参院選は大方の予想通り石破自民の惨敗で幕を閉じた。先の総裁選で味噌を付けた進次郎氏を農水相に引っ張り出しての備蓄米2千円作戦で一瞬上がり目もあった。が、所詮は目先の弥縫策、安ければ良い訳でないのは当たり前で、直ぐに上がった生産者の悲鳴にかき消された。となれば、昨秋の衆院選、先般の都議選と大敗を続けた「自民」に好材料がないのだから、首相自身、これが玉砕戦となると知っての選挙だったはず。
玉砕戦ならば、ペリリュー島の中川州男中将や硫黄島の栗林忠道大将の例を引くまでもなく、最後は隊長自らが潔く散って戦いが終わることを、小室直樹博士の著書に「蒙を啓かれた」と記す石破なら疾くご存じだろう。が、一夜明けて「比較第一党としての責任、そして、国家国民に対する責任を果たしていかねばならない」との詭弁を弄した。国民の期待をまた裏切る魂胆らしい。
自身の辞書に「廉恥」の二文字を持たない石破氏は、「公明以外の他党とも真摯な議論を通じ、国難を打破できる新たな政治の在り方について一致点を見いだしたい」としつつ、「ここから先はいばらの道だ」と宣うた。石破氏が語った、たった二つ三つのセンテンスだが、使われている語を含めて、そこには飛んでもない思い違いが垣間見える。
NHKより
確かに「自民」は「比較第一党」に選ばれた。が、比例の得票率は21.6%(12.8百万票)に過ぎず(以下、「国民」12.9%、「参政」・「立憲」12.5%)、34.4%(18.3百万票)だった前回から12.8ポイント(5.5百万票)減少、選挙区を含めた議席数は13も減った。昨秋の衆院選の▲56議席と併せ、総裁就任後1年も経たないうちに、石破氏は2度の国政選挙で「自民」の勢力を69議席も削いだのだ。
有権者は「自民」に「比較第一党としての責任」を求めこそすれ、石破氏には決して求めていない。それは、候補者が石破氏の応援演説を断ったり、ポスターの石破氏の顔を隠したり、との報道で明らかだ。岸田・石破と続いたリベラル総裁に粉砕された安倍支持層・・国政選挙6連覇の原動力・・の行き場のない票が「参政」や「保守」に投じられたとの分析すらできないなら、それこそ「自民」に未来はない。
野党と「国難を打破できる新たな政治の在り方について一致点を見いだしたい」と言うが、ならば先の国会期間中一体何をしてきたのか。「自民」を衆院で少数与党に陥らせたから、野党に諸々妥協せざるを得なかったのではなかったか。更にこの上、政策が「自民」のそれよりも国民に支持されていないからこそ、今般「比較第二党」以下に甘んじた野党の政策を飲み続けるというのか。
とすれば、「いばらの道」を歩むのは「自民」を「比較第一党」に選んだ国民であって、断じて「自民」ではない。国民にしてみれば、選挙で選ばなかった「比較第二党以下の野党」の政策をやられた日には、それこそ堪らないのである(本欄の賢明な読者はお気付きと思うが、この論は石破氏の屁理屈に対し、筆者が屁理屈を述べたのであって、結果は自民の政策が支持されていないことを示している)。
いずれにせよ、野党と「新たな政治の在り方について一致点を見いだしたい」と言うなら、さっさと下野し、野党に政権を担わせれば良いのである。政権に恋々とするのは見苦しい。
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石破氏は対米関税交渉についても、「8月1日の新たな節目も念頭に、関税でなく投資という考え方を基盤に日米双方にとって利益となる合意を実現する」と述べた。そこで最後に、この交渉が上手くいくはずがないことを予感させた、石破政権の当初の誤った方針について述べる。
それは「安全保障」と「日鉄によるUSスチール(USS)買収」という二つの問題を、石破政権が当初から「関税交渉と切り離す」方針を採ったことだ。筆者にいわせれば、この二つの問題こそが、目下の「日米双方にとって利益になる合意」そのものなのである。
「人vs.人」であろうと、「会社vs.会社」であろうと、「国家vs.国家」であろうと、結果が「0対100」になるような一方的な交渉が成立することはあり得ない。成立するのは、双方が「自分の方が得をした」と思える条件の場合だけだ。そんな条件は一見、あり得ないように思える。が、あり得るからこそ、日々、世界中で様々な取引が成立しているのである。
