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7日付の建通新聞に筆者のインタビュー記事が掲載された。随意契約をテーマとしたもので、必要な場面においては、随意契約は有用なものであり、あるいは避けられないものであるのだからその利用に躊躇すべきではない、というものだ。やや反発を受けそうな内容かもしれないが、当たり前のことをいったつもりである。
会計法でも地方自治法でも(そしてこれらの施行令でも)、競争入札が原則で随意契約が例外の扱いとなっている。「随意契約によるものとする」「随意契約によることができる」という二つの表現が法律上存在するが、いずれにしても適用場面が限定されたものであるので、随意契約は法令上例外として扱われるということだ。
かつては公共工事であろうが、その他の公共契約であろうが、この随意契約が指名競争入札とともに多用されていた。特定の業者が最も望ましい契約相手であることが分かっているのだから、その業者を最初から決め打ちして交渉することには問題がない、そのあたりは発注機関の裁量である、とかつては考えられていた。
しかし、そのような発想は今では通用しなくなった。複数の業者による競争の可能性がある以上、競争入札を実施しなければならない、と考えられるようになった。複数の業者による競争の可能性があるかないかについては、発注機関が決め付けるものではなく、それを決めるのはマーケットである。特許に関連するような明らかに供給源が唯一のものであると断言できない限り、法令の原則通り競争入札の実施が求められている。
その結果、一者応札になっても、それは結果であって、事前の判断において競争性がなかったことを意味するものではない。むしろ、競争性がないかのような結果になったことそれ自体が問題視されるようになり、発注機関は頻発する一者応札への対応に苦慮する事態となった。
法令を読むと、「随意契約によるものとする」場面として、「契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合及び競争に付することが不利と認められる場合」(会計法第29条の3第4項)が、「随意契約によることができる」場面として、「契約に係る予定価格が少額である場合その他政令で定める場合」(同第5項)が、それぞれ定められていることが分かる。
前者については予算決算及び会計令102条の4第3項、第4項にさらに定めがあり、同第99条が上記の「随意契約によることができる」、「政令で定める場合」を列挙している。
具体的にはこれらの法令の条文に当たってもらいたいが、これらの法規制の仕組みからいえることは、随意契約をするに当たって発注機関を躊躇させる二つの要因が指摘できるということである。
第一は、財務大臣との協議である。予算決算及び会計令102条の4の柱書きは、「各省各庁の長は、契約担当官等が指名競争に付し又は随意契約によろうとする場合においては、あらかじめ、財務大臣に協議しなければならない」と定め、その但し書きで「次に掲げる場合は、この限りでない。」と定めて、同条第3項、第4項の規定が展開されている。
財務大臣との協議が不要なものは、「契約の性質若しくは目的が競争を許さない場合又は緊急の必要により競争に付することができない場合において、随意契約によろうとするとき」(第3項)、そして「現に契約履行中の工事、製造又は物品の買入れに直接関連する契約を現に履行中の契約者以外の者に履行させることが不利であること」「随意契約によるときは、時価に比べて著しく有利な価格をもつて契約をすることができる見込みがあること」「買入れを必要とする物品が多量であつて、分割して買い入れなければ売惜しみその他の理由により価格を騰貴させるおそれがあること」「急速に契約をしなければ、契約をする機会を失い、又は著しく不利な価格をもつて契約をしなければならないこととなるおそれがあること」(第4項各号)が認められる場合となっている。
裏を返せば、これらの条件下以外では、財務大臣との協議が必要となる。これが高いハードルとなっている。
そして、第二が説明責任の重さである。上記の財務大臣との協議が不要な場面であっても、例えば、「競争を許さない」「緊急の必要により競争に付することができない」といった抽象的な書き振りが発注機関を悩ませる。
