タイDTVビザは稼ぐ能力のある人を外国から呼び込む戦略的なビザだ

外国に住むためには、長期ビザが必要

日本のパスポートがあれば、ビザ無しで観光旅行に行くことができる国が多いので、ビザの必要性を忘れがちですが、「住む」となると、ビザが必要になってきます。

海外に住む日本人が取っているビザで最も一般的なものは、就労ビザでしょう。外国で働く目的で取得するビザです。私も、香港の法律事務所で働いていた頃は、こうした就労ビザを取っていました。

しかし、このビザを取るためには、勤務先が必要になります。住みたい国に、ちょうどよく自分を雇ってくれる会社があれば良いのですが、そう都合よくはいきません。

そうすると、自分で会社を作り、株主・取締役として住むためのビザを取るという方法をとることになります。

しかし、現地の人を何人雇わなくてはいけない等の規制があることもあります。また、そうでなくても、会社の会計や納税が必要になるので、少々面倒です。

不動産投資をすればビザを取れる国もある

実は、会社の会計や納税といった面倒が不要なビザもあります。

その代表が、いくら以上の不動産投資をすれば取得できるというようなビザです。地中海の島国であるキプロスや、世界から富裕層を集めようとしている中東のドバイが、こうしたビザを発行しています。

富裕層を集めたい、自国の不動産市場を活性化したいという意図が明確なビザだと言えます。

お金を出せば買えるビザ

さらに、不動産を買うという手間すら不要で、お金を払えばビザを取れるというビザもあります。その有名な例が、タイの「タイランド・プリビレッジ」(旧タイランド・エリート)です。

タイランド・プリビレッジには、いくつかの種類がありますが、最もスタンダードなものだと、5年間有効のビザを90万バーツ(約405万円)で購入することができます。

タイは日本人が非常に多く住んでいる国で、とくに首都バンコクには5万人を超える日本人が住んでいます。タイには日系企業の工場が多く就労ビザで住んでいる方が非常に多いですが、駐在ではなく富裕層で移住して来ている人の場合、このタイランド・プリビレッジを購入して住んでいる方が多くいらっしゃいます。

このタイランド・プリビレッジは、富裕層をタイに呼び込みたい、という意図が明確なビザだと言えます。

各国でデジタルノマドビザが登場

近年、各国でデジタルノマドビザが登場しています。

デジタルノマドビザとは、インターネットが繋がっていればどこでも仕事をできる人が住むためのビザです。先ほどの不動産投資でとれるビザやタイプリビレッジと同様、このデジタルノマドビザにも明確な意図があります。

まず、①デジタルノマドと言われる人達の多くが若い技術者ですが、こうした人達に住んでもらい、自国で消費・投資をして欲しいということです。また、②デジタルノマドが住むことによって、自国の産業などへの好影響も期待しているでしょう。さらに、③普通の労働者とは違って、自国の労働者の仕事を奪うことは無いという理由も大きいでしょう。

こうした理由から、韓国、マレーシアなど各国でデジタルノマドビザが登場しています。

タイDTV登場

そんな中、2024年7月、タイでDTV(Destination Thailand Visa)が登場しました。

このDTVは、DTVでタイに居住しながら外国企業向けに仕事することができることを明言しているビザであり、いわゆるデジタルノマドビザです。

ちなみに、タイ国内でムエタイやタイ料理を学ぶ人もDTVを取得できるというのが、タイらしくユニークです。

フリーランスで得た報酬、日本でもタイでも非課税にできる?

ここで気になるのは、タイ在住のフリーランスとして得た報酬にかかる税金です。

現行のタイの税法上、タイの国内で得られた所得についてはタイの所得税が課されますが、タイの国外で得られた所得でタイに持ち込まれていないものには、所得税は課されません。

そして、DTVを使ってタイに居住しているウェブマーケターが、日本の会社から委託されて仕事を行い日本企業から得た報酬は、一般的に、タイ国外所得と考えられており、そうすると、タイに持ち込まない限りは課税されません。

 

さらに、タイ国外のタックスヘイブン(低税率国・地域)に法人を作っておくと、明確にその国・地域の所得と言いやすくなります。

たとえば、法人所得200万香港ドル(約4000万円)まで税率8.25%の香港に法人を設立し、その香港法人でウェブマーケティング報酬を受領する、という方法が考えられるでしょう。

こうした方法により、DTVを使ってタイに住みながら仕事をして得た所得について、ほぼ非課税とすることができます。(この章では、複雑な箇所をかなり端折って説明しました。)

DTVビザはすぐに取れるうえに、激安

ここまで、DTVのメリットを述べてきましたが、残る問題は、取得に向けたハードルの高さ(取得までの期間、費用)です。

たとえば、マレーシアのデジタルノマドビザの場合、公式ウェブサイトには申請から許可まで1か月と書かれていますが、実際には4か月以上かかることが少なくありません。ですから、一刻も早く海外移住して節税したいと思っても、簡単に移住できないでしょう。

お金を出して購入するタイプリビレッジは、比較的速やかに取得できますが、それでも申請から1か月はかかります。

しかし、DTVは申請から許可まで半月以内という超高速で取得できるのです。

一方の費用ですが、タイ移住者の王道だったタイプリビレッジ5年用ビザの場合、90万バーツ(約405万円)を払って買うビザです。

しかし、このDTVは5年有効ビザ取得の政府費用が52,000円という激安価格です。申請サポート業者に依頼したとしても、20万円程度で取れてしまうのです。

こうしたハードルの低さも、海外移住の新しい王道ビザとされる所以でしょう。

DTVが向いている職業は?

ここまで見てきたように、DTVの特徴は、四点です。

1.移住先のタイで仕事をすることができる。
2.所得にほぼ課税されない。
3.すぐに取得できる。
4.安く取得できる。

この特徴が一番当てはまるのは、インターネットが繋がっていればどこでも仕事をできるフリーランスや、法人を設立して少人数で仕事をしている、「スモールビジネス」のオーナー経営者でしょう。彼らこそ、タイが最も来て欲しい人材です。

また、海外移住で節税したい暗号資産投資家の場合、日本で税制が変わる前に急いで移住する必要がありそうです。彼らにも最適なビザと言えそうです。

2024年7月の登場から1年も経っていないものの、DTVは必要書類などが頻繁に変更されていることから、取得できるうちに取得してしまうほうがいいかもしれません。

この記事の筆者、OWL Investments 代表取締役・弁護士の小峰孝史が執筆した「富裕層3.0 日本脱出」。

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