「不法難民の強制送還」求める内相会合

ドイツ南部バイエルン州のツークシュピッツェ山(標高2962m)で18日、ドイツ、オーストリア、フランス、ポーランド、デンマーク、チェコの各国の内相が集い、会合後、移民政策で欧州連合(EU)により強硬姿勢を求める共同声明(5頁)が発表された。

ドイツ・バイエルン州で開催された内相会合の参加者たち ドイツ連邦内務省公式サイトから 2025年7月18日

同会合には、ホスト国ドイツからドブリント内相、オーストリアのカルナー内相、フランスのリテールロー内相、ポーランドのシエモニアク内相、チェコのラクーサン内相、そしてデンマークの移民大臣で現EU理事会議長のカール・ディブヴァド・ベック内相らが参加した。

欧州6カ国の内相会合の焦点は、シリアとアフガニスタンへの不法難民の強制送還やEU域外国境の警備強化などだ。ドイツ内務省のHPによると、「会議の目的は、より厳格な欧州移民政策に重要な推進力を与え、欧州における移民を管理するための議題を提示することだ」という。

同会合にはEUからブルンナー移民担当委員が参加した。同委員は「EUは、2028年から2034年までの多年度財政枠組みにおいて、不法移民対策への資金を3倍に増額する計画だ。7年間で総額810億ユーロが計上されている。これは明確なシグナルだ」(オーストリア国営放送ORFのHPから)と述べている。

共同声明の中では、「EUの移民政策への包括的なアプローチの一環として、私たちは以下の優先事項と主要な行動について共通の理解に合意した」と述べ、①移民改革を将来に適合させる、②密輸と人身売買に対する対策を強化する、③強制送還を一貫として実施する、④EU域外の国境保護の強化、⑤第三国との戦略的パートナーシップの構築、等の優先事項を明記。最後は「透明性、連帯、そして相互責任に基づく共通のアプローチを通じてのみ、負担を軽減し、社会を守り、移民制度の完全性を維持することができる。私たちは、この共同声明に示された優先事項と提案を、EUの関係機関やフォーラムに提示し、今後の欧州の決定やイニシアチブに主流化することを目指す」と宣言している。

「ツークシュピッツェ会合」に先立ち、ドイツは18日の朝、アフガニスタンの犯罪者81人を、過激派イスラム組織タリバンが支配する母国へ強制送還した。ドイツからアフガンへの送還は、タリバンが2021年に実権を握って以降、昨年8月に続いて2度目。「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)の現連立政権下では初めてだ。

メルツ政権は、不法移民対策の強化を看板政策に掲げてきた。今回の強制送還は、カタール首長国との戦略的安全保障パートナーシップの支援を受けて実施された。ドブリント内相は「犯罪者を乗せたアフガニスタンへの送還を新たに手配することに成功した。アフガニスタンへの送還は、今後も安全に実施されなければならない。わが国には、重大犯罪者は居住権がない」と述べた。送還対象者は、法的に国外退去を義務付けられているアフガニスタン人男性だ。

ちなみに、オーストリアは昨年12月、シリア難民の帰還を支援するため、帰国希望者に1,000ユーロの「帰国ボーナス」を提供することを発表した。これは、シリア情勢が変化したことを受け、難民の自発的な帰還を促すための措置だ。カルナー内相は「シリアへの個別送還を継続する。強制送還は行わないが、犯罪者や脅威となる人物は送還しなければならない」と述べている。なお、カルナ―氏はオーストリアのメディアに対して、「ツークシュピッツェ会合は欧州が難民政策においてより厳格になっているという重要なシグナルを送ることになる」と説明し、会合を評価した。

一方、トゥルク国連人権高等弁務官はアフガニスタンへの強制送還について、「すべてのアフガニスタン難民と庇護希望者、特に帰還後に迫害、恣意的な拘禁、拷問を受けている人々の強制送還を即時停止する」ように求めた。また、「国境なき医師団」(MSF)は「欧州は人道の原則から逸脱し、責任を第三者に委ねてはならない」とドイツのアフガン難民の強制送還を批判した。

欧州では難民、移民問題が大きな政治、社会問題となっている。中東・北アフリカのイスラム教圏出身の難民が2015年、100万人以上、欧州に殺到して以来、不法な難民対策が欧州で大きな課題となってきた。欧州の政界が右傾化してきたといわれるが、その背景には、増加する難民問題があるといわれる。

欧州に殺到する移民・難民対策の一環としてEUの欧州委員会は4月16日、難民申請手続きを迅速に処理するために「安全な出身国リスト」を作成した。そしてドイツでの最高峰のツークシュピッツェ山での6カ国内相会合では、不法難民の強制送還の実施が大きなテーマだった。欧州に至る道はここにきて次第に狭き門となってきた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年7月日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。