スマホが人生から奪った4つのもの

黒坂岳央です。

「今からスマホがない生活ができるか?」と問われるとほとんどの人は「NO」と回答するだろう。スマホは「便利な道具」という枠を抜け出し、もはや「人生の中心」だという人も少なくない。

スマホが人生に与えたものは多いと考える人がいる一方で、筆者は「むしろ失ったものも少なくない」と考えている。この記事ではその問題点を掘り下げていく

smartboy10/iStock

スマホが人生から奪った4つのもの

それでは具体的にどのようなものを奪ったかを書いていく。

1. 集中力

2015年のカナダのMicrosoftの研究チームの発表によると、「人の集中力は8秒間で金魚以下」とある。実際、YouTubeの動画広告やサイトの僅かな読み込み時間すら待てない人は非常に多い。この研究からすでに10年が経過しているので、今はさらに悪化している可能性が高い。

スマホで短尺動画やSNS投稿を見てドーパミンを出す生活を続けると、脳は「手っ取り早く気持ちよくなりたい」という行動に最適化されるようになる。特に短尺動画の消化は受動的な娯楽であり、脳にとっては楽な作業だ。そうなるとクリエイター側も「最初の数秒間で脳を強く刺激する」ということに熱心になり、それに慣らされた現代人はますます忍耐力を失うことになる。

昨今、「◯◯離れ」といった従来のエンタメから距離を置く人が増えたが、筆者は可処分所得や時間がなくなったというより「脳が長尺コンテンツを楽しめなくなったから」と思っている。電車に乗れば誰もが無言でスマホをスワイプしており、専門書で勉強をするような人は随分減ってしまった。

2. 待つことへの耐性

現代人は「何もせずに待つ」ということが非常に難しくなったと思っている。

少しでも暇があればスマホを開いて脳を刺激する。トイレにさえスマホを持ち込む、という人は近年急増しただろう。ガラケー時代はそこまで多くはいなかったはずだ。

それだけならまだいいが、問題はここからだ。待つことができなければ、長期的に努力を積み上げて達成感を得るという人生の楽しみ方が非常に難しくなる。

勉強や仕事といった活動は長期的な取り組みだ。そうすることで、数日では到底成し遂げられなかった人生の大きなプロジェクトである。だがスマホでこれが破壊されると、すぐ結論が出る活動以外にできなくなる。そうなれば人生は一切拡張せず、時代は変化し自己研鑽意欲の高い人との格差要因になってしまう。

3. スキマ時間

スマホはいつでもどこでも好きな時に好きなだけ使える。そのことによって、「何もしない空き時間=悪」と考える人が増えたように思う。結果、スキマ時間をスマホで塗りつぶすようになった。

これの何が悪いのか?脳はデフォルトモード・ネットワークといって、何もしない時間に記憶の整理や発想をする。脳を働かせた後は何もしない時間を作ることで、バックグラウンド処理をさせることが必要だ。

しかし、本来脳の処理をさせる時間にSNSやニュース、動画のインプットをするとその作業ができなくなる。すでに仕事や勉強で脳はクタクタに疲れているのに、無理やり働かせることになるのでパフォーマンスも低い。

筆者はスマホは仕事以外では使わないようにし、代わりにPCを使う。意識して外部からの情報入力をしない空き時間を作ることで、仕事のアイデアが降臨することはよくある。いつも画期的なアイデアは仕事が終わった後にウォーキング中や、車の運転中に降りてくる事が多い。

脳のバックグラウンド処理をじゃまするべきではないだろう。

4. リアルなコミュニケーション

人間は本来、他者とのコミュニケーションなしには生きていくことは難しい。ところがSNSにいけばうじゃうじゃと人がいるので擬似的なコミュニケーションで満足する。それにより、リアルな人間関係が希薄なってしまったという弊害もあると思っている。

たとえば飲食店や旅行先へ行くとわかるが、友達と思しき相手が目の前にいるのにスマホをポチポチ触る人が少なくない。食事が運ばれてくれば写真を撮り、SNSに投稿する。他人をじっくり観察するわけにはいかないが、SNSでこうした投稿が多いことを見れば分かる。つまり、彼らはリアルの友達と一緒にいても、意識はオンラインにいるのだ。

これは自分自身、えらそうなことをいえず反省しなければいけないと思っている。筆者の場合はスマホではないが、記事や動画発信を通じて毎日ネット上でたくさんコミュニケーションを取っているので「寂しい、誰かといたい」という感覚がまったくない。少なくとも独立してからは「さみしい」と感じた瞬間はまったく記憶にない。

元々、一匹狼気質で昔から一人行動が多かったというのもあるが、「自分から連絡をして直接人と会う」というのは家族を除いてもう何年もない。オンラインのやり取りで心が満足しているのだろう。

仕事でメディア出演をしたり、子供の学校や保護者といったコミュニケーション相手はいるので、毎日必ず家族以外の人間とも会話はする。だが、インターネットがない時期は自分から連絡を取って、もっと直接人と会ったり、遊んだり会話していたように思う。

スマホデトックスは必須

元々がPCのヘビーユーザーというのもあり、スマホは仕事や勉強以外では使わないようにしている。その気になればいくらでも楽しめることは知っているが、それをやり始めるとたくさん失うものがあることを肌感覚でわかっているから意識して距離を置くようにしている。さらに筆者のスマホには仕事や勉強関係のアプリしか入れていない。

デジタル機器を使えるということは現代社会の必須スキルのひとつなので、すべてをアナログで頑張ることもまた非効率になる。だからスマホを完全に排除することは難しいが、やりすぎると人生で失うものも多くなるという難しい舵取りを迫られるのが現代社会だ。

個人的に最も理想的なのが「デジタルごとはPCを使う」ということだと思っている。これなら机の前にいる時しか触らないで済む。PC以外の時間はそれ以外の活動に集中できる。せっかく旅行先にいるのに、SNSに意識が向くのは非常にもったいないことだ。だが、PC使いならこの問題は起きない。ゆえにデジタル機器とのちょうどいい距離感になる。

筆者は早朝から夕方まで仕事をしているが、夕方以降はほとんどオンラインにいない。家事や子供たちとの時間に集中するためだ。やはり人生になるべくスマホは持ち込みたくないと感じてしまう。

誰もがスマホを使う時代、あえて「使わない選択」を取ることも重要になったのだ。

 

■最新刊絶賛発売中!

[黒坂 岳央]のスキマ時間・1万円で始められる リスクをとらない起業術 (大和出版)

アバター画像
働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。