似た者同士でも上手くいくだろう。が、自分にないものを相手に求める付き合いも長続きする。「割れ鍋に綴じ蓋」というではないか。傍(他社)からは割れてない様に見える鍋(自社)は、割れているとの自覚があるから、綴じ蓋(他社)を探し求める。そして、求められた側の鍋が割れていなければ、綴じ蓋は要らない。この場合、取引が成立する。日鉄のUSS買収が真にそうであるように。
安全保障問題で日本は残念ながら「割れ鍋」だ。だから日米安保条約による米国の核の傘(=綴じ蓋)が必要なのである。日米両軍が合同して緩急に備えるには、防衛装備品(武器)が日米共通でなければ役に立たない。まして学術会議は異様にも日本の武器研究を阻んで来た。この分野で日本は、多くを米国から購入するしかない。
だのに、石破氏は4月21日の衆院予算員会で、「(関税交渉と)安全保障の問題をリンクさせて考えるべきだと思っていない。分けて議論していかないと事の本質がおかしくなる」と述べた。が、そもそもそんな手の内を予算委員会で見せるなど烏滸の沙汰だ。4月19日の『時事通信』は、「(思いやり予算の増額が)関税協議の『交渉材料』とされることへの警戒感が日本側にある」と報じていた。
が、NATO加盟国とトランプとのやり取りで判る通り、関税交渉があろうとなかろうと安保条約がある以上、日本はこの問題を避けて通れない。であるなら、先手を打って積極的に米国から必要な武器を買えば良いし、返す刀で「核ミサイル付き原潜の購入」を申し出れば良いのだ。それさえあれば、米軍の駐留は最低限で済むはずで、真に「割れ鍋に綴じ蓋」なのである。
そして「日鉄のUSS買収」。7月17日の『日経』の特集「USスチール攻防550日(3)」は、こう書き出されている。
「民間の話だから(政府は)表に出ないです。」日本製鉄がUSSの買収を発表した2023年12月、日本政府は内部で方針を確認した。経済官庁幹部は「日鉄が日本政府と結託している、と誤解されれば買収実現に得策ではないと考えた」と語る。
岸田首相も24年4月、バイデン大統領との会談を前に「(買収は)首脳会談で扱われるものではないと距離を置く姿勢を鮮明にした。
この記事を読んで筆者は、官僚や政治家はここまで浮世離れしているか、と落胆した。米国はバイデンが早々と反対を表明し、トランプもそれに追随していた。相手の政府が口出ししているのに、「日鉄が日本政府と結託して」何が悪いのか。むしろ、日本政府と日鉄が一体となってこの問題を進めていることを、強くアピールすべきではないのか。
経産官僚も岸田官邸も、このディールの本質への理解が足りなかったのではなかったか。つまり、日鉄によるUSS買収が、米国にどれほど大きな恩恵をもたらすのか、ということに対する理解、というより「確信」を持っていなかったのではないか、という疑念が筆者にはある。が、幸いにも民間企業の日鉄はその「確信」に満ちていた。そしてディールは成った。
筆者はトランプが実業家出身であったことが大きいと思う。「黄金株」も日鉄からの提案だった。一旦取り込んでしまえば、米政府が下手に「黄金株」を使うと新USSのためにならない場合があることをトランプも熟知し、それを橋本日鉄会長も見切った上でのことと思う。日鉄といいトヨタといい、超一流の日本企業の頭脳は素晴らしい。
関税交渉に係る米国の布陣を見れば、トランプ大統領以下、ベッセント財務長官もラトニック商務長官も、ついこの間まで民間で巨万の富を築いていた実業家だ。そういう人物らを相手に、石破氏や官僚上がりの赤沢氏が太刀打ちできるはずがない。だから、当初から「安保」と「USS買収」を切り離す、などという「あんぽんたん」をやってしまう。
自民党は明日(22日)にでも両院議員総会を開き、石破氏を降ろして総裁選を行い、高市総裁を中心に、萩生田・西村・世耕の旧安倍派三人衆、交渉力のある茂木氏、若手のコバホークなどを加えた挙党体制を築くべきだ。その上で、これに国民と公明、望むなら維新の一部や参政を加え、憲法改正と皇統の永続を柱に据えた挙国一致の保守内閣を作るのだ。さもないと、石破自民と共に日本が壊れる。