インボイス制度導入で税務調査が変わったところ、変わらないところ

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インボイス制度導入後の税務調査は実際のところどう変わったの?

令和5年10月からインボイス制度が本格的にスタートしてもう2年近くが経過しました。

制度導入前は「インボイス制度導入で、税務調査が厳しくなる?」「適格請求書の保存ができていないと追徴課税がされる」といった不安の声が多く聞かれましたが、実際のところ税務調査の現場ではどのような変化があったのでしょうか。

今回は、週刊税務通信(No.3859号)での国税庁のインボイス担当者へのインタビューと、実際の私の経験も踏まえながら、詳しく解説していきたいと思います。

インボイス制度導入後も、「柔軟な対応」を継続

導入前の時点で、インボイス制度についての税務調査の対応は、「従来から不正計算が想定される調査必要度の高い納税者を中心に実施しており、請求書等の保存書類の記載事項の不備を目的とした税務調査は行っていない」とした上で、「当面は、制度の定着を優先して柔軟な対応をする」と国税庁は公表していました。

では、インボイス制度導入から2年近くが経過し、実際にどのような対応をしていたのでしょうか?

国税庁は、当初の通り、インボイス制度の定着を重視した柔軟な対応を継続したとしています。

この「柔軟な対応」とは具体的には、どのようなものを指すのでしょうか?

適格請求書の形式に多少の不備があったとしても、取引の実態が確認でき、消費税の計算に大きな影響がない範囲であれば直ちに仕入税額控除を否認するのではなく、指導にとどめるケースが多いということを意味しています。

ぶっちゃけた話、仮に免税事業者からの仕入れ等について、全額消費税の控除がされていたとしても、「ここが間違っていました。次からは注意してください」という指導に留めることが多いのではないかと。

このあたりは、他に修正すべき事項がどれだけあるのかによるとは思いますが。

これは、インボイス制度より4年前に導入された軽減税率についても、未だに計算誤りがあっても指導にとどめるという取り扱いがされること多いことから、当面このような対応が継続される可能性が高いと言えるでしょう。

しかし、それも、インボイス制度導入から3年間は、適格請求書発行事業者以外からの仕入れ等についても、経過措置として消費税相当額の8割の控除が認められていることも大きく起因していると思われます。

つまり、間違っていたとしても、追徴税額がせいぜい消費税額の2割なら、指導にとどめても良いだろうという判断だということです。

ですが、令和8年10月以降は、その経過措置は、消費税相当額の5割の控除に縮減がされます。

そうなると、指摘による追徴税額は消費税額の5割となることから、その期間以降の申告からは、いよいよ、指導だけではなく、修正を求められるケースも出てくるのではないかと思われます。

実際にインボイス関連で修正を求められたことはあるのか?

インボイス制度導入後の期間についての税務調査であっても、今のところ、インボイスの記載不備だけでなく、免税事業者からの仕入れについて確認がされ、修正をすべきとの指摘を受けたことはありません。

しかし、税務調査ではなく、還付申告の机上調査の段階では、すでにインボイスの経理処理の誤りについて指摘を受けたことがあります。

還付申告をする際には、還付明細書だけではなく、その計算根拠となった勘定科目別消費税明細書や還付の原因となった設備投資や仕入れ、外注費などの請求書の提示を求められます。

その中に、外注費への支払先で、適格請求書発行事業者に登録前の期間についても全額消費税が控除されているのを「申告内容を見直してほしい」との指摘を受けたのです。

こちらは、税務調査でもありませんし、そもそも還付額が減額されるだけなので、ペナルティはないのですが、還付については、かなりその内容についてシビアに確認はされるのは、インボイス以前から同じ。

その還付申告についての確認項目の中に、支払先がインボイスの適格請求書発行事業者であるのかも含まれるということです。

税務署が厳しく見るのはインボイスよりも不正還付であることは変わらない

一方で、輸出免税制度等を悪用した不正還付事案や納税圧縮事案などの不正計算については、厳正かつ重点的に対処する方針も同時に示されています。

消費税不正還付に関する事例としては、実際よりも高額な商品を輸出していたかのような輸出申告書を作成したり、架空の免税売上げと架空の課税仕入れを計上する方法により、多額の不正還付を受けようとしていたケースが多く見られます。

そのため、真っ当な輸出取引による還付であったとしても、

■ 輸出取引に係る資料

・商品送り状(インボイス)
・輸出許可通知書
・EMSラベル
・売上代金を受領したことのわかる通帳のコピー
・総勘定元帳(輸出売上)

■ 上記の仕入れ取引の資料

・納品書
・請求書
・買い取り承諾書
・支払いのわかる預金通帳のコピー
・総勘定元帳(商品仕入れ)

など、山ほど、資料の提供を求められます。

中には、実在しない者やペーパーカンパニーなどを利用した架空の国内仕入れを計上するものもあり、インボイス制度によって、こうした不正に対して一定の抑制が働くとされています。

要するに、まともな申告をしている事業者については、インボイスが導入された後も、あまり税務調査で変わることはないが、架空仕入れ計上などをしている悪質な脱税事案のあぶり出しにこのインボイスが活用される場面はあるということでしょうね。


編集部より:この記事は、税理士の吉澤大氏のブログ「あなたのファイナンス用心棒」(2025年7月24日エントリー)より転載させていただきました。