「12日間戦争」の停戦と米空爆の初期評価:イランの核開発計画は大きく後退

米軍が21日夜(日本時間22日午前)、イランの3か所の核施設を空爆したことは明らかになると、イスラエルのネタニヤフ首相は「まず『平和』ではなく、『力』があってその後『平和』が訪れる」という趣旨の自論を発言した。そして「歴史的転換点だ」としてトランプ米大統領の空爆決断に感謝を表明した。

ネタニヤフ首相インスタグラムより

その2日後、トランプ米大統領は23日、自身のSNSで、イスラエルとイランが「完全かつ全面的な停戦」に合意したと発表。イスラエルとイランが軍事作戦を縮小後、24時間後に交戦を終結させる。合意通り履行されれば日本時間25日にも停戦が実現する。
イスラエルとイラン両国からの情報では、停戦合意は25日午前段階(現地時間)、一部破られているが、大筋では順守されている。

ネタニヤフ首相は「全ての作戦目的を達成し、核と弾道ミサイルの脅威を排除した」と勝利宣言した。一方、イランのアラグチ外相はXで、「イスラエルが攻撃を中止すれば報復を続けるつもりはない」と強調した。両国は大筋では停戦を遵守する姿勢を見せている。米メディアによると、米国の停戦案をカタールが仲介し、イラン側に伝達。一方、イスラエル側も受け入れることを約束したことで成立した経緯がある。トランプ氏はいち早く、「イスラエル軍とイラン間の12日間戦争は終わる」と宣言している。

ところで、「12日間戦争」の終焉をもたらした米軍のイラン核施設への空爆による被害検証で評価が分かれている。具体的には、イランの3か所の核関連施設フォルドゥ、ナタンズ、イスファハンの核施設が地下貫通型の特殊爆弾「バンカーバスター」や巡航ミサイル「トマホーク」で完全に破壊されたか否かだ。

米CNNテレビは24日、米軍が22日に行ったイラン核施設3カ所への空爆の被害状況をまとめた情報機関の初期分析を報じた。それによると、「空爆が外部の核施設を破壊したが、地下施設にあった遠心分離機や高濃縮ウランは除去できなかった。核兵器開発に要する時間をわずか数カ月遅らせただけに過ぎない」と報じた。米中央軍の「戦闘損害評価(BDA)」に基づき、国防総省の国防情報局(DIA)が初期評価として作成したものに基づく。ただし、被害状況の検証が進めば、報告書の内容も変わるという。

それに対し、トランプ米大統領は「歴史上最も成功した軍事攻撃の一つを貶めようとしている。イラン核施設は完全に破壊された」と自身のオンラインプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」に書き込んだ。

また、ホワイトハウスは「作戦は完全に成功した」と強調。リービット報道官は「疑惑の評価の公開は、トランプ大統領と勇敢な戦闘機パイロットたちの信用を失墜させるための試みだ」と批判した。空爆を指揮したダン・ケイン将軍によると、爆撃にはバンカーバスター爆弾14発と精密誘導兵器計75発が使用された。米軍は125機以上の航空機を配備し、探知されることなく標的に接近した。これは、B-2爆撃機による過去最大規模の作戦攻撃となったという。

ネタニヤフ首相はイラン攻撃の勝利宣言後、「イスラエルはイランの核計画を破棄し、いかなる再建の試みも阻止する」と述べ、「イランは決して核兵器を取得することはない」と付け加えた。一方、イランのペセシュキアン大統領は24日、交渉のテーブルに戻る用意があると表明した。国営イラン通信(IRNA)によると、「大統領はイランは核兵器を求めていないが、原子力の平和利用に関する正当な権利は持ち続ける」と述べた。

以上、ロイター通信、ドイツ通信(DPA)などの外国通信社の情報をまとめた。

「12日間戦争」では米軍の空爆の被害状況の検証が重要だが、イランの核開発計画が大きく後退したことは明らかだ。イランが核開発計画を即再開するとは考えられない。米・イスラエル両国の軍事力の優勢さが明らかになった現在、イランの核開発の推進は自殺行為(体制崩壊)となる。その上、イランの同盟国ロシアと中国が軍事的に瀕死状況のイランに対して米・イスラエル攻撃を批判するだけで、何の軍事支援もできなかったことで、イランの軍事再建はさらに厳しくなることが予想されるからだ。

イランがナタンズのウラン濃縮施設やフォルドウの地下施設を再建するということは現時点では数年間は難しい。ただし、英国の「キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)」で教鞭を取るテロ問題専門家のペーター・ノイマン教授はドイツ民間ニュース専門局NTVとのインタビューで「米軍とイスラエルのイラン攻撃に反発するイスラム教過激テロ組織のテロ事件が世界的に多発することが十分予想される」と警戒を呼び掛けている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年6月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。