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参議院京都選挙区では、自民党の西田昌司候補を落選させることを狙い、北陸新幹線反対の論点が取り上げられ、共産党などもこれに同調した。しかし、自民党の元京都府議であり三年前の選挙で引退した二之湯智・元参議院議員の子息である二之湯元京都府議が、自民党を離党し西田の刺客として立候補した。
私は選挙戦序盤の7月6日に、「財政問題は条件闘争として理解可能だが、市長選でもほとんど言及されなかった地下水問題を共産党の主張に乗る形で取り上げるのはおかしい」と投稿した。また、京都府・市が京都市内を大深度地下で東西に横断し、京都駅にリニア新幹線を誘致しようとしていることと矛盾していると指摘した。
この投稿に対し、二之湯氏本人から質問をいただき、私はこれに回答した。これを契機として、北陸新幹線のみならず、リニア新幹線や空港といった京都の高速交通網全体について述べておきたい。なぜなら、政治家を含む関係者の多くが過去の経緯を十分に把握していないからである。
私が二之湯氏を厳しく批判した理由は、氏が昨年の市長選で新幹線問題を取り上げた際には財政問題を主にしていたのに、今回の選挙では「自然・文化・財政を破壊する地下トンネルは撤回」と地下水問題などに軸足を移している点にある。
財政問題は条件闘争として成立しうるが、地下水問題を持ち出すことは京都自身の交通や防災対策に支障をきたす。また、全国各地で情緒的にトンネル工事が中止されることにもつながる。
特に京都府・市は、リニア新幹線を京都市内の大深度地下で横断させ、京都駅を通るルートを国に要望している。北陸新幹線は地下水のためにダメで、リニア新幹線は問題ないとするのは、理屈が破綻している。二之湯氏は「自民党府議であったにもかかわらずリニアに賛成したことはない」と述べているが、府の方針に反対した事実は聞いていない。
加えて、二之湯氏は市長選では米原ルートを支持する姿勢を示唆していたが、今回の選挙では府北部ルートに転じた点も不可解である。
ここで三枚の画像を上げて解説する。
リニア新幹線
北陸新幹線とあわせて議論すべきは、リニア新幹線である。当初、中央新幹線は奈良を通るAルートとして構想されていた。しかし、リニア方式を採用することになった結果、東西のメインルートとなるため、「京都を通らないのはおかしい」との声が上がった。そこで京都府・市などが正式に要望しているのが、京都駅を通るBルートである。これは京都市を東西に大深度地下で横断する計画である。
仮に大深度地下でも地下水脈を断つというのであれば、東西横断が許容されて縦断が許容されないという理屈は破綻している。二之湯氏は「賛成した記憶はない」と言い、別の府議は「Dルートを実現するためのダミー」と言うが、これらは真摯な議論とは思えない。
なお、三重県は亀山への駅設置を希望しているため、そこは通過が前提となる。しかしその場合、奈良県を説得するのは困難である。そこで私が提案しているのがCルートである。これは京田辺を想定したもので、同地ではJR学園都市線と近鉄京都線が500メートルほどしか離れていない。この場所に駅を設ければ、近鉄を活用して京都市内や奈良県各地へのアクセスが格段に向上する。
また、近鉄特急を国際会館まで延伸すれば、洛北地域から新京都・奈良駅までスムーズに移動できる。京田辺が適地であるもう一つの理由は、京都と奈良の中間地点である点である。このルートでは、伊賀・甲賀の中間に駅を設けたい。ここはかつての首都機能移転候補地、畿央高原である。
さらに、精華町の学研都市周辺への設置も一案である。奈良市の郊外に位置するが、京都からもアクセスが良好という発想である。
北陸新幹線
北陸新幹線のルートについては、複数案が検討されてきたが、あまりにも不確かな情報が飛び交っている。現在の案は右上のA案で、これが基本路線とされ、京都市内の通し方については専門家グループによって検討が進められ、緑の桂川駅案と赤の京都駅案の2案に絞られている。
桂川案では東海道新幹線との乗り換えができないが、現実的にはこの案が採用されると見られる。一方で、当面は米原での乗り換えとし、将来的に亀岡に新京都駅を設けて市内には乗り入れないという案もある。リニア開通後に東海道新幹線と接続するというのがB案である。
また、四方源太郎府議の案はC案と見られる。これは小浜→舞鶴→福知山→篠山→新大阪という経路であり、北陸の利用者からすると大回りになる点が問題である。
私は、現行案を変更するのであれば、まず福井県の同意を得るべきと考える。そのうえで革命的な案としてE案を提示する。
私は、従来の新幹線方式ではなく、山形新幹線のようにスピードをある程度犠牲にしても駅を多く設け、在来線的な利便性を併用する方式こそが地方に利益をもたらすと主張してきた。私のE案では、敦賀→三方→小浜南方→朽木→途中→大津京→六地蔵→城陽→松井→新大阪という経路であり、さらに米原から近江鉄道ルートで貴生川→城陽→松井という別案も併記している。
E案では京都市内をほとんど通らないが、大津京(京阪京津線の延伸で東西線直通可)、六地蔵、城陽、松井といった多様なターミナルに分散して京都にアクセス可能となる。
さらに小浜から舞鶴方面へ準新幹線の支線を延ばし、新山陰本線へ昇格させるという構想も視野に入れている。
京都・滋賀空港
京都は世界的な観光都市であるにもかかわらず、空港を持たない。過去に空港構想がなかったわけではない。私の記憶する限りでは、いくつかの案が存在していた。
例えば、ボローニャの都市設計を参考にする声があり、同地では都心から少し離れた場所に高速道路や国際空港が整備されている。これに倣い、京都では鳥羽地区や巨椋池干拓地、木津町周辺が候補に挙がっていた。
また、滋賀県では守山市・木之浜、彦根市長の井伊直愛氏が主張した大中之湖などもあった。その後、湖東地域に琵琶湖空港案が浮上したが、環境問題と京都からの距離の問題で頓挫した。
さらに、第二名神高速道路沿いに近い音羽山が検討されたこともある。天野光三氏は、音羽山の山頂を削って空港とし、醍醐から地下鉄支線を延ばしてエレベーターで接続するという大構想を私に語られたことがある。これはリニア北陸新幹線の駅を醍醐に設置する案とも連動していた。
地形的には田上山、紫香楽宮跡のある勅旨、土山の西のゴルフ場周辺が適地とされる。また、畿央高原については首都機能移転候補地であるとともに、小規模空港の設置も検討された。
「京都に空港は不要」とする意見もあるが、リニア新幹線の通過が実現しなければ、空港がないことを悔やむことになるだろう。防災上も空港は有用である。ただし、「どうしても」でなければ進まないのが京都の悪いところである。