何をもって「許さない」「できない」といえるのか。「できるかもしれない」と批判された場合には、随意契約に対する批判が厳しい中、説明責任を果たすことに相当の重荷を感じてしまっていて、各発注機関は極めて保守的な姿勢になっているようである。
緊急随意契約についていえば、予算決算及び会計令第74条は入札の公告について「その期間を5日までに短縮することができる」と定めているが、これが「5日も待てない」案件のみに緊急随意契約が妥当するという解釈を導き、実際、より厳格に、人命救助のような1日も待てない特殊な場面のみに限定して考える発注機関は多い。
地方自治体においても地方自治法及びその施行令上随意契約について同様の規定が存在するが、財務大臣との協議といったハードルは存在しないが、説明責任の重荷については同様の状況といえる。こちらについては住民監査請求、住民訴訟のリスクもあり、国以上に保守的な地方自治体も少なくないようだ。
しかし、発注機関が随意契約に躊躇しない場面もある。それはこれまでの記述の流れからいえば、それは手続上のハードルが低く、かつ説明責任を果たすことが容易な場面である。その典型例が、いわゆる少額随意契約である。
予算決算及び会計令第99条は「会計法第29条の3第5項の規定により随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする」とし、例えば、その2号で「予定価格が400万円を超えない工事又は製造をさせるとき」とある。この額以下ならば随意契約ができ、その説明責任は「その額の小ささ」で尽くされているのである。地方自治法、地方自治法施行令にも同種の規定がある。この場合、発注機関は随意契約を利用したことの妥当性を問われることはない。だから発注機関はこの随意契約には躊躇しない。
しかし、説明責任が軽い分、少額随意契約にはリスクが潜む。手続きや説明の軽さから、本来競争入札をしなければならない金額の発注を意図的に分割し、少額随意契約の枠にはめ込もうとする動機が働き易く、説明責任を回避できるという安心感から受発注者間の不正・癒着の温床になり易い、ということだ。
そもそも少額の場合に随意契約が認められる理由は、競争入札のメリットよりも手続上のコストの方が大きくなってしまうので非効率であるという点にある。とするならば、分割による随意契約は、一定額(現状の法令の規定が妥当かどうかは別にして)以上の契約は競争入札のメリットを活かせという法の要請に反することになる。不正・癒着がなかったとしても、競争入札にかかる手間暇、不成立のリスク等に悩む発注機関は、この少額随意契約の使い勝手のよさについ引き寄せられてしまう。
加えて、随意契約への批判を回避するために契約変更によって別案件を接合し、実質的に随意契約同様の発注を行うケースも散見される点も指摘しておきたい。会計法や地方自治法には契約変更の規定がない。規定がないならば法令上の制約はない、ということで本来随意契約の理由が立たない案件において、そのような手法が用いられてしまうのである。
本来であれば随意契約をしたいところ、そのための手続きが用意されていない場面への苦肉の策として利用されることが多いのであるが、分割発注同様、この実務がまかり通ると、不正・癒着のリスクが高まることになる。こういった随意契約回避手段も批判的に眺める必要がある。
冒頭のインタビューでは、必要な随意契約は必要だという当然の事実に基づいて、「随意契約に躊躇するな」というメッセージを読者に送ったが、随意契約をめぐる疑惑や不正が生じないような仕組み作りが重要な前提とならなければならない。立法上、随意契約をもっと使い勝手のよいものにする工夫が必要であると同時に、監視・監督のあり方も見直されるべきだろう。
少額随意契約についてはそもそも監視の対象としない国や地方自治体に設置される入札監視委員会も多いのではないだろうか。公共契約に批判的な識者も結局は応札者数や落札率ばかり見ているのではなかろうか。随意契約を批判的に見ると同時に、必要な随意契約を積極的に認める、そういった目を養うこともこの分野に臨む識者に求められている。
追伸:
今年の3月末に上智大学を退職して、4月より筑波大学に勤務しております。心機一転、研究にますます精進していく所存です。読者の皆様、よろしくご指導下さい。