠内か枠外かの判断に迷うことはない。そして上記法令上、分割発注を禁止する条項は存在しない。分割発注を通じて特定の業者と癒着して、金銭の授受が担当者間であるような不正のケースでもない限り、「やむを得ない」ものとして組織内で抵抗なく受け入れてしまうことになる。事情は分かるが、そもそもの制度の趣旨に適ったものではないし、実際の事情と対外的な説明が食い違っている点で不適切である。
解決策は、そもそも5号の適用に「躊躇しない」ということなのだが、この心理的抵抗が強いのであれば、その適用のルールを予め設定しておくことは一つの出口になるだろう。国を含めてどの発注機関にも共通する課題なのであれば、財務省や総務省が一定のガイドラインを作るのも一案である。
同じことは2号や6号の適用についてもいえる。競争入札をする時間的余裕はないことはないが、仮に誰も応募、応札しないいわゆる不調(不成立)の案件で、再入札や8号適用までの時間的余裕がない場合には、緊急ではないかもしれないが2号適用場面になるという見方もできるのではないだろうか。しかし、この場合もやはり、そこに躊躇があるのであれば、何らかの事前のルール化が必要であろう。
なお、8号適用の随意契約においては、「契約保証金及び履行期限を除くほか、最初競争入札に付するときに定めた予定価格その他の条件を変更することができない」(地方自治法施行令167条の2第2項)という制約があって使い勝手が非常に悪い。その他、立法論としても、関連法令には見直す点も少なくない。
(付記)
本稿の内容の一部は、拙稿「公共機関が随意契約に躊躇する場合としない場合」と共通するものがある。こちらも併せて参照いただきたい。